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『ピンクの口紅』



  「人はね、春の中に生まれてくる子もいれば、夏に生まれる子もいる…。生まれていきなり

   人生の冬に投げ込まれる子もね。でもね、泣くことないよ。厳しい冬を越えたなら、きっと

   春がくる。そして、どんな誰よりも、春を喜ぶ人になれるのだからね」

  シスター・オルネッラはそう言って、太い腕でボクを包み込むように抱きしめてくれた。

  その後、ボクがハワイの教会孤児院に送り届けられたとき、その言葉はTシャツのすそに

  サインペンで書かれていて、それを見つけた人々の感動を誘ったという。



★ ねぇ、Lilinoe・・・覚えてる? ボクを選んだときのこと。

  ボクは良く覚えているよ。だって、その日はリリノエの誕生日だったから、おじいちゃんに、

  黒の生地に桜の花びらの舞うムウムウを作ってもらったって、ナースたちに話していたでしょう? 

  ハワイ語で…。

  ボクはそのとき(桜の花びら)を見たのは初めてだったから、積み木で遊んでいたのも忘れて
 
  見とれてたんだ。リリノエが歩くたびに風が降るようで、桜の花びらがそれはそれはきれいだった。

  ボクはお道具箱から画用紙と木炭を取り出して、Lilinoeを描いた。白い画用紙に黒い木炭…。

  (桜色がほしいなぁ…)

  と思っていたら、いつのまにかリリノエが目の前にいた。そして、バッグから取り出した、

  ピンクのリップを差し出してくれた。ボクは何にも考えないで受け取って、小さな花びらを

  次々と桜色に染めていった。

  リリノエ…。ぜんぶ塗り終わったとき、ふしぎな質問をしたよね。
 
  「花びらは何個あったんだい?」

  『138個だけど・・・?』

  自分で色を塗っているのだもの、数なんて簡単に言えちゃう…。どうして聞いたのかな。

  ボクがリップのお礼を言って返したとき、Lilinoeはまた聞いたよね。
 
  「その絵はわたしを描いてくれたんだろう? 買いたいけど、いくらならいい? 

   ねぇ、小さい絵描きさん。いくらでもいいよ、あんたが決めておくれ」

  ・・・ ・・・ ・・・

★ 今思うと、弟さんがお医者さんだったから、心に病いをもっている人のこと

  リリノエはよく知っていた。普通のこどもは、描いた桜の花びらが138枚なんて

  わからない・・・らしい。

  リリノエは、Ryoの友達を探していたから、そんなテストをしてみたんだね。


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