絹子の創作物語

事実を参考にした創作です

SF ラブレター

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ほこら 伍 完

 「ねえ見て、おじいちゃんの顔、とっても幸せそう」

「ほんとに、いい死に顔だ」

「そういえば、あの話覚えているか」

「忘れるはずないじゃない、子供のときから何度も聞かされたわ

 もしかして、黄泉の世界であの人に会えたのかしら、私達としては複雑な気持ちね」

「そうだな、おじいちゃんの戦争中のロマンか」

ふとんに冷たく横たわっている冬樹をかこんで今はそれぞれに家庭を持っている子供達が

思い出話をし始めた。

「海に撃墜され、波間に浮かぶ日本飛行兵を助けだしたアメリカ兵は驚いたそうな」

「オウマイガットか、ははは」

「傷一つ、火傷一つしていなかったということだ」

「そうそう、墜落するゼロ戦操縦室、真っ赤な炎に取り囲まれ、れいの箱の中に見えたものは

 くりっとした目、長い髪、アイドルみたいな可愛い娘だったと」

「おじいさん、すぐにわかったって、美鈴さんだってことが」

「人間てふしぎだな〜そんな差し迫った時でも、変なことをかんがえるんだな」

「美鈴さんって可愛いじゃないか、美人の基準って時代で違うんだな〜なんておもったそうよ、

 美鈴さんが伸ばした腕の透きとうるような白さがおじいちゃんの記憶のさいごだって」

「ママー、ママー」

隣の部屋から子供の声が響いてくる。

「ママー、テレビが怖いよ」

テレビ画面では女性レポータがわめいていた。

・・マンションから始まった闇はどんどんと広がり、今では多摩地区全てがのみ込まれてしまいました。

  各社の勇気ある報道へりが闇に飛び込みましたが、一機も戻ってきません。

  すでに、多摩地区に隣接する地区は避難指示がでています・・

多摩地区であるはずの所は、漆黒の闇が支配していた。

「ママー私たちもどこかに逃げるの」

「だいじょうぶよ、偉い人がなんとかしてくれるから」

・・そうだろうか、明日になれば、また、いつもの平凡な日々に戻っているだろうか・・

男達はテレビ画面から目を離さず不安そうに

「なあ〜冬樹おじいさん、そういえば言ってたな、箱の中には美鈴さんの後ろに

 恐ろしい闇があったと」


   *** 完  ***


ほこら 四

 青い空の中空気を切り裂くエンジン音と銃撃音が響いていた。

三機一隊となってよく統制のとれたアメリカ機に対し、

経験も訓練も不十分な日本軍機は次々と炎に包まれていった。

ゼロ戦は軽い機体と強力な20ミリ機関砲で格闘戦にはすぐれていたが、

ミッドウェイ戦で壊滅状態になった海軍航空隊には経験をつんだ優秀な飛行士は

もはや残っていなかった。

アメリカ軍機は大馬力のエンジンと頑丈な機体で一撃離脱作戦を使い格闘戦に入らなかった。

冬樹のゼロ戦は、闘っているというより逃げ回っているありさまで、

劣悪な材料と工作機器、そして女子供まで動員して作り上げた飛行機は

極度な負荷のため空中分解寸前で機体は悲鳴を上げていた。

ガツガツガツ 機体に衝撃が走る、メラメラと炎が冬樹をとりまいた。

落下する操縦席の中、箱が冬樹の胸に当たった。

冬樹は箱を両手でかかえると、

・・もうこれまでか・・

箱の蓋がはずれた。

ほこら 参

 小さな祠の前で美鈴は思いつめた顔をしてたたずんでいた。

・・祠の箱に悩みごとを書いた文を入れておけば、きつと解決してもらえる、ならば・・

「どうかおねがい、冬樹様を助けて、その代り美鈴の命を捧げます」

箱に文を入れると祠の中に身をかがめ、そっと置く

カタンと石に当たる冷たい音とともに漆黒の闇が祠から広がり、美鈴が驚きの声を上げる間もなく

見る見る美鈴を包んでいった。

・・・・

 はるか彼方海と空は青く溶けあっていた。

規則正しいエンジンの振動が冬樹の体を細かく震わせている

20機のゼロ戦は敵艦をめざし編隊飛行をしている。

「前方、敵機発見、多数」

黒い点が雲蚊のごとく向かってきた。

冬樹の体はぶるぶると震えていた、怖いのではない

死ぬ覚悟はとっくに出来ている、武者ぶるいと言うやつである。

「俺は国のために死ぬ」

冬樹苦笑いをした

「うそだ、死ぬ時くらい自分に正直になろう」

「美しい故郷と親兄弟、それにあの人のために」

脇に目をやると狭い操縦席の隅に黒い箱があった。

ほこら 弐

 なんどかの不思議な箱をとうした手紙のやり取りで、美鈴と冬樹の気持ちは急速に近づいていく。

・・美鈴さん、今回つらい事をお話しなければなりません、今僕の国は大きな国を相手に

  戦争をしています。

  じきに、僕も戦場に行くことになります、生きて帰る事はないでしょう。

  この箱は戦場に持って行きます、もう、あなたに返事を書くことはできませんが、

  僕の人生で美鈴さんと知り合え、短い間でしたが心のやり取りが出来た事は

  とても幸運なことでした。・・

突然の手紙の内容に美鈴の気持ちが深い悲しみに包まれた。

なんとかして冬樹様を救いたい、でも何ができるのだろう。

美鈴は必死に頭をめぐらせた、

「そうだわ」

なにか考えついたらしく、美鈴は出支度をし始めた。








  
  

ほこら 壱

 海に向かい深い緑の木立の中少し下った所に小さな祠があった。

祠の周りの草はきれいに刈り取られていて掃除も行き届いている。

うつむきかげんに、足元を一歩一歩確認しながら若い娘が祠に向かい降りてくる。

長い黒髪を首の後ろで一度束ね、さらさらとした艶のある流れが広がりながら腰まで届いていた。

娘は祠の前に来ると、手を合わせ一礼をする。

膝をかがめ、祠の小さな扉を開けると、中には黒い硯箱程度の箱がほこりもつかずにあった。

娘の透きとおるほどの白い手が、そっと箱をささえ取り出すと、白い布の上においた。

箱の蓋を開け、娘は懐より取り出した文を箱の中に収めた。

 翌日、祠の前には昨日の娘がいた。

蓋の開いた箱、箱から取り出した白い紙を食い入るように娘の視線が追っていた。

。。貴女様の手紙拝見しました、深刻なお悩み、遠くの世界に居る私には

  なにも助けてあげられませんが、少しでも心の慰めになればと思い

  僕の考えなど書き記したいと思います・・・

娘は大事に文を持ち帰ると、そうそうに返事を書き始めた。

・・冬樹様、お名前よばさせて頂いてもよろしいでしょうか。

  やさしい、温かみのあるお言葉、美鈴の心は、雨が上がっていくように

  軽くなっていきました。

  そうですね、女子を外見だけで判断する男などいつまでも気にやむ事はないですよね・・

美鈴は文を書きあげると祠にある不思議な箱に考えをよせた。

祠の箱に、悩みごとがあれば文に書いて入れておけば翌日には、返答が返ってくると、

美鈴の幼いころに亡くなった母が教えてくれていた。

遠くの世界にいる冬樹様とはどのような人なのか、

「そうだ暗くなる前には書きあげた文を祠の箱に納めなくては」

文をかかえると娘はいそいそと屋敷をでていった。

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