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三話
どのくらいたったのだろう。少女はやっと目ざめた。
からだが重い。なにかが自分のからだに重くのしかかっていて、動けない。
両手と両ひざに力を入れて、その重苦しさをなんとかしようと試みた。
「痛い・・・動か、ないで!」
近くで誰かが小さく叫んだ。近くだけれど、だれか、わからない。暗闇がすべてを
消していた。
叫んだ少女は、いっしょにお手玉をしていた誰かだろう。ほかの友だちはどうしたのだろう。
目をこらして暗闇の先を見る。かすかに、光のようなものを感じた。それは先ほど浴びた
燃えて突き刺すような閃光ではなく、もっともっとかすかな、明るさのようなものだった。
それでも、暗闇よりは、いい・・・。
少女は、痛がる友だちを気にしながら、ズズッ、ズズッと、わずかに感じられる明るさに
向かい、はっていった。
近づくにつれて、明るさは増していく。自分の今いる場所が、壊れた校舎の残骸(ざんがい)
の中であることが、やっと意識によみがえってきた。
そうだった。直撃をくらったのだ!
残骸のわずかなすき間から、少女は抜け出した。五年生だったけれど、心臓が異常だった
ために、まともな運動はしていない。年齢よりは、ひとつもふたつも発育が遅れていたの
かもしれない。
ふしぎなものだ。その発育不良の小さなからだが、かえって、30センチほどのすき間
から見える明るさへと導いてくれた。
やっと助かった、と思って立ち上がろうとしたとき、少女は再び倒れこんだ。
「痛いっ!?」
たしかに半袖の体操着は血だらけだった。しかし、どうして立てないのだろう。
どきどきしながら足を見た。足うらが裂け、ヒフが五、六センチ、たれさがっていた。
悪寒が走る。いっきに死の恐怖がおそってきた。
どうしよう・・・どうしよう・・・おばあちゃん・・・。
父は三歳のときに亡くなり、母もこの世を去っていた。助けを呼ぼうとしても、その人の
名前が浮かばない。
そのときだった。大人の男の人の声がした。
「おお〜、こんな所にまだ人がいたんだ!」
それは、疎開で空いていた1階の校舎に暮らしていた、兵隊さんだった。
「きみだけなのか? お友だちはいないのかい?」
少女は、残骸の中を指差した。
「よし、重傷のお友だちから、外へ連れ出そう。きみはその後だ」
兵隊さんたちは、ていねいに校舎の残骸を取りのけて、動けなくなっていた友だちを
救い出し、抱きかかえるように連れて行った。
彼女とは、それきりだった。どうなったのか、消息はわからないままだ。
友だちを運んでもどってきた兵隊さんが、少女の足を見て、ことわりもしないで、
いきなり体操着に手をかけた。
(えっ?)
と思うひまもなく、白い体操着は引き裂かれ、足をおおう包帯になっていた。
兵隊さんは、軽々と少女を抱きかかえ、外に連れ出してくれた。しかし、そこまでだった。
無事が確認され、残骸の下から救い出されておしまいだった。兵隊さんたちは、また別の
場所に行ってしまったのだった。
少女は、やっとまわりを見渡した。コンクリートでできた建物以外、すべては消えていた。
空はどんよりと曇り、大きな太陽だけが、炎のように燃え上がっていた。
あちこちに、煙が上がっている。通りの向こうに、火を感じて、少女は身がまえた。
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