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空調が心地よく効いた館内に時たま子供の声が響く。 佐野はゆっくりと図書館内の本棚に視線を回していく 白いスカートの女の子が棚から本を取り出している、佐野の視線が止まった。 「館長!館長あてに手紙がきています」 「あ、ありがとう」 振り向いて手渡された白い封筒の差出人を確かめると、 ・谷野麻衣子・ 文字のなかから佐野の記憶が戻って行く、ちょうど一年前の彼女に初めて声をかけた日に。 「館長!どうしたんですか?やだ!まさか館長ってロリコン?」 「ばかなことを言ってるんじゃないよ」 司書の早苗が私をからかいながら先ほどから私がじっと見ている本棚の前にいる少女に 目を向ける。 「早苗君、あの娘、ここに通いはじめてから何日位たつかな?」 早苗は小首をかしげてしばらく考えていたが、 「三週間位かしら?でもおかしな娘ですよね、ああやって毎日、毎日 開館から閉館時間まで棚から本を取り出してはめくって戻していく なにを調べているのかしら?」 「今、あの娘は作者分けの棚の・あ行からた行・まできている、 二千冊は手に取っているだろう一日あたり百冊くらいかな 特になにかの分野を決めているふうには思えないしな」 図書館館長、佐野は不思議に思っていた、娘はまだ中学生位に見える、 今は夏休みなので毎日図書館に通ってもおかしくはないのだが、 調べ物にしては一貫性がみえないのだ。 「まさか!あの速さで本を読んでいるなんてことはないですよね館長」 早苗があきれ顔で私の同意を期待するような目をしている。 「無理だ!僕も速読術は使えるが、それでもあの速さで読むことはできない、 だが、あの娘は確かに一枚づつページをめくっている」 佐野は少女に興味を魅かれていたもちろんロリコンではない。 あの速さでは本は読めない、ではなにをしているのか、 佐野に一つの考えが浮かんだ。 佐野は事務室から出ると無心に本棚の本に目を通している少女の脇に足を運んだ。 「お嬢さん!なにを調べているのかな?話してもらえれば手助けができるかもしれないよ」 少女は突然に話かけられたのにびっくりしたのか、マリオネットのような動きで顔を上げた、 さらりと黒髪が少女の肩にまわる。 「あの、私、読んでいるんです、調べているんじゃないんです」 可愛らしい声だが語気はきりっとしている、 佐野はなんだかむきになって 「突然にごめんな、僕いや私はこの図書館の館長をしている佐野という、 お嬢さんのことはしばらく前から気になっていたんだ 君のページをめくる速度、その速さでは文は追えないよ」 「でも・・私読んでいるんです・・」 佐野はますますむきになったが、話方はやさしくゆっくりと・・ そして目は本棚にといった。 「この本はお嬢さんはもう目を通したと思うけども?」 「はい!」 佐野が手に取ったのは裁判法令の解説書だった。 「どんな内容だったか覚えているかい?」 小女は戸惑っていた、そんな様子を見て佐野は大人げなかったかなと後悔を覚えた。 少女の可愛い白い指が持っていた本を棚に戻すと、佐野にむかい口を開いた。 「ねえねえ館長ったらどうしたのかしら、もうあの娘と30分位話しているわよ」 司書の早苗が仕事仲間に話かける。 聞こえたわけではないのだろうが佐野が事務室に戻ってきた、 「館長!あの娘なにを調べていたのかわかりました?」 「麻衣子さんというんだよ、全て読んでいた、完璧に本の内容を把握していたよ」 「無理です、館長も見てるでしょ、その麻衣子さんのページをめくる速さを!」 佐野は今見てきたことを自分自身になっとくさせるように早苗に話す。 「僕はほとんど貸出のない本を選んで麻衣子さんにその内容を聞いた、 完璧だった、内容も一字一句覚えていた」 「え〜!信じられない」 事務室から三人の視線が注がれる中で 麻衣子と名のった少女は信じられない速度で本を次々に読んでいた。 白い封筒から目を離すと佐野は一年前の記憶から戻った。 角をきちんと合わしてある便せんを開くと女の子らしい文字が並んでいる、 (気持ちの整理がようやくつきました、私の図書館での行動をさぞかし不可思議に お思いになったこととおもいますが・・) 麻衣子は佐野が声をかけた日からしばらくしてこなくなった、突然に図書館にこなくなったのだ。 だからと言って麻衣子の住所を調べて彼女の能力を調べてみようと考えるほど 佐野は信じていなかったのだ、自分の目で確かめても佐野は常識人なのだ、 理解できない世界には踏み込まない。 (ある日から私は一瞬で文章を理解し記憶することができるようになりました、 でも終りも突然でした、私は普通の女の子に戻りました、 それで良かったのかどうかはわかりません、どうしてそんな能力が生まれたのかわかりません、 ただ!思い当たることがあるとすれば、あの星の光を見た時から?) 佐野の頭脳は自分自身を納得させるために蓄えた知識で説明を試みていた。 麻衣子は”絶対読感 ”を持ったのだ音に絶対音感があるように、 将棋の名人はデジタルではなくアナログで手を読む、 一瞬で驚異的な計算をする人は数字列を色で見ている、 麻衣子は文字を文章を風景として見ているのだ 生物は情報をアナログ処理して進化してきた、その最高傑作こそ人間の脳なのだ 情報をデジタル処理している限り限界が見えてるのだ デジタル処理では蟻の頭にもかなわない。 (今の私は普通の女の子です、でもあの日に読んだ本の知識は残っていて 私の心を豊にしてくれています) 読み終えた便せんを封筒に戻している佐野の視線は本棚の白いスカートの女の子 を追っていた、調べ物をしているように次々に本のページをめくっている女の子を。 |
大人の寓話
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上も下もないまっ白い空間には遠近感もわからなかった。 「おまえ、ドアから手をのばせるか?」 「でも、怖いわ!」 そう言いながらも女は恐る恐る白い世界に手を伸ばした。 「なんにもないわ」 女は片足を出し、そして、 「立てる!どうしてだか?」 身体の全てを部屋から乗り出していく、 女は振り返った。 まっ白い空間にドアと女だけが浮かんでいる。 「この世界って、小さな一部屋しかないの?それだけ!」 俺にはわかった! 舞台装置が間に合わなかったんだ、俺という突然の部外者は想定外だったんだ この世界には! チャンネルを変えた。 なにも映らなかった、 次々にチャンネルを変える、 「どうしたんだ?こわれたのか」 急に怖くなった俺は恐怖を打ち消すようにチャンネルを変えていく。 ””つまらない、もうあきたわ!”” 俺の頭上で声がした。 振り返り上を見上げると、薄紅色の大きな唇が半開きにぬめっとあいていた。 プチッと俺の世界は消えた、俺と共に。 **おわり** |
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「あら!戻ってきたのね」 最初の女だ! ほかのチャンネルの女は俺のことをなにやら知っていた、 この女だけは、おれの存在に気づきはしたが、俺が誰だかわかってないようだ。 「おまえに、俺がみえるのか?」 「見えないわ!でもそこに居るのは感じるの、考えていることもわかるわ」 「おまえはどこにいる」 「わからない!ず〜と前からここにいるような、この瞬間だけいるような!」 「少し動いてくれないか」 俺は女の背景を見たかった。 女の動きに合わせて画面も移動していく、 アパートの一部屋のようだ、女の娘らしい色合いの家具がちょこんと置いてある。 ベットに腰掛ける彼女になにかドキッとする俺、 「ところで、おまえの名前を聞いてなかったが」 首をかしげて、考え込む彼女、 「ないの!どうして」 俺はふと気づいた、 彼女の部屋の窓の外が白かった。 雲ではない、雪ではない、 風景がないのだ! 「おまえ、今すぐに窓をあけてくれ」 「えっ、どうして?」 「とにかく、すぐにやれ!」 いらついた俺の声に驚いたのか、あわてて窓が開いた。 すべてが白かった、そこは存在しない空間なのだ。 |
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いく日かの間、テレビのことが気になっていたが何となく怖くて、 電源を入れられなかった。 (この間は、雷の衝撃で有料放送かなんかが電子回路の故障で見れたのかもな?) うだうだしてもしょうがないので、今日は思い切って俺は電源を入れた。 青い世界が映った。 奥のほうから黒い点がしだいに近づいてくる、 裸の女だ! 流れる黒髪、豊かな胸、締まった腰、そして・・ 銀色に輝くみごとな鱗におおわれた下半身、 半魚人いや人魚だ。 俺の方を見て、にっこりとほほ笑む。 両手を拡げて俺をそのゆたかでポニョポニョした胸に誘い込んでいる、 俺はよく見ようと画面に身を寄せる。 彼女の長い髪がゆらりと揺れて、首のパコパコしているエラがはっきりと見えた、 (やっぱりこいつは魚だ!) 俺のやくにはたたない ( ってなんの役だ?) 身振りでしきりに俺をさそう魚女を無視してチャンネルを変えた、 よくわからんが、怖さが薄れ男の興味が沸沸とわいてきた。 灰色の風景の中、瓦礫の中にたたずむ少女がいた。 服は汚れ、スカートは所々が破れてふとももが見えていた。 焼けただれた車があった、ひしゃげた鉄骨にかろうじて引っかかっているコンクリート、 少女は俺に何かを求めている、 だが俺に何ができる、 悲しげな少女の視線を残してチャンネルを変えた。 黒い煙がモクモクと立ち上っている、 カチャカチャと重い音をさせながら鎧武者が走ってくる、 「姫!敵が迫っております、もはやこれまで、お覚悟を!」 まさに時代劇の御姫様がいた。 「わかりました、死ぬことは恐れはせぬ、ただ!ただ!あなたさまに」 美しい姫の顔が俺に近づいてくる、 (どうして!どの画像の女も俺に求めてくるんだ、俺の存在をわかるのか? この画像は現実なのか?) 俺の指がボタンにかかった。 |
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いきなりだった。 雨もまだ降っていなかった、 ”ドカッ〜ン ” 家中の明かりが消えた。 しばらくして明かりは戻ったが、おれのパソコンは起動しなくなった、 雷が近くに落ちたようだ。 「そうだ、テレビは?」 買い替えたばかりの地デジ液晶テレビが心配になった、 電源を入れると、きれいな女の娘が映った。 (とりあえずは良かった、パソコンがいかれたのにはまいるが!) 映像の女の娘は正面をむいたままなにもしゃべらず無言のまま、 しばらくの間、おれと女のにらめっこが続いた、 (なんだ?画面がフリーズして壊れたのか) 女の手があがり驚いた様子で自分の口にあてられた。 「あなた誰?」 (えっ!) 画面の女の娘が話しかけてきた。 (変な番組だな!) 俺はチャンネルを変えた。 暗闇にスーと宇宙服が流れている、 (おっ、宇宙物の映画かな?) ・さよなら!虚無に吸い込まれても、最後にあなたを感じられてさびしくないわ・ 金色のゴーグルのなかに女のかなしげな顔が見えた。 俺はなんだか怖くってチャンネルをすぐに変えた。 「どうしたの?また戻ってきたのね」 最初の女の娘だ、 こんな番組があったかな? 新聞を見ようと立ち上がると、 「まって!おねがい」 「えっ、これはなんなんだ?」 おもわず俺はテレビの電源を切ってしまった。 |




