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こだわり力
これはY子さんのブログからの引越しです

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私が持っている大事なカードを店のあちこちにバラまき置き去りにした後、
「やりましたね。では、そろそろ自分のカードを回収に行こう」
と原井先生が言ったので、原井先生とX君と私は、また店内を巡って、それぞれのカードを取り戻しに行きました。

原井先生のカードは無事にちゃんと置いた所にあり、私も必死で記憶した置いた場所に行き、無事に全部のカードを回収しました。結構長い時間置きっぱなしだったので、もし誰かに拾われていたら?ととても不安だったのですが、無事にあったので一瞬ホッとしました。

でも、この闘病記で散々書いているように、私は「目の前の事実」を信じる、あるいは認知する事が出来なくなっていて、
「今、目に映っているのは現実の出来事なんだろうか?」と、何か現実世界と自分との間に1枚ベールが掛かっているような、何か違う次元の別の世界の事を見ているような感覚で感じてしまい、五感で感じた事を脳が実感として認識してくれず、とても不確かな、見ているのに見た気がしない、リアルな体感として脳がキチンと受け取ってくれない現象、医学用語で「離人症」と言う症状らしいのだが、そんな状態にあって、目で見ているものが不確かで、

「私、今、集めて手に持っているカードは本当に私のカードだろうか?そもそもこれはカードだろうか?」
と思って不安になってしまい、カードにある自分の名前を何度も何度も見て、確かにこれは私のカードである、と言うことを、何度も心に刻み込もうとしていました。
「はい。確認はしちゃダメだよ。サイフにしまって」と原井先生に言われても、目に見えなくなるサイフにカードを入れてしまうと、全てが本当に幻になってしまうようで、怖くてサイフの中に入れられず、泣きながらずっとカードの束を手に握っていました。

そこへ、他の患者と行動療法をしながら店内を回っていた岡嶋先生が通りかかりました。
「あれ?泣いてる…」
「怖くてちょっと泣いちゃったんだよね」
岡嶋先生の言葉に原井先生が答えました。

「ちゃんとやれましたか?」岡嶋先生が言い、
「はい、やりました」
と私は答えました。

すると岡嶋先生が言いました。
「何で手にカード握ってるの?」
「怖くてしまえないんです…」
岡嶋先生は少し厳しい顔をすると、私にこう言いました。

「まだやり足りません。もう一回、カードを店内に置いて来て下さい」
ええーっ!!
「私、もうやりました。もうこれで精一杯です!やりたくないです!」
「あなたはまだわかっていません。カードを置いて来て下さい」
そして原井先生にも、
「Y子さんにやらせて下さい」と言いました。

「そうだね。もう一回やろうか。カード、置いて来て」
原井先生も言いました。
「私、もう一度やりました!怖くてもやりました!もう出来ません!」
「そうやって嫌がって泣くようでは、あなたはまだわかっていません。置いて来て下さい」
岡嶋先生は毅然とした態度で言いました。

「じゃあ、1枚だけでいいから、置いて来て」と、原井先生が言うと、
「原井先生、ダメです。本人に自分で考えさせて下さい。Y子さんの事を今日一日見ていたら、私はある事に気づきました。Y子さんは自分からやろうとしてません。いつも原井先生の指示待ちをしています。自分で考えて自分でやろうとしていません。本人に考えさせて、本人の責任でやらせて下さい。人に頼って人に決めてもらっていたら、彼女の病気は治りません」

ガーン!と思いました。
私としては、人に頼っているつもりは無かったので、ショックを受けました。

病気でどうしたら良いかわからないから、専門家である先生の指導を受けねばならないのに、原井先生の指示をあおぐのは当然の事じゃないの?それのどこがいけないの?
と、わからなくなりました。

「私達は、あなたが何をしたら良いか、治すために何をしなければならないかは、すでに教えました。それを受けて、どうするか決めて実行するのは、あなた自身です。どうやるかは、あなたが自分の責任で決めて、自分で実行しなさい」
岡嶋先生はピシャリと言いました。

私は困って、どうしたら良いかわからず、
「じゃあ、やりますから、原井先生、一緒に付いて来て下さい」
と、原井先生の顔を見てお願いしました。
「ダメです。一人でやって来て下さい」
岡嶋先生は言いました。

とても怖くなって、懇願するように原井先生の顔を見ると、原井先生は静かにうなずきながら、
「一人でやりなさい」と言いました。

そんなー!!出来ないっ!! 私はその場でグジグシ泣いていましたが、
岡嶋先生も原井先生も、有無を言わさぬ態度で私を見ていたので、やらなきゃならないんだろうな、と悲しい気持ちで思いました。

「じゃあ、1枚だけでいいですか?1枚だけ置いて来るのでいいですか?」私の切羽詰まった問いかけに、原井先生は無言で私を見ており、
「その質問には答えられません。自分で決めなさい」
と岡嶋先生が言いました。

私は泣きながらその場を離れ、カードをもう一回置き去りにするために歩き出しました。
「16時半に病院に集合だからね」
背後に原井先生の声が聞こえました。
一人でもう一度カードを置きに行かねばならなくなった私は、とりあえず歩き出し、さてどうしようと途方に暮れました。

また怖い事をやらねばならないのかと思うと、身体がガチガチに緊張して、心臓が早鐘のように鳴りました。
やりたくない…
歩きながら、込み上げる不安と必死で格闘しながら思いました。
でも…
あれだけキッパリ、やれと二人の先生が言ったという事は、
やっぱりやらなきゃ治らないって事なのかもな…
やりたくない、でもやらなきゃ、やりたくない、でもやらなきゃ…
2つの気持ちの間で、私は揺れまくりました。
でも…
あれだけの事を言われてやらないのは、なんか自分に負けた気がして悔しい…
やらないと、今度はやらなかった事に対して、自己嫌悪になって落ち込みそう…
私は手に握っていたカードの束から、病院の診察券を抜き出し、このカードだったら、最悪無くなっても、まだマシ…と、目の前の陳列棚にあった商品を持ち上げて、それの下に置きました。

置いた途端、とても怖くなりました。
「私、本当に病院の診察券を置いたんだろうか?それは幻想で、本当はキャッシュカードを置いたのでは?」
居ても立ってもいられず、すぐさま商品を持ち上げて、下に置いた診察券を取り返しました。
「私、本当に診察券を取り戻しただろうか?」
たった今、診察券を取り返したばかりなのに、それがよく自覚出来なくて、
「診察券ならまだ忘れてもいいけれど、もし本当はキャッシュカードで、取り戻さずに置きっぱなしになってたらどうしよう?」
私は確かに診察券をちゃんと取り戻したか、商品を持ち上げたまま、棚の上を凝視し続けてしまいました。
何も無い、何も無い、何も無い、何も無い、何も無い…
頭の中で必死で唱えて、言い聞かせていました。
本当は、確認儀式は絶対やってはダメなのに、不安でたまらなくて、やってしまいました。

「何かお探しですか?」
商品を持ち上げたまま、ずっと立ち続けて棚を血眼で見つめている私を見て、店員が声を掛けてきました。

ああっ!もうっ!途中で邪魔されると、今までの確認がゼロにリセットされて、またやり直しをしなけりゃならないじゃん!
私は、強迫行為中に何か邪魔が入ると、今まで散々確認して積み上げた事が頭の中でリセットされてしまい、とてつもなく不確かな感覚に逆戻りしてしまって、もう一回、確認を1からし直さねばならなくなるのです。
私は声を掛けられた事で、またこの確認地獄を1からやらねばならぬと、激しく動揺しました。
しかし、おかしい行動をしているのは私の方で、そのまま商品を持ち上げたままにするわけにもいかず、「あ、いえ、ちょっと見てるだけですから」とお茶を濁し、仕方なく商品を棚に戻しました。

心の中では、「まだ確認途中なのに…どうしよう…商品の下にカードを置いていたらどうしよう…」
と不安がゾワゾワ沸いていました。早く店員さん、あっち行ってくれ!とひたすら願っていました。
「何かございましたら、また声をお掛け下さい」
店員は言い、私がいた場所からちょっと離れた所に行って、あたりを見回しながら立ちました。
ああ。そんな所に立たれたら、私、再び商品を持ち上げる事が出来ない!あそこから丸見えだから、絶対怪しまれる!
どうしよう、どうしようととても切羽詰まった気持ちになりました。
極度の緊張のあまり、汗で身体中、ビショビショでした。
本来なら、もうこれで振り切って、怖くてもこの場を立ち去らねばならないのですが、 私はどうしても、この場所から立ち去る事が出来ませんでした。

思い切って去ろうとしても、不安の糸でがんじがらめになっていて、何歩か歩くとすぐに言いようのない恐怖感に支配されて、またその場に戻ってしまっていました。
私はそのコーナーで、他の商品も見る振りをしながら、
診察券を置いた商品を時たま持ち上げて、チラ見で確認を繰り返す、という事をやりました。
でも、そんな事を20分ほども同じ場所で続けているので、
「何か気になるもの、ございましたか?」
と、再び店員に声を掛けられてしまいました。
ダメだ!もうこのやり方ではダメだ!私、完全に怪しまれてる!
万事休すでした。
「あ、はい、いえ、ちょっと見ていただけなので…」
そう言って、私はその場を去りました。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう………
歩きながら、激しく動揺し、言いようのない不安に押しつぶされそうになっていました。 
本当は、あそこに、私のカードが置きっぱなしだったら、本当にどうしよう?
激しい不安に耐えかねて、私はあまり人気のない商品コーナーへ入り込みました。
そしてそこで、ずっと手に握っていたカードの束を、必死の形相で確認し始めました。 
銀行のキャッシュカード、郵便局のキャッシュカード、保険証、免許証、診察券…
一つ一つ心で唱えながら、確かめました。
よし、ちゃんと全部ある!
でもすぐに不確かな感覚に襲われました。
もう一回やらなくちゃ。
銀行のキャッシュカード、郵便局のキャッシュカード、保険証、免許証、診察券…
何度も何度も繰り返しカードを確かめながら、延々と40分くらいは唱え続けていました。 
すると突然、「これ、本当に私のカードなのだろうか?」という思いが頭によぎってしまいました。
もしかしたら、これはX君が紛失したと言っていたカードで、私はそれを自分のものだと勘違いして持って来てしまい、私のカードはどこかに置きっぱなしなのかも?!
新たに浮かんでしまった疑念に、私は完璧に支配されてしまいました。
一枚一枚、カードに書かれている自分の名前を確認しだしました。
何度も何度も何十回も、何百回も、繰り返し繰り返し、カードにある名前を読んで頭に叩き込もうとしました。

すると今度は、文字を文字と思えなくなってしまいました。
「これは文字?文字ってこんなだったっけ?カタカナの「ワ」はこういう見た目だったっけ?」
もうどうやっても、どんどん不確かなドツボにどんどんハマって行ってしまい、何もかもが分からなくなってきて、どうしよう!と焦れば焦るほど、ますます「こんなだったっけ?」と、自分で知覚している物がわからなくなっていきました。

「ワ」…
「イ」…
「コ」…
名前の一文字一文字を、目で書くようになぞって、頭に字の形を刻み込もうとしました。 

「ワ」…
「イ」…

なぞり、唱え、刻みつけ、次の文字の確認をしようと目を移すと、
もう前に散々なぞったはずの文字の事が不確かになってしまい、
また前の文字に戻ってやり直す…という事を繰り返し続けるしかなくなってしまいました。
いつまでたっても終われない!
時計を見ると、集合時間を過ぎていました。
早く戻らなきゃ!
でも、怖くてカードから目を離せず、その場を動く事が出来ませんでした。
もう何百回も文字は確認した…
たぶんこれ以上やっても、私はきっと確信を持つ事は出来ないだろう…
文字をなぞるのは時間がかかりすぎる…
よし、方法を変えて確認しよう、そして、とっとと病院に戻らなくちゃ!
私は一つ一つのカードを手で順番に触りながら、「1,2,3,4,5…よし、5枚ちゃんとある、1,2,3,4,5…よし、5枚ちゃんとある…」

と、今度はカードの枚数を数えて、納得しようとしました。
何度も何度も数えて、たまたま通りかかった店員が、突っ立ったままカードを数えまくってる私を不審に思ったのかチラチラチラチラ私の事を見に、やって来ても、
私は何度やっても確信を得られず、見ているのに見た気がどうしてもしなく、その場で確認をし続けました。
「もうこれで最後!これで怖くても絶対に止める!」
心に何度も決意するのですが、やり終えると直後に不安になり、足が震えてその場から動けなくなり、また確認を繰り返す…

そのうち、「あれ?私の銀行のカードって、こんな色だったっけ?」と突然新たな疑念が沸いてしまい、
「もしかしたら私、これの他にもう一枚、別の銀行カードを持っていて、記憶になかっただけで、それを店内に実は置いているのでは?」
などと、今度は幻のカードの存在に恐怖し、恐怖の妄想はとどまる事を知らなくなって、どんどんエスカレートして次々と新たな疑念が巻き起こり、もうどうしようもなくなって、自分の頭で処理しきれなくなって、その不安を少しでも解消しようと、ますますカードを何度も何度も、やり方を変えて、 確認をし続ける事になってしまいました。

気づけば、病院に集合する時間を1時間も過ぎていました。
どうしよう、戻らなきゃ、ああ、でも戻れない、確認が止められない…
私は全身汗だくになりながら、カードを持つ手もプルプル震えながら、血眼になってカードを凝視し、確認をし続けてしまっていました。
つづく
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