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たまには北極関連ネタも紹介。 昨年、私はカナダ最北の村グリスフィヨルドからグリーンランド最北の村シオラパルクまでを、一人で歩いた。これまで誰も、徒歩でつないだ人はいなかった。 なぜ誰も歩いて行かなかった?の最大のポイントは、二つの国を分けている海峡越えの難しさがある。 写真は、今年と昨年の国境の海峡を写した衛星写真。左が今年、右が昨年。 昨年、私が越えた時には、海峡のほぼ全てが凍結しており(白く写っている)南のバフィン湾の出口に当たるスミス海峡付近に、きれいに凍っているところとそうでないところの境となる「フローエッジ」がアーチ状に形成されている。 しかし今年は、海峡全てが黒く写っており、浮氷は漂うが凍結はしておらず、歩くことは不可能であることが分かる。 つまり、もし今年、昨年と同じ計画でこのルートの踏破を目指しても、海峡を越えることはできない状況だということ。 このルートを超えるのであれば、この海氷の見極めが最大のポイントとなる。「行ったところで、渡れる状況なのか?」 グリスフィヨルドから行けば、海峡に辿り着くまでに650kmほど歩かなくてはいけない。行ったところで渡れなければ、また同じ距離を歩いてグリスフィヨルドまで戻る必要がある。 この海峡は、北からは北極海から南下してくる海流と氷の動きがあり、南からは広がったバフィン湾から北上しようとする海流があり、二つの流れが絶妙なバランスでぶつかり合っている。 海峡の南の出口にあたる、狭まった「スミス海峡」で二つの力が拮抗し、うまく凍結すると綺麗な「フローエッジ」となる。 こうなった時にしか渡ることはできない。 状況は年によって変わり、南北の海流の拮抗が崩れれば、今年のように全く凍らないまま冬を越えて夏となる。 昨年は、衛星写真の推移の観察から、自分が海峡に辿り着く時期には間違いなく渡れる状況になっているであろうという判断の元に出発し、無事に通過することができた。 では、うまく凍結すれば楽チンに渡れるのか?といえば、そうではない。海流がぶつかり合っている箇所であるため、海峡の全体にわたって乱氷帯の嵐である。スミス海峡の乱氷は、カナダ北極圏の各地を見渡してもトップクラスの激しさとなる。 スミス海峡の乱氷。これが延々続く しかし、一つだけ乱氷を回避する手段がある。 それは、凍っているところと凍っていない場所である「フローエッジ」の際を行くことである。その場所には、のりしろのような感じで凍ったばかりの新氷が広がっていることが多い。シオラパルクのイヌイットが犬ぞりで狩りに行く時には、その新氷帯を利用して乱氷を避ける。20世紀初めにアメリカの探検家ドナルド・マクミランの隊は、幅50kmほどのスミス海峡を新氷帯を利用してわずか6時間で通過している。1975年に北極圏1万2千キロの旅でシオラパルクを出発した植村直己さんも、この新氷を利用している。 では、昨年の私はフローエッジに広がる新氷を利用したかといえば、そこは通っていない。フローエッジから30kmほど北を、大回りに乱氷を越えて海峡を越えている。 なぜ通過しやすい新氷を通らなかったかといえば、この新氷を渡るには絶対的に「スピード」が要求されるからだ。 南北二つの海流の力が拮抗し、常に北からの風にさらされるフローエッジ際の新氷は、ちょっとした外力で崩壊して南のバフィン湾へ流出する。スミス海峡の新氷を渡るには、ドナルド・マクミランのようになるべくその場に留まらずに「駆け抜ける」必要がある。 マクミランも、地元のイヌイットも、植村さんも、犬ぞりである。一方、私は徒歩である。圧倒的に遅く、どうしても新氷越えの最中に途中で一泊するという計算をせざるを得ない。それは、あまりにもリスキーであるため、新氷は通らずに乱氷は覚悟でより安定している北側を通過した。 それ以外にも、沢山の注意点や見るべきポイント、考えるべきこと、テクニックはあるのだが、もしスミス海峡を越えたい人がいれば個別に教えます(笑)誰もいないだろうけど。
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