数千年前から北極で生きてきたイヌイットは、長い間、生きる糧を狩猟から得てきました。
北極圏の大部分は森林限界線を越えており、高い木が生えません。植物といえば高山植物のような背の低い草花や、地面を覆うコケが主なものです。
北極では「農耕」ができず、食料を「生産」する事ができません。狩猟によって、生きる全てを得る必要があるのです。
イヌイットが狩猟の対象としていたのは、ホッキョクグマ、カリブー(トナカイ)、ユキウサギ、ホッキョクギツネ、ジャコウウシ、アザラシ、セイウチ、ホッキョククジラ、イッカク、といった哺乳類、アークティックチャー、トラウト、オヒョウ、などの魚類、夏になるとやってくる渡り鳥、といった動物です。
狩猟で得た動物は、単に食料となるだけでなく、毛皮からは衣類やテントを作り出しました。骨からは矢じりや釣り針といった、いろいろな道具を作り、カリブーの腱は糸代わりになりました。
木が生えない地では木材が簡単には手に入らないので、動物の骨が木材の代わりになっていました。
以前、イヌイットと一緒にカリブー狩りに出かけました。
カリブー狩りの時期は、10月ごろがシーズンです。長距離を移動しながら生きるカリブーは、夏のえさ場で長い冬に備えて食べられるだけ食べ、体にできるだけ脂肪をため込もうとします。10月ごろから冬を越すための生息地に移動するカリブーを、イヌイットたちは捕りに行きます。
イヌイットといっても、現在では私たちと同じ近代的な生活ですが、カリブーの肉は「メチャクチャ美味しい」ことから今でも皆、喜んで狩猟に出かけます。
時期が来ると仕事が休みの日曜日などに友人たちと連れ立ってカリブー狩りに行くのです。
10月ごろの北極圏は、マイナス10度くらいに気温は下がっていますが、まだ積雪はあまりなく、スノーモービルもあまり使えないのでATVというバギーで出かけます。ちなみにこのバギーを、イヌイットは「ホンダ」と呼びます。当然ホンダのバギーもありますしスズキもあります、ポラリスというメーカーのもあるのですが、全て「ホンダ」です。
カリブーはライフルで仕留めます。カリブーは意外と近付いても逃げず、のんびり草を食べていることが多いのでけっこう簡単に捕ることができます。
日本で鹿狩りをすると、必ず「血抜き」をします。首の動脈を切って木につるし、体外に血液をできるだけ出してから解体を始めます。血抜きをすることで肉に血がまわらずに臭みを抑えられるからです。
しかし、イヌイットはカリブーの血抜きはしません。カリブーのとどめを刺すと、その場ですぐに解体に入ります。
使う道具は刃渡り15センチくらいの、普通のナイフ一本だけ。まず、四肢の毛皮をはがすと、腹の毛皮を縦に切り、毛皮と筋肉の間に手を入れながら毛皮を脱がすように剥いでいきます。
毛皮を脱がすと頭と四肢を切断、腹を裂くと中から内臓を取り出します。かつてのイヌイットたちは、野菜のない北極でどうやってビタミンを補給していたかといえば、カリブーの胃袋に詰まった消化しかけのコケや小腸をすするように食べることでビタミン源としていました。
今でも肝臓や腎臓などは解体しながらつまみ食いします。まだ生温かいレバ刺し、腎刺し?は、なかなか美味いです。普段、私はあまりレバーは好きでないのですが、解体したての野生のカリブーの内臓はかなり美味しく思えました。
小さな普通のナイフ一本だけで、カリブー一頭をものの20分くらいで完全にバラバラにしてしまいます。
イヌイットのカリブーの肉の食べ方は、凍らせてからナイフなどで削りながらルイベのように食べるか、あとは塩ゆでくらいです。
凍肉には塩をふったりもしますが、よく醤油を使います。北極圏のどの町でもキッコーマンソイソースが売られていて、イヌイットもよく使います。
カリブーの頭は鍋で丸ごと塩ゆでにして、毛皮と骨以外は全て食べます。脳みそはクリーミーなカンジですし、眼球はゴムを噛んでいるような固い食感。眼球の裏の神経はなかなか美味です。
最もおいしいのは舌。牛タンの何倍も味が凝縮したような旨味です。
書き出すといくらでも書いてしまうのでこの辺で。質問がありましたらコメント欄にお願いします。
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