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「何を考えてやがんですか。いやらしい」 下卑た表情を故意に晒しありまが言うと、その声音からはまったく女らしさがなく男と話しているように錯覚してしまう。ありまは子供じみた外観に言動に中身をしているが、口調ばかりが老獪な老人のようになるときがあるのだ。 それが生意気でなく耳に馴染むので、葛西は何となく黙って聞いてしまう。 「まったく―私は葛西サンに惚れてるつもりはないですけど、ただ可愛がって欲しいだけなんです。才能がある男に必要とされるのって気分がイイじゃねえですか。それだけです。 そろそろ縁を切ってくだせぇよ」 「心理学より交渉術を勉強したほうがイイんじゃないか。内容が専門学生とは思えないほど酷いな」 葛西は鼻で笑い切って捨てるように言い、葛西は少女の毛先がイメージどおりにくるりと丸まっているのを指で弄んだ。鏡の中で視線を外しているにしろ、頸を傾けるようにして俯いているとまるで人形のようだった。 口は悪いが唇の形はよく、昼間よりずっと少女らしく卑猥だ。友人たちがぎくりとして注視する様を想像して葛西は残忍な笑みを浮かべたが、表情を固くしてすぐにそれを抑え込む。 「ところでありま、彼氏がいないんなら俺が見繕ってやるから適当に遊んでみたらどうだ。 心理学も少しは役立つんじゃないかね」 「ご心配だったら、素直に受け止めますけど…あたしは基本的に真面目で、一番の女と三番の女が変わらなくて二番の女と男の入れ替わりが激しいような感覚じゃねえんです」 「素直じゃない奴だな」 笑みを含んだ口調で言い、葛西はふとした思い付きでありまの顎に手をかけて唇を押し付けて見た。ふっと顔を離すと、ありまは忌々しげにしかめた幼い顔をきっと上げてきっちりと言った。 「ダッチワイフにもするつもりですか?」 「悪かったね。洗ってくるといい」実に軽い口調で言うと、ありまもあっけなく表情を戻す。最初からこうなることは判りきっていたようなものだ、と葛西は思う。 「いえ、いいです。それより警察が動いているようですから、あたしの言うことも聞いた道を通ってくださいよ」 ありまが振り返るようにして葛西を見上げ、完璧な状態の面差しを向けてきた。 「ありまが評価されてると思ってるのはこっちですから」 「たいした自信だが、それはついでだ。おまえの技量なんか俺の生活じゃそうそう役に立ってない。身の程知らずも大概にして大人しくしててくれ」 「判ってますよ。洒落込むなら退散時を知らしてくだせぇね」 面白げに酷い皮肉の応酬を交わしながら、葛西とありまはくすくすと笑いあった。 ややあって時刻になったので葛西はタクシーを呼び、ありまを先に行かせてから伊織の携帯に着信を入れた。すぐに着信がかかってきたので素早く通話ボタンを押し、じっとりと笑ってしまう口許で言った。 「やあ、元気か伊織。彼氏とはうまくいってない様子だね?…」 『何で判るんですか?』 葛西は伊織が自分にだけ向ける不機嫌げで期待するような眼差しをしているだろうことを想像してますます笑いかけた口許を難しく正し、 「これから逢えないか」 露骨に誘ったが、伊織は本当に素早く「ありまから聞いてお伺いさせてもらいます」とだけ事務的に返してきた。 「拗ねるなよ。俺とありまは何でもないし、俺と君の関係でそんなこと気にする必要もないだろうが。それとも―」 『判りました…』 携帯の向こうで、観念しているわけでもなく好機を窺うような語調で伊織がぼそぼそと続けた。『今からでいいですか?』 「結構。じゃあ十五分後に」 葛西は仕事の書類と顧客名簿を広げて電卓を叩こうと珈琲を淹れようとも考えた。だが、七分を過ぎるか過ぎないかでチャイムの音がし、インターホンで確認した視界にすぐさまたたずむ伊織の視線に気づいてドアを開ける操作をした。 一分もしないうちに到着した来客をドアを開けて出迎えると、久しぶりに見る顔立ちがある、 「随分早いな」 素直に驚いたまま言ったが、伊織はどこかうつろな眼を返してきた。
以前葛西が送った黒塗りのブレスレットに向かって右だけ長いピアスを通した痩せた肌は人目を惹き、白いスラックスにスカイブルーのコンバースと言ういでたちも深い鍔の黒い帽子とあわせると彼に似合っていた。 だがその服装に似合わず、洋服屋の紙袋にはブレザーが入り、持っているのもいかにも男子高校生が持つバックである。 |

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