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紫の花を庭で摘むと、香澄はふっくらと盛り上がった胸に押し当てる。 花はつぼみからようやく開き初めていて、 甘い香りが花からさわやかな流れとなって香澄の胸にかかる長い黒髪にそって昇っていった。 香澄は袖を目元にそっとあて、 袖口はひんやりと濡れている。 「冷たい!」 花を摘んだ時に付いた朝露なのか、一晩中泣き明かした香澄の涙なのか、 「あの方は昨夜も来てくれなかった、その前も、その前も・・・ 嫌われてしまったのかしら! あの夜の私の仕草に気を悪くなされたのね! 殿方が女のどのような振る舞いを喜ぶのか十五をかぞえたときから、 枕絵や女官達から一生懸命に学んでいたのに・・ あの方の唇が首筋から胸におりてきて・・ 熱い手が裾を分けあがってきたときに、 ただただ私は石のように身体を固くしていた。 頭では分かっていたのに、心と身体がまだついていけなかった。 目と腿を固く閉じ、 あの方の次に来る行為を思い身を震わせていた。 身体にのしかかるあの方の重みがふと消えて、目を開けた時、 いなかった、 まるで夢の出来事のように去ってしまわれた。 でも、夢ではない! 私の身体にはあの方の手と熱い唇の感触が残って、 こうしている今も私の心を熱くしているから」 「香澄さま!夜明けの庭に長くいらっしやいますとはお体を冷やしてしまわれます、 どうぞお部屋に御戻りくださいませ、それにしてもなんという空の色! 近頃天変地異がひんぱんに起きているとの話も聞きます おお〜恐ろしや」 侍女の言葉で香澄も明け方の空を見上げる。 霞んだ山々の上で雲をかき分けて、燃える龍のような光の帯が不気味にうねっていた。 |
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昔ののんびりした雰囲気っていいですね。
現代と違った美しさのようなものを感じます。
2010/5/13(木) 午後 9:15
現実に疲れたら、千年前にとびましょう。
2010/5/14(金) 午前 4:09