北極冒険家荻田泰永のブログ 北極点を越えて

日本人初の北極点無補給単独徒歩到達を目指しています!

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私が北極に行くようになったきっかけは、大学を辞めて自分の人生に目標が持てない時に偶然知った、冒険家の大場満郎さんが企画した北極の旅に参加したことでした。その辺の詳しい経緯については8月27日からこのブログ上で書かせてもらいました。

アウトドアのど素人であった私が、自分自身への変化を求めて北極という異世界に魅せられ、長距離の徒歩行を繰り返すようになっていきましたが、続けて北極へ行くたびに、次第に北極のいろいろな魅力が見えるようになってきました。

その一つであるのが、北極に住むイヌイットの人々との出会いです。

イヌイットは以前はエスキモーと呼ばれていましたが、最近ではイヌイットという呼称が一般的です。エスキモーという呼称の起源については諸説あるようですが、南のインディアンが侮蔑の意味を込めた「生肉を食う輩」というインディアンの言葉から来た、ということらしいです。

イヌイットという呼称は、イヌイットの言葉で「人間、人々」を意味します。イヌックが単数形の「人」で、イヌイットは複数形になります。


そもそも先住民イヌイットは今から二万五千年ほど前、氷河期が訪れる少し前に、今よりも地球の海水面が百メートル以上低く、地続きだったベーリング海峡を通ってやってきたモンゴロイドです。

氷河期の訪れとともに、北米大陸は現在のカナダのほとんどが厚い氷床に覆われ、イヌイットの祖先となるモンゴロイドはベーリンジアに取り残されました。
氷河期の終了で北米大陸を覆っていた厚い氷床は後退し、同時に海水面も上昇、ベーリンジアも水没しベーリング海峡になりました。
ベーリンジアの人々は新たな土地を求め、氷床の後退した地へと活動範囲を徐々に広げていきます。あるものはシベリア側に渡ってチュクチとなり、あるものはアリューシャン列島のアリュートとなり、アラスカからグリーンランドにまで至った人々がイヌイットと呼ばれるようになりました。

イヌイットが西洋との関わりを持ち始めるのは、いわゆる西洋の大航海時代以降からです。
ヨーロッパの探検隊がアジアへの新航路探索の為、カナダ北極圏に帆船でやってくるようになりました。しかし、その多くが北極で命を落としました。最も有名な大量遭難例がフランクリン隊です。

イギリス海軍の退役軍人であったジョン・フランクリン卿が率いる二隻の帆船、エレバス号とテラー号がテムズ川の港を出帆したのは一八四五年のことです。
一二九名の乗組員と三年分の食料を二隻の帆船に分乗させ、北米大陸の北をアジアへ抜ける北西航路の探索に出発しました。

当時の極地探検は帆船に数年分の食料と燃料を積み込んで行く長期の探検が主でした。グリーンランド沖からカナダ北極圏へ深く進入したフランクリン隊は、予定の三年が経過しても戻っては来ませんでした。グリーンランド沖で捕鯨船に目撃されたのを最後に行方不明となったのです。

イギリス海軍は捕鯨船や、そこに住むイヌイットの目撃情報を頼りにフランクリン隊の行方を追い、一〇年以上の捜索の結果、数カ所の乗組員の墓地や陸地で越冬した跡、遺品と数々の記録を発見しました。それらの情報を総合すると、ようやく遭難の経緯が推測できるようになりました。

フランクリン隊は、大量に持ち込んだ缶詰の蓋の溶接に使われた鉛による鉛中毒や、ビタミン不足から引き起こされる壊血病などの病気に苦しみました。二年目に隊長のフランクリンは船上で死亡。病気と猛烈な寒さによって多くの隊員が力尽き、やがて二隻の帆船は凍った海氷の圧力で粉々に粉砕されて沈没しました。

船を放棄した隊員達は、海氷上を徒歩で南を目指し進みましたが、結果的に全員が死亡したのです。
捜索隊は、イヌイットから数年前に二隻の壊れた帆船を見かけたことや、多数の白人の遺体を見たという証言を得ました。またイヌイットの持ち物にフランクリン隊が所持していたと思われる物品を多数見つけました。
イヌイットは海氷上で粉砕された帆船から使える物を取っていました。木の生えない北極において、木材の塊である帆船は、イヌイットにとってはおそらく宝の山に見えたことでしょう。


一八〇〇年代に一気に加速した極地探検の中で白人とイヌイットとの交流も生まれ、極地の海洋資源に目をつけた白人はイヌイットから毛皮や獣脂を買い集め、各地にトレーディングポストと呼ばれる交易所を設けました。
それまで季節とともに移動しながら生活をしていたイヌイットはトレーディングポストに集まり、次第に白人が中心となった村を形成するようになっていきます。
一九〇〇年代になるとイヌイットの手にも「銃」が行き渡るようになります。

こうして白人文化にどっぷりと染められて、ほんの百年ほどでかつての太古から変わらない生活を一変させられました。それはさながら縄文時代が一気に昭和平成になったようなものでしょう。

今、そのイヌイットの急激な変化の代償は彼らの社会問題となって現れています。アルコール依存、ドラッグ中毒、自殺などは代表的なものでしょう。

変化はイヌイットの話す言葉にも見られます。カナダではイヌイットの多くが英語を話します。使用頻度は若年になるほど高く、逆に高齢者では英語の話せない者も多くいます。
今ではイヌイット同士の日常会話でさえ英語で行われることが多く、小学校ではイヌイット語(イヌクティトゥト、ヌナブト準州西部ではイヌイナクトゥンと呼ぶ)を授業で教える有様です。
しかし、グリーンランドでは未だイヌイット語が主流で使用されています。

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荻田泰永 北極冒険家
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