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『虐待の家』



★  朝食の時間がかなり過ぎているのに、冷蔵庫を開けたわけでもない。
   (おなかがすいた)とも言わず、黙ってこの階段室にこの子は来た。
 
    なぜだ。水が飲みたければそう言うだろう。おなかがすいたなら、
  おなかがすいたと言うだろう。

   ルイカはそう言う。うるさいくらいに言うこともある。この子も、話せなくても、
  ほしい表情くらいはするだろう。それなのに、どうして(ほしい)と言わない? 
     もっとも、ケラーが調べた限りでは、冷蔵庫にあったのは、少しの野菜と、
     空になりかけたケチャップのビンだけだったのだが。

   ケラーは軽くほほえんで、(Mornin')と言ってみた。
     (Good morning, Mr...) 返事があった。
    
にごりのないクイーンズイングリッシュだった。

   「Aloha...O wai kou inoa?」  ときいてみる。
       『O LoaKolohe ko‘u inoa.』。
       (Loa Kolohe!)  うそだろう。そんな名前をつける親はいない。
        自分でつけられる年齢でもないから、そう呼ばれていたのか。
       『たちの悪いクソガキ』と…。

     Ryoを抱き上げたままでは、ドアのスペースは通れない。
 
         ケラーはRyoを下ろし、出るようにうながした。引きちぎられたドアに驚き、
      振り返ってケラーを見上げた。そのまま近寄ってきて、腕にさわってきた。

     2、3回さすりながら、にっこりとほほえんだ。かわいい笑顔だった。
      ブルーの瞳に、ケラーがくっきりと映るほど、それは鮮やかな色だった。

     Ryoがそっと階段を下りている。1段下りて座り、音を立てないように
      また下りる。2歳の子に、そんな下り方を習慣にさせてしまうほど、この家は
      厳しかったのか。ケラーは複雑な思いで小さな背中を見守っていた。
 
 

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