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こだわり力
これはY子さんのブログからの引越しです

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初めての行動療法

http://static.wixstatic.com/media/0d22b9_9b61e047e01b4187ac3b1e5fc74ef9f0.jpg
 朝10時に病院に集合し、最初は一枚の廃墟の中っぽい景色を写したスライド写真を見せられて、「これは何に見える?」と原井先生から聞かれました。
 「うーん…廃墟」
 「なんか戦争で爆撃に遭ってめちゃめちゃに壊れた建物」
 「壊れたピアノがあるから、学校の音楽室だったのかな?」
 とか、みんな先生に一人一人尋ねられ答えました。

 似たような事を他の写真でも行いました。それは「強迫観念に囚われていると、周りが見えなくなる」 という事を気づかせる訓練でした。写真を見ながら何が見えるか、何を感じるか、という、いろんな事柄にも注意を向けて観察する事で、「強迫観念ばかり注目しているけど、本当はもっといろんな事も同時に感じていて、強迫観念は自分が五感でいろいろ感じている感覚の中の一部に過ぎないんだよ」みたいな事を実感するための時間でした。

 他にもイスに座りながら、身体は何を感じているか、イスに座ったお尻の感じはどうだろう?床についている足の裏はどう感じているだろう?その時ほっぺたに感じる空気はどんなだろう?みたいな事を観察して感じる訓練なども行い、この五感でいろいろ感じている感覚を専門用語で「マインドフルネス」と言うそうなのですが、原井先生と岡嶋先生の指示に従い、このマインドフルネスな状態を実感して行けるような訓練をやりました。

 さて、ここまでは、とても穏やかな時間が流れました。治療の進行役の原井先生の語り口も面白くて、これはあくまで私個人の感想ですが、原井先生は、とても理知的で頭が良くてテキパキして、感情に動かされず、私情をはさまず、患者となれ合いになる事も絶対しない、パキッとした医者に徹した先生ですが、何だか言動ににじみ出ている雰囲気が、とても素で、天然な感じのする全く見栄も世間体も無い、飾らぬストレートな姿勢で生きている印象で、とにかく裏表が無くて自然体で、独特なユニークさを兼ね備えた印象を受け、 私は原井先生の事を面白くてステキな先生だなぁ〜と思い、なおかつ強迫性障害が起こるしくみなども知ったりも出来たし、「やっぱ、参加して良かったなぁ〜」とか、うっかり思ってしまっていたのですが、「さあ、じゃあ、外に出て具体的にやって行きましょう」と原井先生が立ち上がった時、そこに地獄が待ち受けている事を思い出して、一気にテンションが下がりまくりました。

 私たち患者は、原井先生や岡嶋先生に連れられて、病院の入っているビルの男子トイレに行きました。そのビルは病院の他に、別の会社や予備校などが入っている雑居ビルで、トイレは共同で、いろんな人が使うトイレでした。原井先生は「見本を見せるからね」と言って、いきなり便器の中に手を突っ込みました。そして便器の中にたまっている水で手を濡らして、その水を自分の顔に塗りたくりました。
 「じゃ、一人一人やってみようか」
 と原井先生はニコニコしながら言われて、一人一人にやらせました。

 これは不潔恐怖で、自分が汚れたり、挙げ句の果てには何かバイ菌に感染する事を怖れて、手洗いが止められず、風呂も何時間も出る事が出来なくなった人に対する行動療法でした。私は確認強迫と加害恐怖が症状で、不潔恐怖の症状は無く、床に落ちたウィンナーも平気で拾って食べちゃうくらいなので、汚れやバイ菌に対する恐怖は無かったけれど、さすがに、どこの誰が糞尿をしたかもわからない便器に手を突っ込み、その水を顔に塗りたくるのは、やっぱり抵抗がありました。でも、やるまで先生もみんなも待ってるし、まあ別にこれくらいなら我慢も出来るし、治療って事ならいいや、と思い、やりました。

 自分の症状では無い事までやらせる理由は、私が思うに、みんながやる事で、それが怖いと思って出来ない症状の人も、「みんなもやったのだから自分もやらなきゃ!」とか「怖いけど早くやらなきゃ、みんなも先生も待ってるし…」と前向きな方向で追いつめられて、今までやれなかった事、怖れていた事に直面するきっかけを与えられる事になるんだろうなって事と、表面に出ている症状は異なっても、何か怖い物に対してがんじがらめになり、不安を解消するために自分であみ出した儀式、例えば手洗いの繰り返しとか確認の繰り返しをしてしまうという根本はみな同じなので、 いろんな究極な不快な事に直面させて、「枝葉は違うけど、根っこは同じだよ。それに対して最悪なストーリーを設定して、それをやる事で、最悪なストーリーよりも怖くはないであろう、今まで怖れていた事をやれるようにするんだよ」って事なんだと思います。

 不潔恐怖の患者さんは「出来ない、出来ない!」と首をずっと横に振っていて、泣きそうだったので、とっても気の毒に思いました。でもそれが治療なのだから、避けてばかりいると何も出来ないままだから、頑張って!頑張ってやって!とも思っていました。その患者さんは、とてもとまどいながら、最終的にはやり遂げました。
 「さあ、じゃあ今日一日は、この手は洗わないで過ごしましょう」と原井先生が言い、先生も含めた全員で昼ご飯を食べに、名古屋の街へと出掛けました。

 とある中華料理屋さんに入って、ごはんを食べました。「ここにあるお手拭きは使わないで、そのままの手で食べましょう」と先生が言い、ちょっと気持ち悪いと思いましたが、そうしました。私はタバコがとても吸いたくて、吸っていいのかどうかオロオロしましたが、タバコは私にとっては水のような存在なので、我慢が出来ず、プカーッと吸い始めました。すると一人の女の子の患者さんが、ザザーッとイスごと後ろに下がり、「私、タバコの煙、大嫌いなんです。髪に臭いがついちゃう!」と言いました。
 「あっ、やばい!」と私は慌ててタバコを消そうとしましたが、「じゃあ、嫌な事をあえて味わおうか。それに慣れましょう」と原井先生が言い、私はお言葉に甘えてタバコを吸い続けました。
 なんかここまでは、他にもいろいろやったけど、直接私の症状に関する事ではなく、恐怖も不安も感じずこなせたので、余裕な態度でおりました。

 店を出た直後、原井先生が私に言いました。
 「サラ金でお金を借りましょう」
 「ええーっ!無茶苦茶やーっ!嫌ですっ!借りたら返さなきゃ行けないし、私、ちゃんと本当に返したんだろうか?って思ってしまって、何度も何度も返したかどうか確認しちゃうと思うから、やりたくないです!」
 「じゃあ、余計にやろう!」と原井先生。

 「でも、自分は返したつもりでいて、本当は返していなくって、知らない間にどんどん金額が大きくなってて、私の貯金じゃ返せなくなるかも知れません!怖いです!やりたくないです!」
 「自分で返済出来なくなったら、お父さんに出してもらいましょ♪やって下さい」と岡嶋先生までもが言いました

 それから原井先生はニコニコしながらも有無を言わせず私をサラ金のATMに連れて行き、 「じゃ、ここからは一人で入って登録して下さい」と言われました。
 「あああっ。怖い…。先生!入るは入るから、実際にお金は借りなくてもいいですか?」
 「うーん。本当は借りた方がより効果があるんだけど、まあ、名古屋で借りると地元に戻って返すのが大変か。じゃあ、あなたは銀行のATMも怖くて使えないから、この中に入って、機械をいろいろいじって来て下さい」

 それもめちゃめちゃ怖い!私の心臓は、口から飛び出そうなくらいバクバクして、足がブルブル震えて来ました。

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