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身体を息子の方に向き変えて顔を見た。別に変わった様子には見えなかった。息子はソファに凭れて、この頃は大人びてきた。話しがあるんで有れば自分と同じ畳に座りなおせばよいのにと思った。育て方が間違ったかなあ、と思った。
「いやあ、何もしてないよ。」
・・・・・・・・・。
「あのなあ。俺、警察に連行された時、自転車盗んだの俺だと言ったがあれは俺じゃなかったんだ。」
「そうか。」
「S子が取ってきて、二人乗りしようと言ったんだ。女の子のせいにしたくなかったんだ。」
「ああ、そうか。お前、窃盗の前科がついたもんなァ。」
「指紋何時まで残ってるかなぁ。」
「警察はしつこいから、一生残すだろうな。」
「そうか。でも俺、就職できたからもう関係ないか。」
そこで話しは中断した。息子は親父に風呂に入れと言っておきながら自分が先に入ってしまった。電球型の蛍光灯3ヶぶら下がった照明器具が20畳ばかりのダイニング兼居間をほの暗く照らした部屋に野村は取り残されたようで少し消化不良をおこした。今更、息子は何を思って昔のことを持ち出したのだろう。野村が居どころ寝している間にテレビ番組でそういう類の画面を見たのかもしれない。テレビが何かを放映していたが、見る気にはなれなかった。それかといって何時ものように自室でデスクワークする気分ではない。
やおら立ち上がり、ウイスキー棚からお気に入りの古伊万里ソバチョコにNIKKA余市を注いで冷蔵庫から角氷を4ヶ取り出して加えた。
畳1畳ほどの食卓テーブルに肘を着き、少しずつ口に運んだ。
忘れていた10年前のことを思い出そうと頭の中の靄を払うように一杯目を空にした。
あれは秋口だったろうか。確か野村は厚手の作務衣を着ていたのを思い出した。息子が居ない晩飯が終わりかけた頃に携帯電話が鳴った。細君はうんうんと何度も頷いた。
「なんで、あんたがやったん。」
「・・・・・・・・」
「今何処に居るんね。・・・倉敷警察署やな。今いくけん。そこに居るんで、・・・」
野村は晩酌していたが細君の受け答えの会話に多少動揺した。
「息子がどうしたんなら。なにか悪いことをしたんか。」
「あんた、私運転するから一緒に来て。そんな格好じゃ変だから着替えてきて、・・・・」
「なんで着替えんといかんのじゃ。構うもんか、」
「警察に行くのにやっぱり変よ。」
「いいよ。」
野村の細君は一気に興奮してきたのが自分では分かってないなあと野村は思った。椅子から立ち上がり玄関まで足早に進み、散歩に履く桐下駄を引っ掛けて外に出た。既に細君は車庫から車を出して待っていた。乗り込むと「あんたァ、酔っ払ってない。警察で大声出さないでよ。」と釘を刺した。少しは酔っている、と思っていたが平常心を装って大人しくした。車が走り出した。
「息子の話し教えてくれてないが、早く言えよ。」
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