…の繁華街まで歩いて出た。バスターミナルに市場がある。まぁ、タイの田舎町と変わらないし、言葉もタイ語でなんとか通じるから別の国に来た、という感覚もない。ただ、文字だけはタイ文字より丸っこくなり、多少綴りも変わるから読みづらくなるし、下手すりゃ理解不能になる。
道路標識の「止まれ」はタイでは「หยุด」だがラオスでは「ยุด」、書類コピーもタイの「อัดเอกสาร」がラオ語では「อัดเอกะสาม」となるようだ。しかもタイ文字にようやく慣れた僕にラオ文字は優しくない。特に「กとด、ท」「อとว、ฮ」「เとา」「มとน」「ปとบ」のそれぞれの見分けがしにくい。まぁ、それでこそ「よその国」である。それをこそ楽しまなければならない。
だが、その紛らわしいラオスにあってはっきり、そして大きくとタイと違うことがある。それは「パンがとても美味しい」ということだ。そう「とても美味しい」のだ。一方のタイは「とても不味い」、いや「酷く不味い」のだ。
タイでは食パンなどほとんど食えたものではない。しっとり感もパリパリ感もなく、風味もない。ただイースト菌で小麦粉の塊を醗酵させて焼いて売っているだけ。味なんてどうでもいいと思っているのか、それとも本当のパンを知らないのか…。それほど馬鹿にできるくらい不味い。それでも毎朝、我慢して食っている僕だから、その不味さが本物であることを知っているし、そう主張する権利を持っている、と勝手に思っている。
それに比べて、たった百メートルほど(もっとあるのか?)のメコン川に隔てられただけのラオスのパンは絶品なのだ。まさに「天」と「地」、「えくぼ」と「あばた」、「仮面ライダー」と「死に神博士」、「おっかさん」と「落下傘」ほども掛け離れている。
その背景にあるのはラオスの植民地としての歴史なのだろう。1893年から60年間、フランスの植民地だったことでラオスのパンは美味しくなったのだろうと思う。隣のベトナムを旅行した時もやはりパンはラオス同様に美味しかった。やはり旧宗主国フランスの影響は色濃いのだ。
街中のあちこちで売られているフランスパン。それにソムタムや豚肉などをはさんでくれて1本(40センチもある)が20バーツ(約56円)。このソムタムはタイ東北部とほぼ同じ味なのだが、このしっとり感とピリ辛味が絶妙にフランスパンに合うのだ。
こうなるとワインが欲しくなる。タイではデパートや大型スーパー、もしくはかなりの専門店でなければ売っていないワインだが、ビエンチャンでは市場にもあったし、日本同様コンビニにも売っていた。そしてタイよりもお手ごろ値段(に感じた)なのだ。
そこで言い値で400バーツのフランス赤ワインを日本人4人の出資(1人100バーツ)で買ってみた。なぜかその一人がコルクオープナーを持っていたということで、途中のバスターミナルの待合席で開けて飲むことに。ラッパ飲みの回し飲みである。もちろんフランスパンのソムタム豚肉サンドを食いながら。
おぉ〜、まるいでフランス貴族のピクニックではないか〜。いや、実際は周囲のラオス人から「変な日本人がいるぞ」と思われつつ、結局1本空けてしまったのだけど。いや、それにしてもワインの味も美味しかった。タイでは400バーツレベルのワインはただ甘ったるい感じで、個人的にはイラついてしまうのだが、ラオスの400バーツは適度な渋みのある辛口でかなり僕好みだった。
もっとも日本では1本480円のスペインワインしか飲んでいなかった僕だから、味が云々と言える立場ではないのだが、少なくともタイのワインより格段においしいことは確かだ、と断言できる。
さて、そんなほろ酔い気分でビエンチャンをさらに歩く日本人集団。歩き疲れて入ったのは小綺麗な喫茶店だった。ふらりと立ち寄っただけだったのだが、入ってみるとなんとも清潔感溢れる店内。なんだか日本人好みな感じだなぁ、と思ったら、店内にある絵本は日本の絵本。どうやら日本人が経営に関わっているのだろう。
でも店員はラオス人。そして僕が頼んだのはラオスコーヒー。さて味は…。一口飲んで驚いた。旨すぎる。旨すぎるぞ!なんだこのコーヒーは!適度なコクと風味。苦味と甘みが絡まっているのに後には清涼感が残る。癒される。こんなコーヒー、タイではありえない。ってか日本でも飲んだことない。
タイのコーヒーはコーヒーではない。あれは「ゴービー」(僕の造語)だ。大体は甘すぎる「コーヒー牛乳」でしかなく、ブラックでも味はガザガザしていて後味が悪く、香りもへったくれもあったもんじゃない。「黒いお湯」である。
それに引き換えラオスコーヒーの味のどれほど繊細なことか。そこで初めて知ったのだが、ラオスのコーヒーの旨さはかなり有名なのだそうだ。だから当然、街の各所にお土産用のコーヒー豆が売られている。そしてラオスには「DaoCoffee(ダオコーヒー)」という一大企業もあるという。(僕はそのDaoCoffeeのインスタントを買って帰った)
サーフィン好きの僕は、これまで山国ラオスにまったく無関心だった。だからここビエンチャンにビザランで来ることになっても何の下調べもしなかったのだが、このコーヒーの味には恐れ入った。ベトナムのコーヒーも旨いからこれもフランスの影響なのだろうが、いや、ラオスのコーヒーはベトナムの比ではない。
これまでの人生の中で最高に旨いコーヒーと言っていい。これだけ旨ければ、「コーヒーを飲むためだけにラオスにまた来よう」という気にさえさせられる。いや、させられた。ビザランなんかコーヒーの「ついで」になってしまう。
や、やばい。タイファンだった僕がラオスファンになってしまいそうだ…。