サントリー天然水工場(白州)との井戸水問題・他:白州の森

白州の森が綴る、「サントリー白州工場との井戸水問題」等の「森からの便り」

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○『「日本百名山」の背景』:安宅 夏夫著(集英社新書 2002年4月22日発行)

イメージ 1本屋の棚にこの本を見つけた時、その背表紙のタイトルと著者名を見て「おやっ?」と感じた。
もう8、9年前にもなるだろうが、山岳関係の雑誌を見ても、各種のパンフレットを見ても、どこもかしこも「百名山」。山に入れば、何とかツーリストのリボンを付けた団体が吾がもの顔で道を塞ぐ。山小屋案内や、麓の自治体の観光情報媒体にも、「深田久弥の百名山」の文字が躍る。
雨が降り、ガスが渦巻き、展望の有無などお構いなく、ここまで来たのだからとピークに向う。
"「百名山」以外は山ではない"かの如く、目もくれないで、ただひたすら『深田久弥の選んだ百名山』を追い続ける。
そんな風潮が幾分下火になったとは云え、今日でも続いている。
山の歩き方は千差万別、個人が密かに目標にして、それに向って、その達成を楽しみにしながら追い求める。その気持ちは理解できる。
だが団体で、猫も杓子もぞろぞろぞろぞろ、そのピークだけを目的に、脇の山には見向きもせずに、遠隔地のそのピークの往復だけを金科玉条の如く追い求める風潮は、何か首を傾げたくなるように変てこで、滑稽だと、冷めた目で観ていた。
だからこのタイトルが目に入った瞬間は「うっ」と感じたのであった。
そんな気持ちを代弁するような内容の本なのか、と推察したからである。

手にとって、最初のページを開いて「本書で筆者は、深田久弥の生涯をたどることによって『日本百名山』がどのような背景から誕生することになったのか、その秘密にアプローチしてみたい。」を読んで「うっ・・・!」となった私の考えが邪推だと、悟った。

私が"深田久弥"の名を知ったのは、高校生の頃、「津軽の野づら」を読んだ時であった。
"志乃の手紙"や、アイヌの少女"チヤシヌマ"の恋の物語は、その新鮮な叙情的文体から若かった私の心を揺さぶった。その恋物語の内容はすっかり忘れているのに、その本の巻末に置かれた解説の中で「深田久弥の作ではなく、当時一緒に暮らしていた八穂夫人(北畠八穂)の作ではないかと言うのが通説」とのことが記されていたことだけは、よく覚えていた。私が17、8歳の頃。今から50年も前のことである。

10代の後半から山歩きをするようになり、青春真っ只中の若い頃、目にしていた「山と高原」に連載されていた、「日本百名山」の文章は、それほど私の気を引く存在ではなかった。
自分自身の「山」を求めていたから。
創文社の「アルプ」の文章の方が、遥かに心惹かれた。

社会人となった後、生計のためにわき目も振らず、モーレツ社員の仲間入りをして、山歩きから遠ざかっていた30年。

ほそぼそと年に数回の山歩きを再開する40代後半、50代に入った頃から、『深田久弥の「日本百名山」』の字句が、言葉が頻繁に耳に入るようになって来た。
それでも「津軽の野づら」の著者としての記憶が強く、自分が歩きたいルートの山が、この「日本百名山」の中の山かどうかなどと云う事は全く気にも留めなかった。
忘れ物を取り返すが如く足しげく歩くようになった50代後半から60代、山で行き会う人たちから"「百名山」ですね!"と声をかけられて、今自分が歩いてる山が「"深田久弥が選んで文章にした山"の中の一つなのか」を教えられた。

イメージ 2一方、あの「津軽の野づら」の解説文のことはずっと忘れていなかった。
『「日本百名山」の背景』を手にした時、「はじめ」の第一文節を読むと、その後すぐに巻末の著者の略歴を開いた。著者 安宅 夏夫は詩人で金沢在住18年間、「鎌倉文学散歩」や「金沢文学散歩」を著した作家だと知り、山歩きとは無縁の略歴のようだったので、なお更「はじめ」の一節は強烈で、「本書で筆者は、深田久弥の生涯をたどることによって『日本百名山』がどのような背景から誕生することになったのか、その秘密にアプローチしてみたい。」の一文に惹きつけられた。
「あの”解説文”の詳細を知ることができる・・・」と;
第一章 運命の見えない手
第二章 人生はトンボ返り
第三章 賽子は振られた
第四章 火宅の人
第五章 故郷の山々に抱かれて
第六章 残された唯一の道
第七章 山の文学者・誕生
ヒマラヤ関係の文献を多く集め、ヒマラヤの山々に精通され、「雲の上の道」などを通じ、また初期の幾つかの遠征隊がその目的の山の選択にあたって、助言を求めに深田宅の「九山山房」に寄った時の遠征隊関係者の文章を目にしていた。
"百名山狙い"には興味は無いが、山の文章としての「日本百名山」には目を通していたし、山歩きを再開して以来、周りから小耳に挟む"背景"の断片を繋ぎ合わせて、凡その見当はついてはいたが、小説作家としての深田久弥(私はそう思っていた)が何故小説から離れ、山岳作家としての道を歩むことになったのか、その詳細な「背景」に関して、私は強い興味をもった。

一高時代の”憧れの君(姫?)”、本郷通りですれちがった少女(女学生)との思わぬ再会が深田の一高時代の後輩、当時新進気鋭の中村光夫の結婚披露宴の席上だった。
「やはりあなただったのですね!」

この少女に瓜二つ八穂(北畠八穂)との生活が破綻をきたし、本郷通りですれ違った少女と暮らすようになり、応召されて中国戦線へ、帰国後もそのまま、新しい家族の疎開先へ直行する。

この太平洋戦争を挟んだ数年の間に、深田と八穂の間にどのような夫婦間、男女間の葛藤があったのかは具体的には書かれていない。二人が書いた作品の中からこの著者、安宅夏夫は紐解きを試みている。

それが、それ以前から長いこと山歩きを好んでしていた深田をして、「日本百名山」を著させたのだと。

もちろん「雨飾山」は、彼が”山の品格”、”山の歴史”、”個性のある山”として百の山を選んだ中で、どうしても外すことの出来ない”本郷通りですれ違った少女”(18年後の少女)と雨に閉じ込められて4日間を過ごし、久恋の男女として結ばれた「山」だったからなのだろう。
この著者はそうは書いていないが、私にはそう思える。

今、私の手元にある「日本百名山」(新潮社:昭和58年8月30日 11刷)に解説(昭和53年9月)を書いている串田孫一によれば、「『日本百名山』その後」と言う文章があり、その中で"百のうち自分は幾つ登ったか目次にしるしをつけて、その数のふえて行くのを楽しみにしている読者が多いようである"と書かれている。」と。

また深田久弥の七回忌に編纂された、俳句を若き日から嗜んでいた俳号「九山」の句をまとめた「九山句集」を読んで、

「たまゆらの 恋なりき君は セルを着て」
「おもかげに 似たるホームの セルの人」
「セルとなり ショパンのロンド 弾きにけり」
「セル着るや 妻の美人で なきぞよき」

「時にふと 疼く憤怒も 去歳のこと」

「草の上に 干し物並び 野天風呂」
「夕涼み おのづと寄りし 草むしろ」
「おどけたる 一人を中に 夕涼み」

「わが子はや 歌留多取る子と なりにけり」

句を作った背景に触れる文章も「俳句履歴書」の中には無いのでこれ等の句を詠んだ時の深田久弥の心境を知る術は、私にはない。

昭和34年3月「日本百名山」の連載が「山と高原」に出る。この連載は好評で、昭和36年に読者の人気投票によって選ばれる第一回読者賞を受賞。
一方、確執のあった先妻、北畠八穂は著作「右足のスキー」で、この「背景」の著者が『八穂の怨念の炎立ち』で、八穂の文章から「夫」、「マキ」を二人の間の確執をモデルにした作品と位置づけている。

その後、昭和40年、深田62歳の時に「日本百名山」が第16回読売文学賞を受賞。

[追記:1]
若い頃呼んだ「津軽の野づら」も、新潮社版「雲の上の道」も「日本百名山」も、ある理由で他の山岳書と共に、皆処分してしまった。今手元にある「日本百名山」は最近古本屋で求めた物で、ご多分に漏れず前の所有者が100の山の番号のところに黄色のマーカーで印を付けている。その人が登った山なのだろう。このブームの火付け役になった「深田クラブ」のことに関して報じられた新聞記事の色あせた切り抜きが挟まれていた。

[追記:2]
7/16、『日本百名山』の中の一つ、大雪山系のトムラウシ岳で起こった痛ましい遭難事故死。
これから原因究明がされるだろうと報じられていたが。
いつかこう言う不幸なことが起こりうると感じられていただけに残念で、深田久弥もあの世で嘆いているのではないか、と・・・、勝手に想像している。
人間の手の及ばない自然の中に入る山歩き、自分自身肝に銘じなければと・・・。
チョウノスケソウ
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久しぶりに再会したチョウノスケソウ!
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コマクサ、タカネバラには逢えなかったが、クロユリ、ムシトリスミレ、クモマナズナ、シコタンソウ(或いはヒメクモマグサ?)等には再会できた。

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