絹子の創作物語

事実を参考にした創作です

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ハイヒ−ル

 靴屋の明かりは消えることはなかった、永久につづく暗闇のなかで。

若い女性が店に入っていく、店主を見つけると

「すみません、このハイヒールを見てもらいたいんですけど」

初老の物静かな感じの店主は女の足元をひと目見ると

「ほう!ハイヒールが足にあってないようだな」

女性は足からハイヒールを脱ぐと、指とかかとが赤く腫れていた。

「こまったわ、彼が待っているのにこれでは歩けないわ」

「おじさん、そこにかざってある靴をはいてためしてもいいかしら」

「ああ、お穣さんの気にすむように履いてごらんなさい」

女性は夢子と名乗った。

夢子は店に置いてある靴を代わる代わるはき替えたが、

大きすぎたり、小さかったりして全てが合わなかった。

「どうしよう ! 私はじめて彼と食事に行くんです、私の誕生日祝いなんです」

「夢子さん、あなたにあう靴はわたしの店にはないようだ」

無表情な店主が店の外に出て、夢子を手招きする。

「探し物はあそこにあるようだ」

けげんな表情で夢子も店を出た。

店主が指差す方向を夢子が見ると、

「アッ ! 彼だわ」

「ごめんなさい、おじさん迷惑かけてしまって」

「いいんだよ夢子さん、さあ行きなさい」

夢子は痛む足をかばいながらそれでも早足で彼の元に、

「待ったかしら?」

驚いた顔を彼はした、

「どこにいたんだ、急に現れたんでビックリしたよ」

「ウフッ、どこに連れて行ってくれるのかしら?」

「その前にこれ!」

夢子の前で彼が箱を開け、ハイヒールを取り出した、

「夢子が欲しいって言っていたハイヒールだよ」

夢子、笑顔いっぱいで

「わあ!ありがとう、ねえここで履いてもいいかしら」

夢子はハイヒールを履くとうれしさでクルッと回った、

「ピッタリよ、足も痛くないわ」

夢子はもう一度回るとそのまま暗闇に溶けていった。

携帯が鳴った、

なにが起きたか理解できぬまま、彼は携帯にでると

「はい、え!なんだ、夢子が!夢子が!死んだって?ばかな、今ここに居る??・・・」

夢子は居なかった。

若い男の横を初老の紳士が通り過ぎていく、

「お穣さんに合う、ハイヒールを履けたようだな」

紳士の声は若い男には届いていなかった。

若い男の手の中で箱に入ったままのハイヒールがキラット光った。


オルゴール

 「お嬢さん、このバレーシューズが気に入ったようだね」

ショウウインドーに浮いているピンク色のバレーシューズを

いっしんに見つめている亜季。

「とっても可愛い靴ね、この靴を履いて、ママの前で踊って見たいわ!」

店主はウインドーに手を伸ばすと、靴をとり、そっと少女の足元に置く。

「さあ、履いてごらん」

「でもこれは、私お金はもってないの」

「いいんだよ、お嬢さんの足に合えばこのバレーシューズはお嬢さんのものだ」

細く白い足にピンクのシューズはピッタリとはまる。

「踊ってごらん」

無表情な顔で店主が幼さの残る少女の手をとる。

「私、バレーなんて一度も踊ったことがないの」

「な〜に思うままに動けばいいんだ」

少女はつま先立ちになるとクルクルと回り出した、

「すご〜い!こんなに上手に回れるの」

 クルクル・クルクル・クルクル


 「あら!」

主のいなくなったベットの枕許でオルゴールがやさしいメロディーをかなでていた。

「亜季ったら、あきずに毎日見ていたわね」

「帰ってきたの亜季!」

ベットに駆け寄り窓の白いレースのカーテンを開ける。

木の葉が風でひらひら舞い落ちる。

蓋の開いたオルゴールの中で、白いドレスの人形がクルクル回る、

 ” ママ みて みて ”





 

軽い靴

 ”熱い、熱い ”

足の裏が焦げる、路面が赤く焼けている。

作次はどうしてだか裸足で駆けていた。

作次の目に靴の看板が写った。

急いで店の中にとび込む、ひんやりとした床にほっとする。

「いらっしゃい」

身なりのいい紳士が無表情に声をかけてきた。

「靴がほしい!一番安いやつでいいんだ、サンダルでもいい」

「すみません、当店にはこの一足しかありません」

紳士が手で案内する方向には透明な台の上に白いスニーカーが乗っていた。

「それでいい!いくらだ」

「はい、一千万円です」

「ば! ばかを言うな、こんなスニーカーがどうして一千万なんだ、

 金で作られているとでもいうのか! 困っている人の足元をみおって」

「はい、お客様は裸足でいらっしゃいます」

表情のない顔で冗談も言うようだ。

「こんなふざけた靴屋にはようはない!」

作次は店から一歩踏み出すが、

「あっ!あちっ!あちっ!」

あわてて店に戻る。

「ええい、悔しいがそいつをくれ、一千万でもいいから、

 だが、現金はもってないぞ」

「けっこうです、ふところにある通帳と印鑑をいただきます」

作次は驚いて戸惑う。

 スニーカーはぴったりと吸いつくように作治の足に合った。

「全財産で買った靴だ、こうでなくてはな」

店から出ようとすると、

「お客様、お釣りでございます」

「そうか、おまえにも商売人の良心があったか」

店主から作治の手のひらに見慣れぬ硬貨が乗せられる。

「なんだ?これは」

「六文銭です、渡し船に乗るには必要ですから」

 赤い路面も気にならなかった、

作次は軽快に走っていた、欲の呪縛から解き放されて。


 「ねえ、ねえ、おじいさんの顔がなんかとてもいい顔になってる!」

「死んだ人間の顔が変化するもんか」

「あら、でも苦しそうな顔をしてたのが、ほんと笑顔にみえるわ」

「う〜ん、死後硬直で顔の筋肉に変化がでたのかもな」

布団に横たわった作次を囲んで、子供達が不思議そうにその顔を見つめていた。

「でも、ケチなおじいさんがこんな大金を残していたなんてね」

「ありがたく、僕達でつかわさせてもらおうよ、あの世に金は持っていけないからな」

「おい、それはなんだ?」

作次の懐に娘がなにかをそっとしのばせた。

「六文銭よ! 三途の川の渡し船に乗るのに必要なの」

香の香りが作次を包んでいった。


赤い靴

 小雨に濡れた歩道を急ぎ足で歩く洋子。

その目に小さいがしゃれた店が写った。

「この赤い靴!亜季に履かせたいわ」

小さなショウウインドウの真ん中で、幼児むけの可愛い靴が、

赤い輝きをみせて空中に浮いていた。

空中に浮いている不思議さを考えるよりも、靴の可愛らしさに魅入られている洋子。

「気にいったかい!」

いつの間にかに、後ろにきちっとした背広姿の紳士がいた、

どうやら、この靴屋の店主のようだ。

「はい、でも値札がついていないようだけど」

「お金はいらないよ!ただこの靴は見本だから渡すわけにはいかない」

残念げに店を去ろうとする洋子に、

「同じ靴はすぐつくれる」

「えっ、でも私もう行かなくては」

「大丈夫、あっという間にできるから」

笑顔で洋子は紳士に向かい合う、

「でも、ただでもらえるの?」

紳士の表情が能面のように無表情にかわる。

「金は取らぬ、だが靴の材料はおまえさんからいただく」

洋子、けげんな顔で無表情な紳士の目を覗きこむ。

「赤い靴はおまえさんの命で作る!」

紳士の手が洋子の心臓をつかみ取った。

雨は激しく路面をたたき、砕けた雨滴が煙になって二人をかすませていた。


 病室の扉が静かに開く、

機械とチュウブに囲まれた白いベットの中、幼い亜季が寝ていた、

事故からまだ一度も目を覚ましていない。

亜季の柔らかな黒髪をそっと父親の指がなぞる、

「亜季、この靴を履いてお家にかえろう」

ベットの横で靴がキラキラと赤く輝いていた。

 
 「あのね!夜おかあさんが来て、いっしょにお家に帰ろうって、

  とっても可愛い靴を持ってきてくれたの、でもね、

  朝見たら見つからないの、赤い靴どこにあるの?」

・洋子!おまえ亜季に会いに来たのか、

 息をひきとった時のおまえの顔が笑顔でとてもきれいだったのは

 亜季を見ていたのか・

「亜季、ごめんね、おとうさん昨日はお母さんの病院にいて亜季のところに

 これなかったんだ」

「おかしいの、だってお母さん亜季のところに居たのに」

クスッと亜季が笑った。

「奇跡ですよ、おとうさん、お嬢さんが急激に回復したのは?」

医者がそっと耳許で話す。

うれしいのか! かなしいのか!

涙でかすんでいく亜季に、

「赤い靴はお家に帰る時履くように大事にしまってあるよ」

「お母さんもいっしょに帰るんでしょう、お母さんにあの赤い靴をはかせてもらうんだ!」

「お母さんの素敵な話はあとでしようね!」

・洋子、ありがとう! 亜季にピッタリの赤い靴をもってきてくれたんだね!・




 

シンデレラの靴

 「あら!」

咲子の目に白い靴が写った。

「ここは靴屋さんだったんだ」

確か前は不動産屋だった、この場所はクルクルと店が変わる、

どんな店になってもすぐに閉店。

ガラスの向こうで白いハイヒールがなぜか咲子の視線を止めた。

「この靴が気にいったかいお嬢さん」

咲子は後ろから声をかけられた、

「あの〜この靴、値段がついてないんですが」

初老の紳士は、こんな小さな店には不似合いだったが店主のようだ。

 
 「変なお店ね」

咲子は白いハイヒールで軽快に歩いている。

「魔法は7時までだって! なんのことかしら」

咲子はちらっと腕時計を見た。

「やだもう6時よ急がないと、寄り道しちゃったから、でも彼この靴きずいてくれるかな〜」

雨を避けて、駅の改札口から外をじっと見つめている咲子。

「どうしたのかしら、彼遅いわ! 」

携帯をバックから取り出す咲子、表示時刻は6時59分。

咲子、雨の中携帯を見ながらかけてくる彼の姿を見つけていた。

牧夫の携帯が鳴った、

 「おかしいな?」

一年前に死んでいる咲子からだ。

駅の改札口までくると中から出てくる紳士が牧夫をちらっと見た。

ここでいつも咲子と待ち合わせをしていた、さっきよく似た女性を見た気がしたが?

ハンカチで雨で濡れた顔と涙をふき、携帯をじっと見つめたたずむ牧夫。


 「間に合わなかったか、この世に戻れるのは一時間だけの魔法なんだよ!」

紳士の手には捕まれた白いハイヒールが雨に濡れて滴を落としていた。



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