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「お前たちには、話していなかったがな。チョコマカが我々に懐いていた話を谷口さんにしたんだ。す
ると、彼は非常に険しい表情を見せたんだ。お父さんは、瞬間的に、してはまずかった話だったと気
付いて、ただただ訳が分からずに硬くなってしまったよ。だけど、変な人だとは感じなかったねえ」
「えっ、どうして・・。体が不自由なチョコマカの面倒をみちゃ、悪いの」 「そうだったんだよ。どんなに優しい触れ合いであっても、野生本能を失わせる行為に当たるだろう。 そういう行為は、結果的に、野鳥を危険にさらすことになるんだそうだ。だから、彼には許せることで
はないんだ」
「だって、相手はカラスよ。ウィトリッヒの森では、王様みたいな鳥でしょう」 「それはそうなんだが、そこが彼と我々との違うところだったんだ。谷口さんが険しい表情を見せたっ て言っただろう。あれは、野鳥の一生がどれほど厳しいかを知っている眼だった。今、思い出してみ
ると、あの表情は、彼が何としても納得出来ないと感じたときに、潔癖性が元になって現れる表情だっ
たんだな。だから、きっと、お父さんにいつ注意しようかと、タイミングを探りながら付き合ってくれてい
たんだと思うよ。彼は、誰に対しても同じ姿勢の人なのかも知れない」
「そんな人、少ないわね」 「そうだなあ。お父さんだって、お前たちには厳しいけど、他人には其処まで出来ないものなあ」 世間は狭いと言われるが、森で出会っただけの一面識もなかった老人が、娘と親しい同級生の 伯父だったとは・・・。これまた不思議な縁である。
「ところでお父さん。そろそろ、健康診断の予定月じゃないの」 そら来なすった。 「ああ、その通りだ。来週の火曜日に予約してある」 「へえ、自分で気付いて予約するなんて、今度はずいぶん前向きじゃない。調子が悪いんじゃない の」
やはりただでは済まない。一つを誉める裏で、新たな嫌みが釘になってくる。それも、納得いくまで は許さないという追求型だ。確かに、これまでは尻を叩かれなければ動かなかったのだから、それ
も仕方がないだろう。しかしだ。彼女の希望通りに治まっている時ぐらいは、「忘れないようにね」くら
いで済ませられないものだろうか。
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