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太郎の夢 (10) 中 島 諄
あのときとちがいます。とびばこは、ぜんぜんひくくなりません。走ろうとしてみましたが、足が前に
出ようとしません。
「どうした、太郎君」
先生がさいそくしてきました。
「先生、あまり高いので、ちょっと、じゅんび運動していいですか」
先生のうなずく顔が見えました。太郎君は、シロに教わったうさぎとびをしながら、とびばこに近づき
ました。みんなの笑う声が聞こえてきます。でも、ふしぎです。ぜんぜんはずかしくありません。
とびばこの横にならんだり、ふみきり板の上でジャンプしたりして、高さをたしかめました。それから
また、うさぎとびで元の位置へもどりました。
さあ、スタートです。みんなのさわぎがおさまりました。目をつぶって、とぶじゅんじょをたしかめま
す。リズムが、体の中からわいてきました。ジェンカの歌です。目を開けました。とびばこは、ひくくな
っていません。でも、太郎君は走り出しました。
ーだれかにできることは、自分にもできるんだー
心の中で、そう決心していたのです。ふみきり板の上で、思いっきりジャンプしました。とびばこの上に
シロの手がうかんで、何やらさけんでいるようです。しかし、とぶことしか考えていなかった太郎君に
は、だれの声も聞こえませんでした。
とつぜん、ものすごいはく手が起こりました。
「やった、やった」
みんなの叫びが聞こえます。
「やった、やった、太郎がやった」
「やったあ。太郎、太郎。太郎・・・」
その声が、名前だけのくり返しになりました。
「太郎、太郎」
きゅうに、地しんかと思いました。体が、ぐらぐらゆれているのです。
「はっ」
目を見開くと、天じょうが見えました。見なれたもようの天じょうです。
「何、のんびりねてるのよ。学校にちこくするわよ。何回も、起こしているのに・・・」
お母さんが、ふとんの上から、太郎君をゆすっていたのです。
「なんだあ、夢かあ。今までのこと、全部、夢かあ・・・」
太郎君は、夢の中で、とびばこの練習をしたのでした。そして、やっぱり夢の中で、学校のテストを受
けたのでした。
これまでの太郎君だったら、ここで全部をがっかりしてしまうでしょう。でも、今朝の太郎君は、ちょ
っとちがいます。
「とびばこなんて、かんたんさ。人にできるんだもの」
何となく、今日のテストが、うまくいくような気がするのでした。
ー 完 ー
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