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・「天使の町に十字架を…(1)」
ロサンゼルス近未来。
その日、市庁のインタビュールームは、全メディアをはじめ、各界の大物や
スポンサーたちで満員になり、三流、四流紙の記者たちの立ち見が出るほどに
盛況だった。
何台ものテレビカメラが並び、大きな市長のデスクの前には、マイクスタンドが
ひしめいていた。各テレビ局のアシスタントたちが、混雑するマイクコードを
さばけなくて、ディレクターからどなられていた。
開始の30分前に、インタビュールームの科学技術員が数名現れ、カメラマンや
記者たちにカメラやマイクの移動を伝え、代わりに名詞サイズのパームパソコンを
渡した。
「カメラマンの皆様、今後テレビカメラはこの部屋には持ち込まないように、お願い
します。背後のパネルが開いて、各社のカメラを収納しております。操作はすべて
お手元のパーム・パソコン、PPNで可能です。
画面を指でタッチして、上下左右、写したい場面をとらえることが出来ます。数秒
抑え続けますと、ズーム。タップすると固定し、画面をロックすることも可能です。
また、マイクは、壁面にセットされているメインの集音機が、皆様のPPNに音を
飛ばします。現在はONになってるので、会話をただ録音されるだけの皆様は、
今日は何もせず、のんびりとくつろぐことができるでしょう。
今日お渡ししたPPNは、市長のプレゼントです。市の予算はいっさい使われておらず、
スポンサーからの基金でまかなわれています。まだ数十台、手持ちがありますので、
ほしい方は申し出てください。今日に限り、無料です。
もちろん、大金の寄付の申し込みと同時に、お渡しすることも可能ですが・・・」
笑い声がこだまして、部屋はなごやかムードが流れ出した。なにしろ、若い市長が公約
していた「ミラージュ」を、想像を越えるスポンサーの寄付と、各界の熱望により、
すぐにでも建設可能であると発表したからだった。
古株の市長に大差をつけて当選した若き獅子「レオナルド・J・バーンスタイン」は、
たった8ヶ月で、資金と各省庁の賛同を取り付け、それに必要な土地を、すべて確保
した。
「ミラージュ計画」が始動すると、ロサンゼルスに交通革命、運送革命、CM革命が起り、
治安が一段と増すことになる。
市長は、護衛のSPたちに前後を守られ、予定の10分前には現れた。42歳という若い
ほほを紅潮させ、市長はスピーカーブースに立った。
「いやあ、諸君。開始予定前に出てきたことを許してくれたまえ。わたしとしては少しでも
早く、諸君に報告したくてね。クリスマスプレゼントに目を輝かせる、小さなこどもの
ように興奮しているよ」。
バーンスタイン市長は、これまでも、会議革命を起し、市議会の簡潔化によって、市政に
関心を持つ若い年齢層を味方につけていた。キャッチフレーズは、「小学生にも理解できる
市議会」だった。
今日のインタビューにも、出席者にイラスト入りの「ミラージュ計画総合計画」が渡されて
いて、手元のPPNの中に、すべてが取り込まれていた。画面をタップすると、用語の解説が
現れるようになっていた。
「さあ、諸君。わたしの公約のとおり、『ミラージュ計画』とは、このロサンゼルスの空に、
天使の町にふさわしく、大きな十字架をかかげることなのだ」
会場を埋めつくした出席者たちは、久しく覚えなかった興奮に、生唾をいっせいに
飲み込んでいた。
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