◇Nothing special◇

せめてブログは気まかせ風まかせで

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日曜日の朝、ぼんやり眺めていたテレビの画面には、
総理大臣がお菓子を万引きして逮捕されただの
どこかの田舎にUFOが墜落して宇宙人が現れただの
いつものごとくどうでもいいニュースがだらだらと流れていた。
朝弱い俺はもそもそと、朝食の味噌汁を流し込んでいたし
親父は丁度、好物の半熟目玉焼きの黄身に優しく口づけようとしてた。
そんな時だった。
驚天動地のビッグニュースが我が家の平穏な朝を打ち破った。
お袋は、俺たち2人の男とテレビの間に立ちはだかると
おごそかにこう言った。

「茜に彼氏ができたらしいの・・・」

俺はブハッと味噌汁を鼻から吹き出し、親父は無言で、目玉焼きに箸を突き立てた。
流れゆく半熟の黄身と震える箸が、妙に印象的だった。

「鋼の女」「燃える闘魂」「番長」などの異名や伝説とともに、
男達を恐怖におののかせてきた妹に、彼氏だと?
妹にも人並みに異性に対して戦闘力以外に興味を向ける、そういう感情があったのだ
と、妙に感動し、俺は兄として盛大に涙を流したのだった。
・・・・笑いながらだけど。

詳しいことをお袋から聞けば、どうやら相手は、
ボランティア活動にやたら熱心だとか、自暴自棄になってるとか、
24時間テレビとか宗教にはまってる、なんてことはなく
「ふつう」の会社員らしい。
しかも、その彼氏が来週、家に来て夕食を食うという。
一体どんな奴なのか、半分兄として、半分生物学的見地からの興味から、
「よっしゃ、見てやろう」と思ったのだ。

話がそこで済めば、妹や両親にとってはまた違うのだろうが、
俺にとっては面白そうなイベントが1つ週末の計画に加わったという事に過ぎなかった。
しかしである。
これまで『料理』とは「自分が食べるもの」であり
「作る行為」という認識などもっているはずもない妹が
「私がつくる!」と宣言したからたまらない。
突如台所は銃弾飛び交う最前線となり、
時折、妹の叫び声や何かが切断される音が響く、恐ろしげな場所へと変わったのだ。
そんな状況を経てできあがってきたもの・・・
「ビーフシチュー風のナニカ」。
優しい言葉で言ったとしても「ビーフシチューっぽいナニカ」。
毒味役を仰せつかったのは、兄である俺。
一体何の罰ゲームなのだ?
目の前に置かれたシチュー皿に盛られたブツを見て、俺は内心激しく狼狽していた。
しかし、妹の鬼のような形相と据わった目を見て観念し、
俺はその「ビーフシチュー風のナニカ」をスプーンでひとすくい。
口に近づけるやいなや、ただ者ならぬ刺激臭で目と鼻をやられ
何色とも表現できない色彩に、俺の生物としての警戒本能は激しく警鐘を鳴らした。
俺のわずかな反応すら見逃すまいと、妹は、前のめりになり凝視しているのが分かる。
食っても地獄・・・
食わなくても地獄・・・
コンマ何秒かの間に様々なパターンがシュミレーションされ、そして
ああ!神様!これが兄妹愛といふ「血」のなせるわざか!
それともここで食べなかった方がダメージがでかいという冷静な計算の結果なのか?
俺はソレを口に入れた。
「!む☆ぱっ△っ◆ぐっ・・・ ・・・」
全ての味という味が混ざり合い、互いに打ち消し合い、
そう、たとえるなら、子どもが水彩絵の具を混ぜてきれいな色を作ろうと奮闘し、
たくさん色を混ぜすぎて、結果、何色でもないすさまじい色ができあがる、みたいな
そんな感じの味だった。
突き刺さる妹の視線に焦がされながら、俺は静かに告げた。
「・・・出前をとろう」

その一言が妹の闘魂に文字通り火を点けたのだろうか、
以来、俺は毎日その「ビーフシチュー風のナニカ」を食べ続けなければならない羽目に陥った。
1週間、俺は食べ続け、お袋のテンションは上がり続け、
親父は・・・次第に不機嫌になっていった。

そんなこんなで迎えた、日曜日。
彼はやってきた。
これから起きることなど全く知らない、純真無垢な笑顔とともに。
そして妹は、といえば。
お前は一体、今まで何を被っていたのだ?と人間不信を叫び、
心理クリニックに飛び込みたくなるほどいじらしいもてなしに、
俺は人の奥深さとか、恋のエネルギーを地球のために有効利用できないものか、
とかを考えていた。
お袋は「まあ!まあ〜まあ!」としかしゃべらず明らかに思考停止している様子だったし、
親父は、朝から機嫌が悪く、先程犬を連れて散歩に行ったきり行方しれず。
そして、迎えた夕食の時間。
例の「ビーフシチュー風のナニカ」は、
かすかに震える妹の手によって、彼氏の前にしずしずと運ばれた。
その色と形状を見て、一瞬、息をのみ、目が泳ぐ彼氏。
どうだっていいはずの俺まで、何となくグビビッとつばを飲み込む始末。
妹は胸の前で、ステンレス製のお盆がひしゃげている。

部屋に張りつめる、馬鹿馬鹿しいほど異様な緊張感の中で
彼は意を決したかのように、スプーンでひとすくい、そのブツを口に運んだ。
・・・ ・・・ ・・・
この日のために断食をしてきたのか、それともこいつはよほど舌が馬鹿なのか?
いやいや、それともこれぞ愛の力のなせる技なのか?
彼は俺たちが見守る中、無言で食べ続け、
そして、言った。
「おかわり下さい」
弾かれたように「はい」と答えた妹の目に光る涙・・・。


それなりに、感動させてもらったよ、お二人さん。
この男で妹の料理がまともなものになるのかは、ちょっと気がかりだが・・・。
でも、そこは、うん・・・まぁ・・・いいか。
その日俺はなんとなしに肩を落とし帰還した親父と久しぶりに酒を飲んだのだった。

閉じる コメント(12)

あはは♪ 愛のなせる技?(笑) 私は本当にまずかったらまずいって言って欲しい・・・といいつつも、言われたらちょっと悲しいんですけどね(^^;)

2011/6/30(木) 午後 4:16 [ han**oraai ]

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妹…。
前置きの世相が少し近未来っぽいのですが、家族ってヤツは変わらないモノなのでしょう。
父上の不機嫌も想像に楽しい。
どんな妹でも父上には宝の娘なのでしょうね。
パターンでもある「家族の料理下手」ですが仕上がりがいいので、想像しがいがあります。

2011/7/1(金) 午前 0:54 [ さや ]

「・・・出前をとろう」のタイミングがバッチリでした^^
こちら、深夜にもかかわらず^^大爆笑(*≧艸≦)ブァッハッハ!

普通2度は、その手はくわなの焼きはまぐりの「おかわり下さい」に
また、引っかかってしまったです。ハイ!><

結局・(〃^∇^)oアーッハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \を3回やってしまった( ̄□ ̄#)

どういうことですか?大問題ですよ!とはコバエホイホイのCMの見過ぎか・・・・・

2011/7/1(金) 午後 9:34 小型 スクー太

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一生懸命さを食べてくれた彼氏はえらい!^^

2011/7/1(金) 午後 9:42 あこタマ

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笑けました(*´艸`)プププ
パソコンを前にニヤニヤと笑うたしぎを見て、ケイが眉をひそめています。
兄弟姉妹が「彼」「彼女」を連れてくる場面て、ほんと笑けるよね。
いつもとぜんぜん違うやないか!って突っ込みたくなる気持ちを抑えてそれなりに場を繕うあたり、兄弟愛を感じる♪
笑ってスッキリした〜♪ありがと^^

2011/7/2(土) 午後 9:37 [ たしぎ ]

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はなそらさん。男としてはどっちにすればいいのかなぁって思い悩みながら結局こういう感じにしてみました。
「まずい」って言えるのがきっといい関係なんだろうなと思いつつ。

2011/7/6(水) 午後 9:51 おはよ

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さやさん。プロローグのどうでもいい(というかそういうところにこちょこちょ書くのが好きなんですけど^^)ところに嬉しい感想です。

2011/7/6(水) 午後 9:52 おはよ

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スクー太さん。いつもしっかり楽しんでくださってすんごく嬉しいです。こちらこそスクー太さんのコメントで大爆笑っていうかにんまりさせてもらってます^^

2011/7/6(水) 午後 10:04 おはよ

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あこタマさん。やっぱ食べるべき、なんでしょうか?
実は未だに悩んでますが、短い文で彼氏と妹のエピソードをはしょった分、こんな着地になりました。

2011/7/6(水) 午後 10:06 おはよ

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たしぎさん。楽しんでいただけて嬉しいです。
ケイくんにも感想聞きたいところですが^^;
僕は実際そういう場面なかったなぁ。自分が連れてきたことはあるけど。

2011/7/6(水) 午後 10:07 おはよ

微笑ましい!ポワっと心に灯火が♪
おはよさんの小説は、ステキ!いつも優しい気持になれます!!
茜さんの彼は「男!」だね!
「おかわり下さい」!!良いですねぇ!しびれます!
茜さんの光った涙はダイヤモンドよりも輝いて、心にとどまり続けることでしょうね☆

2011/7/13(水) 午後 11:41 珊瑚カエル

PS
猫ちゃんの写真、かわいい!
めちゃ、かわいいです!!

2011/7/13(水) 午後 11:43 珊瑚カエル


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