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話が前後するが、ケンブリッジベイに来る前、日本を出て最初に入ったエドモントンで友人のピーターさんに会いに行った。 ピーターは80年代から極地冒険の「聖地」レゾリュートでガイドの仕事をしていた、カナダ北極圏のことや遠征のことをよく知るエキスパートでもある。 いまは極地でのガイドの仕事はやめて、元々の本職である大工をしている。 私が2000年の大場さんに連れられて行った初めての北極行でも、ピーターは我々のサポート役として35日間の徒歩行に同行し、色々と教えてくれた。その時からの付き合いである。 以来、私が北極に行く時には必ずピーターの家に泊めてもらいながら、その都度の遠征の計画を相談してアドバイスをもらい、様々なことを教えてもらった。私にとって極地冒険の先生の一人でもある。 最近はエドモントンによることも少なかったので今回は久しぶりに会いに行った。 様々な話をする中で、レゾリュートの現状の話が心に残っている。 私がまだ駆け出しの若かった頃、レゾリュートに一人で行ってもサポートしてくれる人がいた。植村直己さんを世話した宿のベーゼルさん(95年に亡くなった)の奥さんであるテリーさんには、私の最初の一人旅を助けてもらった。 そのテリーさんも2003年に宿を引き払い、南の地元に帰っている。その後、別の宿を開いて冒険家たちのサポートをしてくれていた人もいて私もかなり世話になったが、彼も宿をやめてしまった。 植村さんの時代から、極地冒険の最前線であるレゾリュートには、私みたいな経験もなくエネルギーだけ抱えて単身で冒険に出かけても、それをサポートしてくれてアドバイスを与えてくれる人と設備があったのだが、現在、それを引き受けられるだけの人が誰もいないのだ。 いま、かつての私のように若者が一人でレゾリュートに行っても「やるのは自由だよ、リスクは自分持ちね、さあどうぞ」と誰に指導されるわけでもなく勝手に放り出されるだけである。 極地はやる気や根性だけでどうにかなる場所ではない。海氷の見極め方やホッキョクグマへの対処法など、一歩間違えればすぐに命に関わる要素に溢れている。ホッキョクグマに対して気合だけではどうにもならない。 3年ほど前に、オランダ人の二人組がレゾリュートの北側の海峡で薄い海氷を踏み抜いて水に転落し、二人とも死亡する事故があった。その事故は、私から見れば明らかに危ない場所に入っており、事故が起きるのは必然だったと言わざるを得ないのだが、彼らにそれをアドバイスして注意した人は誰もいなかったのだろうと思う。 このままだと、極地冒険探検のノウハウやスキルというのは伝承されていかないのでは?という危惧がある。 きっと将来、我々のやるべきことの一つとして、レゾリュートをはじめとして極地冒険の下地を支える環境づくりがあるのだろうと、ピーターと話をしていて切に思った。
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