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それは 突然のことだった。
隣の家の窓から 煙が出ていた。いきなり、ガラスを突き破って
足もとに ビデオカメラが 飛んできて転がる。
破れた窓から 中をのぞく。
正面に 2、3歳の女の子。フランス人形のように着飾って、テーブルの上には
ローソクが立てられた 小さなケーキ・・・。
女の子は 右手に マッチ箱を持っていて 左手には マッチを一本握っていた。
自分で・・・つけようとしたのか。
ソファーのクッションから 炎が上がっていた。
急に口の中がカラカラになった。「火事だ」と叫ぼうとしたが、のどがヒリヒリして
大きな声が出ない。
叫ぶより 女の子を助けることが先だ。
玄関から 入っている時間はない。開いている窓から手を伸ばせば、あの子なら
引っ張り出せる・・・。そう思った。
窓から両手を伸ばす。天井まで広がった炎に 驚いたのか、女の子は窓ぎわの壁に
背中をすり寄せて ふるえていた。
部屋の中に身を乗り出し 女の子の肩を引き寄せる。近づいたところで わきの下に
手を入れて、抱えるように窓の上に立たせた。
とにかく 歩道まで抱え、集まってきた近所のおばさんに その子を渡した。
ビデオカメラが勝手に 飛んでくるわけがない。まだ 部屋には誰かがいるはずだ。
カメラが落ちたところの窓から、部屋をのぞく。炎は天井をこがし、軒下から
吹き出すほどになっていた。
部屋のすみで 本棚が倒れていた。そして 女の人が 下敷きになっていた。
炎が迫っていた。中に入ることはもうできない。
(どうしたらいい? 助け出せない女の人に どう声をかければいいんだろう)
そんな想像とは反対に 両手は 植えたばかりのような 桜の若木に伸びていた。
それを引き抜き、窓を破って 木を女の人に伸ばした。
根が その人のほほに当たった。ぴくっと反応があって 自由がきく 右手が
その木をつかんだ。差し出された方向を見て 目と目があった。
「・・・さやかの・・・せいじゃないから
・・・さやかの・・・せいじゃないから!」
それは 絶叫だった。それで 力がつきたのだろう。つかまれていた若木は
いきなり離されて からだはその反動で 後ろに戻された。
芝生に転びながら 立とうとしたとき、消防車が到着した。しかし その前で
その子の家は 完全に炎に包まれていった。
どうして火事になったのか。どうして女の人は 本棚の下敷きになったのか。
なぜ 女の子は マッチを持っていたのか。どうして ソファーのクッションから
火が上がったのか。
窓を開けていたから 炎が 部屋の奥 本棚の方に広がったのは わかる。それに
「さやかのせいじゃないから」とは どういうことか。
「さやか」というのは 女の子の名前なのか。なぜ ビデオカメラを窓から
投げ飛ばしたのか・・・。
そんな疑問に頭を占領されながら 少年は 駆けてきた消防士に 芝生の上から
道路の反対側にまで抱きかかえられていった。
振り向くと 炎に包まれていた2階が崩れ落ち、1階のサンルームを破って 女の人の
いた 本棚の方に落ち込んでいった。
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