|
1977年昭和52年生まれの私の世代は前回の就職氷河期世代である。
とは言っても、私自身はいわゆる「就職」というものもしないままに北極だけに通い続けている。
私たちの世代が大学卒業を迎えるあたりのころ、世間では何かにつけてミレニアムだと浮かれ、西暦2000年問題で古いコンピュータがトラブルを起こしてどこぞの核ミサイルが誤発射するのでは?はたまたノストラダムスの大予言が的中して世界は滅亡するのではないか?と、「そんなの当たるわけないじゃん」なんて口にしながらも心ひそかに穏やかでない7月をやりすごし「初めからそんなの信じてなかったし!」と嘯いていたような世紀末だった。
懐かしい。
そのころ世間では「就職氷河期」という言葉が飛び交っていた。
一方私は大学を中退し、自分のやるべきことを必死に探していた。ただ無目的に漫然と過ぎていく日々には到底納得できず、いかにしてこの現状を打破すべきか、立ち止まっていては自分自身が腐っていくような恐怖心に煽られるように「何か」を探していた。
そんなある日、テレビで偶然見かけた冒険家の大場満郎さんの言葉に私は反応した。
「来年は若い大学生くらいの人を連れて北極を歩こうと思ってるんです」
その言葉に何か分からないが自分の求めているようなものがある気がして大場さんに手紙を書いた。
それをきっかけに北極の旅に参加することとなり、初めての海外旅行が「北極」という状態のまま、他の場所には目もくれず翌年もまた翌年もとひたすら北極に通い続けてきた。
いま私は10回の北極行を経て北極点への無補給単独徒歩到達という冒険行を目標に定めている。
成功すれば日本人初、世界4人目。なかなか難しい挑戦だ。
冒険としての難易度もさることながら、そこに必要な資金も大変である。
必要経費1800万円。これをいかに集めるか。
いままでの10回の旅は自己資金で賄ってきた。一回あたり150万円ほどの資金は半年間のアルバイトで捻出し、その金を握りしめて北極に出向いていた。
しかし北極点の挑戦には何かと金がかかる。一番は完全無人地帯でスタートするために現地へ移動する為の飛行機チャーター費用。一回飛行機を飛ばすと数百万円が一緒に飛んで行く。
こうなるとさすがに自己資金では難しいものがある。スポンサーを募るなり、多くの方の協力を得て北極へ行くことになるのだ。
最近は色々な人と会う。自分の計画を話し、これまでの旅で出会ってきた北極の姿を紹介する。
そうやってこれまで見ず知らずの人であった方々に共感してもらって、協力していただく必要がある。
これまでひたすら北極という「自然」の中だけで活動し、ある意味「社会」とは離れた場所でひっそり旅をしてきたのだが、今後北極点を目指すにあたっては自分から積極的に社会に飛び込み、「自分が見てきた北極」を紹介して共感を得ていく必要があるのだと感じている。
そしてこの作業というのは、どこかで「就職活動」と繋がるものであるのかもしれない。
就職「超」氷河期のいま、就職活動を経験しないままにここまでやってきた私が初めて向き合う社会。大学生が「学生」という守られた立場から初めて飛び込んでいく社会。
就職活動は自分を売り込み、その会社にとってどんな役割ができるのか、22年間の人生で経験したこと、一つでも語れるものがあるかが重要だと思う。
一つでも語れるものがあるとき、他人の心は動くのかもしれない。
私は以前、訪問したとある会社の方に言われてハッと気付かされたことがある。
「自分を語らずに北極を語れ」
話しの主体が「私が…、自分は…」ではなく、「北極はこんな世界でした」ということが重要だと言うこと。
劇的に変化する北極の気候。温暖化により生態系のバランスが崩れ、南方のグリズリー(ハイイログマ)がホッキョクグマの生息域にまで進入しているのを知っているだろうか?この数年内で2例、カナダ北極圏でグリズリーとホッキョクグマの雑種(ハイブリッド)が発見されているのだ。しかも最近発見された2例目のハイブリッドは遺伝子検査によると片方の親もハイブリッドであったという。2世代目。つまり人間の知らないところで繁殖し始めているのだ。
北極の海氷は急激に減少している。北極海底に埋蔵されている地下資源はいまだ北極海を覆う海氷が妨げになって開発されずにいるが、あと数十年経てば海氷はほぼ消滅し、新たな資源開発の場になることは現実味を帯びている。そして世界中の国々は来るべきその日のために虎視眈々と北極に注目し、私も北極を旅する中で北極海底調査の最前線の一端を見てきた。果たして日本国はその現実をどう捉えているのか?やれ小沢がどうした菅がどうした、そんな話しはどうでもいい!世界は動いているんだぞ!日本人はもっと知るべきだ、マスコミも伝えなくてはいけないはずなのに。
自分の話しは自慢話しにしかならない。それでは人の心は動かない。
見てきた世界、そこで感じたこと、人の知らない情報、熱意と具体性を持って語れる時に人の心は動くのかもしれない。
人の人生はその人だけのもの、自分の経験を語れるのは自分自身だけなのだ。
北極点に向けた資金集めは進行中であるがまだまだ程遠い。
きっと私が人の心を動かすほど語りきれていないのだろう。
就職超氷河期に生きる学生さんたちと一緒に、社会に飛び込んで夢を叶えていきたいと思う。
一緒にがんばろう!
|