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<2002年の旅、レゾリュート出発>
私がどのようにして北極へ赴くようになったか、一年前のブログからの転載です。
前回からの続き
2002年3月、初めてのカナダ北極圏単独徒歩行を行う計画で、私は一人旅立ちました。バンクーバー、エドモントン、イエローナイフを経由して、いよいよカナダ北極圏北緯75度付近に位置するレゾリュート村に到着します。
3年連続でのレゾリュート、一昨年と前年に泊まった同じ宿に入りました。
この時期の北極は、マイナス30度以下でだいたい安定しており、肌を刺すような寒さを超えた痛みを感じます。
今年の計画は、ここレゾリュートから東へ約500km離れている隣村、グリスフィヨルドまでを一人でそりを引きながら歩きます。
歩くのはほとんどが凍った海の上で、一か所だけ30kmほど島を越える必要があります。歩くルート上には村どころか、誰一人いない完全な無人地帯で、いるのはホッキョクグマやキツネ、アザラシなどの野生動物だけです。
レゾリュートに到着してからは、まずは体を外気の寒さに慣らさないといけません。毎日なるべく外にいるようにして、村の裏にある丘に登ったり、スキーで歩く練習を行ったりします。人間の体は誰にでも適応力があるので、毎日マイナス30度以下の気温の中で活動していれば自然に体が北極の気候にも慣れてしまいます。
日本から持ってきた膨大な荷物を開封し、装備品が壊れていないか?外でもしっかりと使えるか?一つ一つをチェックし、体も慣れてきたころにまずは外で一泊してみます。
気温はマイナス37度、肌を刺す冷気が心地よく、レゾリュートの目の前に広がる湾の海氷上にテントを張ります。氷を枕に寝ていると、「グググゥ」「ギギィィー」という海流で氷が動いて擦れる音が聞こえてきます。はじめは音が不気味でなかなか寝付けませんが、分厚い寝袋の中でそのうちに眠りに落ちていくのです。
このレゾリュートには世界中から北極冒険を行う変わり者が集まります。
同じ宿にカナダ人の3人組が泊まっていました。北磁極まで行くということで、荷物は犬ぞりで運び、人は空身でスキーで進んでいく計画ということでした。
同じ宿で毎日顔を合わせているうちに仲良くなり、私も2年前に北磁極まで行っているのでルートの情報を教えたり、逆に彼らが使っている食料を分けてくれたりと一緒に準備を整えていきました。
リーダーのクリスティアンは20代の若者で、高い志を持つ聡明な男であると感じさせます。
「カナダは南極に観測基地が無いんだ。僕の夢は将来、南極にカナダの観測基地を作ることなんだ。日本は基地を持っているよね、うらやましいよ」
壮大な夢を語るが、彼ならきっとやり遂げるんじゃないだろうか?と思わせる力強さを持っているように感じました。
レゾリュートに来て10日ほど経ち、一通りの準備も整い、いよいよグリスフィヨルドに向けてスタートを切ることになりました。
天候の良い日を待って、4月9日にそりを引いて一人でレゾリュートから出発しました。
レゾリュートを離れるとすぐにホッキョクグマの足跡を発見。ここは人間の世界ではなく、彼らの世界なのです。たった一人で海氷上を行く不安もありましたが、これから始まる旅への期待と「一人で歩き切ってやる!」という情熱の方が勝っていました。
しかし心の奥では違ったのでしょう、時々後ろを振り返っては「ああ、まだレゾリュートが見える」と、確認している自分がいるのです。やがてレゾリュートから離れて村の姿も見えなくなると、もう振り返ることはありませんでした。ここからは覚悟をきめて行くしかないのです。
初めての単独行が始まりました。
つづきはまた明日。
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