角の墨彩画

コメントの返事書かないことが多いですが、お許しを・・・

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「怒らんで聞いてよ。あなたすぐ怒るから・・・・、嫌なんじゃ。いい、怒らんでよ。」
「起これへんわ。どうしたん。」実はもう既に怒りたい気分になっていた。
「早く言えよ。」
細君は何処まで話せばよいのか迷っていたが、初めから話さないとどうも夫が誤解しそうに思えて来た。もうすっかり辺りは暗くなって、国道2号線の手前信号で停止した時は数多の流星が途切れることのないように車のライトが流れていた。「
「家の近くに塵ステーションがあるやろう。そのステーションの道端に1週間ほど前から自転車が放置されていたのしってる。」
「ああ、知ってるよ。誰かが捨てたんだろう。」
「その自転車で二人乗りしてる所をパトカーに見つかって補導され、色々と調べられてじてんしゃを盗んだことになってしまい、認めたんだと、・・・・・」
「そうか。然しそれは窃盗にならんで、二日前のY新聞記事で岡山市内のごみ収集所に市民が出した新聞雑誌やアルミカン等をリサイクル屋が車で乗り付けて無断でゴッソリ持って行ってしまう。何とか成らないのか?という質問に対して窃盗にはならないと現場写真と一緒に載ってたで、・・・・・俺がそのことを言ってやる。大丈夫だ。」
「捨てたのか誰かのを盗って放置して逃げたんかは分からんやろう。」
「そりゃそうだけど、本人が塵捨て場の前に捨てられていたから不用品と思っていたんで良いんだよ。善意の第三者だよ。」
「それなに、第三者ってどういう意味なのよ。」
 野村の細君は納得いかないで小声でブツブツ言った。野村にしても絶対大丈夫だと言えるだけの法律に裏打ちされた確信がある訳ではない。たまたま二日前の新聞記事に掲載されていた記事を根拠にして窃盗罪にならないと思い込んでいるに過ぎない。
 そんなやり取りをしていると倉敷警察署の手前信号まで来て赤信号で停車した。
「あなたァ、頼むから警察で大声を出して無茶は言わないでよ。あの子が困るから、・・・」
 信号が変わって車が20m先の正門を通り越して右折して玄関脇に駐車した。所々に消えかけているような寂しい街頭が二人を迎えた。署内はさらに人っ気がない様に植え込みが遮っていた。

 野村の細君が署内に5歩、3歩も先に入った。玄関に入ると事務方らしい人達の姿はなく、薄暗い室内が嫌な予感を与えた。玄関のすぐ右側は直線状に、肋骨下あたりの高さにカウンターで仕切られていた。高くしているのは部外者が安易にカウンター内に侵入できない為だろう。先に入った細君がカウンター内の若い署員とカウンターを隔てて話していた。
 野村は下駄履きだから署に一歩踏み入れた時、少々甲高い下駄の音が気になって細君の忠告を素直に聞き入れておけばと後悔したが後の祭りだ。儘こういうことがない訳ではなかった。既に遅いのである。それに野村は顔つきと言うか目つきで損をする類の人間だ。例えば、友達に誘われると金がないか先約がない限り夜の街に出かける。自分の行きつけのバーには行かない、が手持ち軍資金が少ない時は2次会に誘う。相手の行きつけに行く方が相手が盛り上がって喜んでいるのを野村は楽しんでいる。そのほうが野村は気分が良い。飲み屋の姉ちゃんが初対面の野村に、仕事や趣味のことを聞いてくるので答えてやると「本当ですか。そんな風に見えない。」きまって言う。野村は無視することにしている。丸でデリカシーのない人間のように言う。
 桐下駄のことは後悔した。後悔したが息子の運命が掛かっている以上細君に全てを任すことは出来ないと思っている。助けてやらなければ親父失格で後々息子に申し訳が立たないと思っている。我慢して1歩1歩抜き足差し足のようにして細君の居るカウンターまで窮屈に進んだ。細君に「息子達はどこに居るんだ。まだ取り調べされてるんか。先ほどの署員はなんと言ったんだ。」ここまで一っ気に細君に聞いた。
「さっき帰ったって、・・・・・」


                    続きます

身体を息子の方に向き変えて顔を見た。別に変わった様子には見えなかった。息子はソファに凭れて、この頃は大人びてきた。話しがあるんで有れば自分と同じ畳に座りなおせばよいのにと思った。育て方が間違ったかなあ、と思った。
「いやあ、何もしてないよ。」
・・・・・・・・・。
「あのなあ。俺、警察に連行された時、自転車盗んだの俺だと言ったがあれは俺じゃなかったんだ。」
「そうか。」
「S子が取ってきて、二人乗りしようと言ったんだ。女の子のせいにしたくなかったんだ。」
「ああ、そうか。お前、窃盗の前科がついたもんなァ。」
「指紋何時まで残ってるかなぁ。」
「警察はしつこいから、一生残すだろうな。」
「そうか。でも俺、就職できたからもう関係ないか。」
 そこで話しは中断した。息子は親父に風呂に入れと言っておきながら自分が先に入ってしまった。電球型の蛍光灯3ヶぶら下がった照明器具が20畳ばかりのダイニング兼居間をほの暗く照らした部屋に野村は取り残されたようで少し消化不良をおこした。今更、息子は何を思って昔のことを持ち出したのだろう。野村が居どころ寝している間にテレビ番組でそういう類の画面を見たのかもしれない。テレビが何かを放映していたが、見る気にはなれなかった。それかといって何時ものように自室でデスクワークする気分ではない。
 やおら立ち上がり、ウイスキー棚からお気に入りの古伊万里ソバチョコにNIKKA余市を注いで冷蔵庫から角氷を4ヶ取り出して加えた。
 畳1畳ほどの食卓テーブルに肘を着き、少しずつ口に運んだ。
忘れていた10年前のことを思い出そうと頭の中の靄を払うように一杯目を空にした。

 あれは秋口だったろうか。確か野村は厚手の作務衣を着ていたのを思い出した。息子が居ない晩飯が終わりかけた頃に携帯電話が鳴った。細君はうんうんと何度も頷いた。
「なんで、あんたがやったん。」
「・・・・・・・・」
「今何処に居るんね。・・・倉敷警察署やな。今いくけん。そこに居るんで、・・・」
野村は晩酌していたが細君の受け答えの会話に多少動揺した。
「息子がどうしたんなら。なにか悪いことをしたんか。」
「あんた、私運転するから一緒に来て。そんな格好じゃ変だから着替えてきて、・・・・」
「なんで着替えんといかんのじゃ。構うもんか、」
「警察に行くのにやっぱり変よ。」
「いいよ。」
野村の細君は一気に興奮してきたのが自分では分かってないなあと野村は思った。椅子から立ち上がり玄関まで足早に進み、散歩に履く桐下駄を引っ掛けて外に出た。既に細君は車庫から車を出して待っていた。乗り込むと「あんたァ、酔っ払ってない。警察で大声出さないでよ。」と釘を刺した。少しは酔っている、と思っていたが平常心を装って大人しくした。車が走り出した。
「息子の話し教えてくれてないが、早く言えよ。」

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