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その日「リトルボーイ」を搭載したエノラ・ゲイは、午前1時45分、テニヤン
A滑走路から飛び立った。観測機と撮影機B29ニ機を従えての出発だった。
広島までは、七時間の飛行時間だ。
(この天候なら、三時のティータイムまでに帰れるな・・・)
これは歴史的な爆撃になる。帰ったら歓迎パーティーで忙しくなるぞ!
顔がニヤつく。操縦室の窓の向こうに、シルバースター勲章がちらついていた。
歴史のつむぎ出す運命は、いっさいの邪魔を排除することを決定していたのだろうか、
原爆搭載機エノラ・ゲイは、途中、日本軍の戦闘機に攻撃を受けた。しかし、一発も
被弾することなく、戦線を離脱した。
広島の天候は、晴れ。雲は小さく薄かった。
それを報告した気象観測機ストレート・フラッシュは、日本軍に発見され、警戒警報を
出されたが、直後に広島上空を離脱したために、警報は解除されたのだった。
時刻、まさに、7時31分。第一攻撃目的地「広島」は、変更されることなく、エノラ・
ゲイの射程の中に、くっきりと浮かび上がってくるのである。
一度、広島の上空を通過したからだろうか、二度目の警戒警報は、発表が遅れた。
警戒警報発令を決定した8時13分には、B29原爆搭載機エノラ・ゲイは、
広島の市街地の上空に達していたのである。
機は自動操縦にかわり、世界最初の原爆は、自動的に投下された。
相生橋を目標に投下されたリトルボーイは、最初、定めもなくふらふらとただよっていたが、
そのうち爆弾後部の安定翼が風をとらえ、夏の光に輝く太田川分岐点に向かい、ゆるやかな
放物線を描きながら落ちていった。
B29は自動投下の後、爆風を避けるために旋回し、乗員のからだが浮いてしまうほど
激しく急降下を開始した。この後、地上で起る惨劇を見ようともしないで、背を向けた。
また、七時間、テニヤンに待っている歓迎パーティーを想像しながら。
自分たちは、歴史的な英雄になったのだ!
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