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★『被爆の朝』

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 「おばあちゃん、早く、早く!」

 「そんなに急がなくったって、いいでしょう?
  学校は、逃げたりしませんよ。まだ、八時にもなっていないのに・・・」

 「いいの。みんなとお手玉するんだもん。早く行く!」

 あきれている祖母をあとに、少女は家を飛び出した。学校は数分、近くにあった。
 しかし、心臓に穴がいくつか開き、あるべきところに血管さえない彼女には、少し
 歩いてうずくまる、息切れの多い登校の道だった。

 それでも少女は、学校へ行くのが好きだった。
 新しいことを学ぶのは、楽しい。本を読むのも大好きだ。

 授業は、とどこおりがちだったけれど、活字にふれているのが、少女は好きだった。

 「花澤サチ」(仮名)・・・昭和9年4月生れの11歳。年齢よりは、からだの小さな、
              きゃしゃな女の子。けっこう勝気で、かわいい顔立ちをしていた。
      五年生だったけれど、胸は、まだ、ふくらむ様子もなかった。

 昭和二十年八月六日。白島(はくしま)国民学校は、寄せ集めだった。ほとんどの
 生徒たちが「疎開(そかい)」をしていて、彼女のように、からだが弱かったり、
 疎開できない事情のあるこどもたちだけが、残っていたのだった。

 息を何度も切らせながら、うずくまり、やっと学校についた。「五年横山学級」。
 友だちをさそい、二階につながる階段の踊り場に、女の子たち数人で座り込む。

 寒がり…だったからか、少女は高い窓からそそぐ太陽の光を浴びたくて、陽だまりの
 輝きの中に陣取った。半袖の白い体操着ともんぺ。少女たちは、大好きなお手玉を始めた。

 高度数千メートルに迫っていた、B29の爆音は聞えず、攻撃地点を快晴の広島に決めた
 事情など知るよしもなく、夏の広島の朝は、平和だった。

 しかし、お手玉を始めた直後、閃光が少女のはだかの右腕に刺さった。

 逆立った産毛(うぶげ)のおぞましい感触に、舌打ちする暇(ひま)もなく、ダイヤモンド
 ダストのように降ってきたガラスが、腕に、首筋に、突き刺さる。

 「直撃だ! 直撃をくらったんだ!・・・ここで、もう、死ぬ・・・」

 痛みとともに、目の前から光が消え、少女は、朝八時の暗闇に落ちていった。


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