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「ついつい長々と話してしまいましたが、基本的なことはすべて、皆様に報告済みで、
特に科学的、技術的なことに対しての質問はないと思います。
かねがね市長は、事前の事務報告を徹底し、大切な議会での貴重な時間を、無知ゆえの
質問、からかい半分や料理の隅をつつくような質問はしないようにと改革を重ねてきました。
今ではそれが浸透し、議会開催前に、出席議員は、議事の内容をしっかり学び、把握して
集まっております。それは、テレビ中継を観ている市民、特に若い市民に好評で、政治家を
目指す学生が増加し、市の将来を明るくしております。
あ、また長々と話してしまいました。
基本的な質問はいまさらですので断りますが、計画を聞いた素朴な感想など、お聞かせ
いただきたいと思います。2、3の質問は許可しましょう」。
「ロス・ヘラルドのウエインです。スカイウエイを降りてくる塔の壁に、コマーシャルを
流すということですが、その映像や光で、市民が迷惑するのじゃありませんか?
特に夜間は・・・」。
「大丈夫です。問題はまったくありません。夜8時から朝の10時まで、スカイウエイは
使用しませんし、コマーシャルはスポンサーが無料配布する特別な3Dのメガネを使います。
それをかけない限り、まったく観ることはありません。だから、大丈夫です。
市長はこのM計画を推進するにあたり、市民生活を阻害することにならないよう、細密に
会議を続けてきましたからね」。
「飛行するものの邪魔にはなるのじゃないですか? あ、ロス・ジャーナルのミゲールです」。
「スカイウエイには、飛行するものの発信する電波に自動的に反応し、自由にその飛行物体が
障害なく通過するための空間を確保するようにできています。でも、これは万が一のためで
航空機、民間機、ドクターへり・・・空港の業務をいっさい邪魔しない位置に設置されます」
主任フォスターの計画説明には、一点のミスもなかった。しかし…とジェファーソンは思った。
そんなバカでかいものがロスの上空をおおうなど、それ自体が公害ではないのか。
いつ落ちてくるかもわからないデカ物が、ロスの空を支配するなど、もってのほだ。
手を挙げた。最も基本的な疑問を伝える。しかし、それを聞いた瞬間、フォスターは、笑った!
まるで、その質問を今か、今かと待っていたように、嬉々としてジェファーソンを見た。
「その質問に答える名誉は、やはり市長にお譲りしなければならないでしょう。市長、どうぞ」
市長も同じ表情だった。(おちょくられてる?)と彼は思った。
「ジェファーソン君、君の視点はいつも的確で、尊敬に値する。わたしは君の、辛口な論評の
フアンのひとりだよ。いつも読んでるよ、君のコラム…」
「それはどうも…」
「で、初めてのインタービュールームだが、くつろいでいただけただろうか」
この質問の意図はなんなのだ。自分の質問への答えを、わざと引き伸ばしているようにも
みえない。若いのに、心理を読み取ることにたけている市長だ。何か、ある。
「はい・・・。整然としていて、落ち着きます。壁も、天井も、適切な距離が保たれていて、
かえって、さびしいような気さえします」
そんな答えでよかったのか。市長は満足げに何度もうなずいていた。しかし、市長は次に、
その言葉を否定した。
「いやいや、圧迫感がひどくて、息苦しい部屋だよ。そうだろう? フォスター君」
「はい・・・。でも、市長。あれがあると知っている私でも、威圧的な存在を忘れてしまう
ほど、くつろいでいました」
「そうか、そうか。では、実験は大成功だったわけだ」
記者たちはお互いに顔を見合わせ、市長と技術主任のやらせのようなコントに、眉をひそめた。
「ジェファーソンさん、そしてお集まりの皆様。実は、この部屋の天井いっぱいに、
スカイウエイの模型が展示してあったのです。それも、皆様の頭上2mのところに!」
ウソだろうと記者たちは騒ぎ出し、天井に向かっておそるおそる手を伸ばした。もちろん
2m上にある模型に、手が届くわけはない。それどころか、そこに模型があるなどと、誰も
わからないのだ。見えていないのだから、重圧など感じない。
フォスターは、みんなに渡したものより少し大きめのPPNを操作した。
「おお〜!!!」
いきなり天井全体に、スカイウエイが出現したのだ。銀色に輝く模型は、インタービュルーム
の天井全体に広がり、記者たちの頭上で、今にも落下してくるような恐怖と重圧を感じさせた。
しかし、誰一人、そんなものが自分たちの上にあるなど、まったく気がついてなかった。
「諸君、だから『ミラージュ計画』なのだよ。特殊工法で、マジシャンと同じマジックを
上空に乗せてみた。地上からも上空からも、肉眼では決して見えない。
このマジックショー、十分に楽しんでいただけたかな?」
市長の勝ち誇ったセリフにも注目しないで、記者たちはPPNを使って、撮りまくっていた。
しかし、社に持って帰り、注視したにもかかわらず、スカイウエイはその姿の一部さえ、
カメラにとらえさせてなかったのだった。
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