心の散歩道

小説、論文、評論、雑記など、思いつくままに書くつもりです。読後の評価をお願いします。厳しすぎても結構です・・・。

飛べないカラス 第1章

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4と9のつく日を、更新の目安にして書いていくつもりです。
楽しんで下さい!!
「飛べないカラス」はNo.39をもって完結しました。長い間、愛読して下さった方々、ありがとうございます。次の創作はいつのことやら・・。構想が出来上がり次第、お目に掛けたいと思っています。
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これまで

 退職したことで、時間が有り余るようになった。在職中の生活からの精神的な切り替えが出来ず、無駄に過ぎていく時間に、ただただ焦りを感じてしまう主人公。有意義に使うにはどうしたらいいかを悩んでいるうちに、健康診断で胃癌が発覚。気が重い日々を過ごしているうちに、神経がしだいしだいに内面を蝕んでいく。いったん考え始めると、すべてが過去へ過去へと向かう。先立たれた妻も癌であったこと、死を覚悟しなければならない病であること、命への自信が崩壊していく心細さ。娘親子への心配りが妻との約束だと銀行へ向かうが、先への不安は消えない。
 明るい材料が見つからずに鬱々としていたある日、足を踏み入れた近所の森で、羽根に障害を持った1羽のカラスと出会う。その交流に、子どもの日々に初めてペットを飼った時のような充実感を感じる。その後、飛ぼうとするのに飛べないカラスの姿が、自らの今の姿とダブり、いっそうカラスへの愛着が増していく。そんな交流から、飛べないと知りつつも飛ぶ努力を諦めない勇気に気づき、非力も努力しだいでは大空を羽ばたく力を持つようになるのではないかと、自らの怠慢に反省を加えるようになる。手術を申し込む期限が迫っていた。
 踏み切れない自分と、挑戦すべきだという自分。一人になって考えたくなった主人公は、カラスへの餌やりを娘親子に頼んで旅に出る。毎晩電話を入れることが条件だった。その電話での報告で、狸に追われたカラスが、必死に羽根をばたつかせながら木の幹をよじ登り、とうとう高枝の上に達したと聞く。旅行後、彼は、迷うことなく手術を申し込んだのだった。

第2章

 手術後の生活が始まりまった。飛べないカラスから学んで、行動する力はついた。でも、心までは・・・。これが解決出来なければ、手術した意味がない。前向きに生きる姿はカラスから学べても、見えない心まではカラスから学べなかった。自分で作るしかないのだ。
 過去を、未来へのステップに出来るか・・・。新しい心の習慣を構築できるか・・・。そんな戦いが、手術後に待っていた・・・・・。


「飛べないカラス」はNo.39をもって完結しました。

長い間、愛読して下さった方々、ありがとうございます。

次の創作はいつのことやら・・。

構想が出来上がり次第、お目に掛けたいと思っています。



「先生。手術、お願いします」

「そうですか。やっと決心がつきましたか」

「はい」

「娘さんに説得されたのですか」

「えっ」

「そうですか。お一人で結論を出されたのですね。実は、裏切り行為にあたる

のですが、あまり決心に時間が掛かっていましたので、娘さんに来て頂いて症

状を説明しておいたのです」

「娘に・・・・。何と言っていました」

「初めは涙を溜めて何もおっしゃらなかったのですが、最後に『父の気持ちを

大切にしてあげて下さい。父のことだから、手遅れを迎えるような結果は作ら

ないと思います』と、きっぱり言い切っていました。すばらしい娘さんですね」

「それは、いつ頃のことでしょうか」

「あなたが旅行に出る一週間前のことです」

「そうでしたか」

 娘は、父親の病気を知っていて、旅行に出ることを快く許してくれたのだっ

た。おそらく、この旅行が、父親にとってどんな意味を持つのかということま

で考えてくれたのだろう。

「ご安心下さい。推薦する病院は、百パーセント信頼できる病院ですから」

 長い間、体内のいたるところで痼りとなっていたわだかまりが、松の葉を揺

らせて過ぎる風のようにそよそよと消えていった。

 チョコマカに出会わなかったら、こうはならなかったろう。日々自分の殻を

脱いでいくチャコと一緒に住まなかったら、こうはならなかったろう。娘の温

かみがなければ、今日を迎えられなかったろう。妻の最後を看取り、生きる目

的を失った後での癌の宣告に、これ幸いと思う気持ちも何処かにあった。踏み

出しても何もない、舞い上がっても求めるものがないと、飛ぶのに一番もがい

ていたのは自分だった。

「よし。命ある限り、精一杯生きてやる」

 汗を拭きながらの帰り道だというのに、夏の風が清々しく感じられた。

「母さん・・、チャコが結婚するまでは、此処にいることにしたよ。もう、し

ばらく辛抱してくれ」

 立ち止まって見上げた視界に、空が、飽くまでも、紺碧を放っていた。



                         ー完ー


          (11)

「お帰りなさい、お爺ちゃん」

「ただいま、チャコ。いろいろ頑張ってくれたね。ありがとう。お陰で、ゆっ

くりと旅が出来たよ。お母さんは、どこだ」

「洗濯物を取り入れているよ」

「何だ、チャコ。元気ないな」

 チャコの目に、涙らしい物が光っている。

「あら、お父さん。お帰りなさい」

「チャコ、元気ないな。何かあったのか」

「大したことじゃないわ。チャコ、お爺ちゃんに報告しなさい」

 チャコの頬には、こぼさずに溜めてあったらしい涙が、はっきりとした筋を

作っていた。

「あのね。バナナを持って森へ行ったのに、カラスたちが出てこなかったの。

いくら呼んでも、バナナを放っても、現れなかったの」

 半分、拗ねている様子でもある。

「仕事始めの日でしょう。たくさんの人たちが、機材を運ぶために森へ入った

から、安全な住処を探して何処かへ行ったんだと、いくら説明しても納得がい

かないらしいのよ」

 カラスとの関わりは、母親よりも長い。さもありなんと思う。愛着があれば

こそ、納得できる確実さが欲しいのだ。さすが我が孫である。

「チャコ。カラスたちは、野生に戻ったんだよ」

「野生に・・・・」

「そうだ。庭にやってくる、スズメもヒヨドリも、いくら大事にして餌を用意

しておいてあげても、時季が来たら去ってしまうだろう。松の木に巣を作った

キジバトの雛だって、巣立った後は戻って来なかったね。自分の力で生きてい

く。それが、野生動物の姿なんだ」

「あんなに仲良く出来たのに・・・・」

「そうだよ。野生の鳥にとって、自分の力で頑張っているときが一番幸せなん

だ。チャコがしたことは、カラスたちが幸せを掴むまでの手伝いだったのだよ」

「それで、チョコマカも幸せになれるの」

「ああ、きっと幸せになってくれるさ。命ある限り、精一杯生きようとしてく

れるさ」

「そう。それならチャコ、我慢する。寂しいけど・・・・」

「そうだな。工事が終わったら森へ行って、カラスたちが出て来なくても、ガ

ンバレーって叫んでやろうじゃないか。そうっと、餌を置いてきてもいいなあ。

何処かで見ているかも知れないからね」

 命ある限り、精一杯生きようとする。自分の言葉に、はっとする自分が居た。


 六日目。帰宅の日である。舘山寺温泉から、水上バスで浜松に抜けた。旅行

社との相談の中で、新幹線を使うという方法も出たが、せっかく新婚旅行を辿

る旅にしたのだからと、薦めを断って当時と同じ普通列車を選んだ。あの時は、

帰宅は遅くなる方が良いと考えていた。旅行を終えると病院生活が待っている。

少しでも長く現実から逃避していたいと願うに違いないと予想していたのだっ

た。だが、今の思いは違う。過去に戻ろうとする自分より、過去を土台にして

現実に生き甲斐を求めようとする自分の方が強い。

 妻との旅行は、僅か四泊五日だったのだが、その最終日の一こま一こまの懐

かしさに、熱いものが込み上げてきた。最初の車窓は、山塊の町が続いた。し

ばらくすると、都会的な街並みが多くなった。あの時、この場所が近代的です

っきりした町のように見えたので、面白い形の建物を探そうと言って競争した

のだった。でも、二人でガラスに額をこすり着けながら眺めていたら、工場ま

た工場またまた工場とつながりだしたので、最後にはがっかりした話題しか出

なくなった所だ。

 お尻に当たる座席の堅さが気になり始めた頃、霊峰富士を拝む景色へと移り、

その後は所々で海が開けるという繰り返しになった。この光景は昔のままであ

る。どっしりとした富士の姿が、これからの新婚生活に希望をくれたような思

いがして、借家のレイアウトや生活の役割分担などの話が弾んだ所でもある。

 考えるには、たっぷりの時間があった。過去への思いがだんだん薄くなって、

記憶も飛び飛びになった。現実への帰港を頑なに拒んでいた何ものかが溶け出

していく。思考がより近い空間をさまよい出したかと思う間に、娘との電話の

内容へと突き当たった。まず脳を刺激するように表に出て来たのは、カラスた

ちが工事人にいじめられはしないかということだった。チャコからの五日に渡

る報告を、順に思い出した。どう考えても、娘が心配する通り、カラスたちは

人間に親近感を持ち過ぎている。その分だけ人への恐れを忘れかけていること

も確かだ。では、自分がしてきた行為は間違いだったのだろうか。思考は、ど

うしても我が身を攻める方向へと進んでしまう。それを避けようとすると、自

己弁護の方向へと捻れた。

 自分の行為は、彼らに野生を忘れさせ、人間に親近感を持たせてしまうほど

濃いものだったのだろうか。そこまでいくには、かなりの時間が必要である。

そんなに長い期間だっただろうか。いやそんなことはない。たった一か月程度

で野生の本能が消えるとは思われない。

 そして最終的に、バナナの餌やりの時間が、カラスたちの野生を破壊したと

決めつけるには疑問が残る、というところまでに達してしまう。自己弁護への

思考とは恐ろしい。いったん筋道が立つと際限なく道が開け、最もらしい理屈

まで付けて終着まで進んでしまう。

 カラスは、昔から里に住んで、人間とのかかわりの中で勢力を維持してきた

鳥である。人が通り過ぎるすぐ脇でゴミを漁る姿や、人を食ったような駆け引

きで、町内の人が追っても追っても着かず離れずにいて、食を得るチャンスを

狙うのがカラスの姿である。そんなことが出来るのは、例え人間に慣れ親しん

でいても、敵と味方を区別する感覚だけは捨てずに備え持っているからなのだ。

 百歩譲ってカア助たちが人に馴染んでしまっていたとしても、一定の距離を

置いて着かず離れずを保つという、祖先が人間とかかわってきた才能を失わず

にいるに違いない。過去代々に渡って受け継がれてきたものが、そう簡単に体

内から消えてしまう訳は ないのだから。問題は、障害を持っているチョコマ

カも、同様な感覚を備えているかということぐらいなのだ。そのことは、今ま

でのようにカア助とピョン太が受け持つものと思われた。

 自己弁護はいつの間にか希望的発想となって、思考することを止めていた。

物事を真剣に考えるということは、体力がいる。疲労が溜まり、ストレスが表

面に現れてしまうのだ。ふと我に返ると、胃が痛んでいた。

「そうだ。この旅は、自分の身体に休養を与えるのが目的だったはずだ」

 苦労性と言われ続けてきた自分の性に、苦笑が出た。

「たかがカラスのために、何故こんなにも・・・・」

 そんな思いを感じたときに、ふうっと眠気に襲われたのだった。

「平塚あ、平塚です。お忘れ物がないよう確かめてから、お降り下さい」

 目が覚めたときは、残り二〇分で下車駅という所まで来ていた。

「はて、あれは夢だったか」

 車内放送を耳にするまでは、三羽のカラスたちが、工事を終えた森の中を生

き生きと飛び回り、走り回っている様子を、遠くから楽しんでいる自分がいた。

そこには、カア助が持ってきた残飯を食べる、チョコマカの元気な姿があった。

木のてっぺんからピョン太が落とす木の実を、地上で拾い回るチョコマカのす

ばしっこさもあった。羽をパタパタさせて、枝から枝へジャンプする姿も見ら

れた。

「あの夢は、夢ではない。カラスが生来持ち合わせている才能を開いた結果だ。

彼らなら、きっと、夢を正夢にしてくれるさ」

 目覚めがより覚醒してくると、それは、確信のようなものに変わっていた。

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