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・ ★ ケラーが引きちぎった 階段室の小さなドアの向こうで、2歳のRyoが ひざをかかえるように 眠っていた。
(まだ、眠たかった…ということなのか…。キッチンから上がってきて 5分もたっていないのに、 軽い寝息を立てている。けっこう大きな音で ドアを壊したのに、目を覚まさないのは
どういうことなんだ?)
近寄ると、Ryoが敷いているのは古いダンボールだった。いつも、ひざをかかえて眠っていたのか、 Ryoの小さなからだの通りに、ダンボールがくぼんでいた。
(娘の…ルイカと同じくらいだ・・・) しかし、その体重は、彼女の半分くらいしかないことを、ケラーは知っていた。かがんで その寝顔をのぞき込む。左の親指をしゃぶりながら、Ryoは寝ていた。
からだがかすかに震えている。
怖い夢でも見ているのか、ときおり まゆが悲しそうにゆがんだ。そのとき、ケラーの胸の奥から
(守ってやる!オレが守ってやる!) という思いが突きあがってきた。それは、自分でも驚くほどに 熱い衝撃だった。 いきなり抱き上げたせいか、Ryoは驚いて目を開けた。まっすぐにケラーを見ている。 寝ぼけた様子はない。最初から目覚めていたように しっかりとしたまなざしだった。
(男の子…だからなのか?) ケラーは父親の顔になっていた。 ルイカはいつも目覚めはぐずる。定まらない視点を 天井や窓にさまよわせて、座っていたベッドから 転げ落ちることもあった。転げ落ちたままのかっこうで 「アロハ…」を言う顔がかわいくて、
(それがおまえの目覚ましか) と笑ってしまうのだったが…。 (しかし、この子はルイカと違う) という当たり前のことを ケラーに教えたのは、Ryoの表情だった。驚いた顔で 自分を見ていたのに、 笑顔で (だいじょうぶか?)と聞くと、笑顔になった。
それは…驚くことじゃない。しかし、どうだ。 腕の中に抱きかかえてみると、くちびるが
かさかさに乾燥し、いくつもの ひび割れがあるのを発見した。だが、ケラーがふしぎに思ったのは
Ryoの表情だった。
(どういうことだ?)と 怪訝(けげん)な顔を 自分はしたのだろう。すぐRyoも、そんな表情をした。 試しにほほえんでみる。やはり、すぐにほほえんだ。怒った顔をする。Ryoはすぐに それを コピーした。 (なぜだ? この子は、オレの1秒前の顔を マネている…)。 ケラーはそれが何を意味するのか、わからなくて とまどった。 意識してか、無意識なのか、Ryoはみごとに ケラーと同じ表情で 自分を見つめていた。 |
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