平井俊顕 (ひらい・としあきToshiaki Hirai)ブログ

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(メモ)
パリ講和会議でのケインズの2つの提案とその拒絶 −「戦争から生じている連合国間債務の処理」(1919年3月) と「ヨーロッパ再生のための大計画」(4月)

by O. Epimetheus

さて、パリ講和会議において、ケインズは当初から非常に重要な役割を演じることになった。チェンバレン蔵相はケインズに全幅の信頼を寄せており、「最高経済会議」(Supreme Economic Council) において、蔵相代理の職を託している。蔵相が不在の折り、全面的にケインズが職責を全うすることを託しているのである (1919年2月24日)。この他、ケインズは、講和会議の金融委員会の大英帝国委員の2名の1人であり、ドイツとの休戦交渉における金融派遣団の長でもあった 。

パリ講和会議におけるケインズの注目に値する活動には、次のものがある。まず1919年3月に提示された 「戦争から生じている連合国間債務の処理」がある。これは、「債務の放棄とケインズの信用再生計画をリンク」させたものである。この案は秘密裏にウィルソン大統領に送られている。
だが、アメリカは、同案の債務放棄という考えに関心を示すことなく終わっている。(ちなみに、この案は、『平和の経済的帰結』 第7章「治癒」の第2節「連合国間債務の清算」のなかに少なからず取り入れられている)。

ケインズが最も意をくだいて次に提案したのは、1919年4月の日付をもつ「ヨーロッパ信用の復興および救済・復興金融の計画」である。これは、「ケインズ案」とか、ケインズ自らが、母宛手紙で「ヨーロッパ再生のための大計画」(4月17日付) と表現しているものであり、「賠償債券の協同保証」案である。これはロンドンで内閣に提案され、蔵相チェンバレンによって激賞されたものである。チェンバレンは、4月17日付のロイド・ジョージ宛手紙において、この案を強烈に推薦しており、この案とそれを米仏伊のトップに提示するための説明書 ― ケインズが書いたもの ― を添え、ウィルソン大統領と個別にこの案を討議すること、ならびにこれをパリ会議におけるイギリス案として公式に伝えることを要請している。

「首相による、大統領、クレメンソー、オルランドにたいする説明の手紙草案」 が付されている。これは、ケインズによって書かれたものであるが、蔵相およびロバート・セシルが、最高経済会議 (Supreme Economic Council) のイギリス代表に代わって、ヨーロッパの信用および経済生活の再生のための解決策を提示するものである。いまのヨーロッパがいかに惨憺たる状況に陥っているのかが語られ、そしてそれを再生するための金融案として、この案がいかに重要なものであるのかが強調されている。直接の援助・様々な方式の保証金融 (この場合、アメリカに90%を負うことになる) もあるが、自立した足で立てる本案 (ヨーロッパの信用システムの創造) がより重要であることが強調されている。この案により得られる諸利点が、連合国諸国、新国家、旧敵国のみならず、米英にとっても大いなる利点のあるものであることが強調されている。この説明書は、上掲のドイツの事例を語ることで締められている。

ドイツの例で簡単に仕組みをみると次のようになっている。ドイツは10億ポンドの現在価値、12億ポンドの額面価値で債券を発行、利子は年4%、減債基金は年1%として、この支払はすべてに優先される。また両価値の差は利子の基金として充てられる。この利子は敵国による共同保証とするが、支払えない場合は、主要連合国および連携国が保証する。これらの国のなかで支払えない場合は、他の諸国が保証する。さらに問題がある場合は、国際連盟の金融部門でペナルティが検討される。
また、ドイツの場合、10億ポンドの債券を発行し、うち7億2400万ポンドを連合国および連携国への賠償金支払いに充て、7200万ポンドをスカンディナビア諸国・オランダ・スイスへの残存する債務の支払いに充て、残る2億ポンドを食糧・原材料の購入に利用する。

この案は、ヨーロッパ諸国が金融債券を発行することを容易にするために、連合国政府や提携国政府がそれを保証するという案である。そのことにより資金の調達が可能となり − そうした保証がなければ、現在の旧同盟国が資金調達を行うことは難しく、そうなると経済的にきわめて苦しい状態にあるこれらの国は一層の危機に陥ることになる − 賠償の支払いのみならず、自国民のための食糧や原材料を確保することが可能になる。

 ケインズ案はロイド・ジョージからウィルソンおよびクレマンソーに送付されている。これにたいするアメリカの反応については賛否双方についてかなり詳しい状況が、1919年5月4日付のブラッドベリーおよびチェンバレン宛のケインズの手紙 で報告されている。この案については、アメリカ代表団の本部から情報は筒抜けで、ワシントンからは激しい反対の声が巻き起こり、代表団がケインズと私的にも話すことを公式に禁じられるという事態になった。またウィルソンからロイド・ジョージ宛に断りの手紙が届いた、もしくは届けられようとしているというニュースも流れていた。
 アメリカ人の感情として、現在の賠償政策への不信感がきわめて濃厚であることが挙げられている。またフランス、イタリアにたいしてはかなり強い不信感をアメリカはもっており、ウィルソンがこれらの国に金融支援をすることはないだろうと見られている。

  つまるところ、ワシントンは、ヨーロッパにたいする責任から足を洗いたいという強い思いのために −このことのもつヨーロッパへの意味について気づくことなく − 私の提案を拒絶しています。他方、パリにいるアメリカ人から期待される同情 …ですが、平和交渉の進行に対する不満足によって減退しています。しかしながら、かれらは新しい国を支援するつもりはあります。彼らは、もしわれわれの賠償計画を助けることなくドイツを助ける道が見つかればドイツを助けたいと思っています。でもフランスやイタリアは罰したいと彼らは考えています。 … 全体の状況は絶望的です。

事実、ウィルソン大統領は、1919年5月3日付のロイド・ジョージ宛手紙でケインズ案拒絶の理由を認めていた。

   ヨーロッパ諸国がドイツから取り上げようと決めているものに代わって、アメリカが新たな運転資本をいったいドイツに提供することを誰が期待できましょうか。このような質問は答えが自明なものですが、それでも私はこのことを述べることを禁じえません。
  
そしてウィルソンは、これらの問題を検討するために、新たな委員会を立ち上げることを提案していた。そしてそれは5月9日に設立された。

ケインズはこうした交渉、会議において、具体的な提案の提出に始まり、驚くべき観察力をもって、対峙する見解にたいする自説の立場を強調するという姿勢を怠ることがない。そしてその時々の観察経緯を含め、非常にまめに関係者にたいし手紙や覚書を交わしている (さらにそのなかには、母や父にたいしても関係する報告を出している)。こうした行動は、いま問題にしている時もその通りであるが、じつは彼は死ぬまでこうしたスタンスを持続していること、そしてその活動の過重負担からしばしば体調を著しく崩すということも含めそうであること、をここで改めて強調しておく必要がある。

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