散策思索語録質種

絵本もどきの落書きと、エッセイもどきのひとりごと・・・

好きなもの

[ リスト ]

レニーブルース

イメージ 1
ダスティン=ホフマンは、60年代、サイモン&ガーファンクルの歌う美しいメロディに乗って大ヒットした「卒業」がスクリーンデビューだった。30歳になってようやく得た大役というから、なかなかアメリカのレビュー界というのは生易しい世界ではない。見る・聞くに堪えない演技力・歌唱力でも、少しばかりスタイルと顔さえ良ければアイドルとしてどんどん売りに出しては使い捨てる、どこかの国のジャリタレとはまるで違う。

長い下積みの苦労を経験しているから、その演技には一分の隙もない。実際、その後の「真夜中のカウボーイ」「トッツィー」「クレイマークレイマー」「レインマン」などなど、彼の出演作全てが見応え十分の作品に仕上がっている。 「レニーブルース」はそんな彼の出演作の中で、特に好きな作品である。といっても、この映画は日本ではあまりヒットしなかった。ちょっと日本人には難しいのである。 まず、物語のモデルとなったレニー=ブルースというボードビリアンが、われわれには馴染みがない。レニーの芸は、日本で言えばストリップ劇場の幕間に出てくる漫談のようなものだ。ところが、彼の場合、かなり社会的あるいは政治的な問題をテーマに話を繰り出すため、アメリカ社会について興味がないと、ちっとも面白くない。加えて、きわどいスラングが連発されるので、字幕を追うのが精一杯で、生の英語はとても聞き取れない。 物語の進行も、過去の場面と現在進行形の場面がめまぐるしく入れ替わって展開されるから、予め物語の大意をつかんでおいて見ないと、混乱してしまう。あまり考えなくて済む面白いだけの映画を好む今どきの日本人には、なかなか受け入れられない作品だろう。 しかし、彼をモデルにしたこのような映画が作られたのだから、アメリカ人の記憶に残る人物であっただろうことは容易に想像できる。その主役をダスティン=ホフマンが見事に演じきっている。 実際、私が最初にこの作品を見た新宿の映画館の中は、日本人の観客の中にかなりの数のネイティブが混じっていた。彼らはもちろん字幕なしで話がわかるので、レニーがジョークを言うとすぐにげらげら笑い出し、少し遅れて字幕を読んだ日本人が笑い出すという、まことに奇妙な客席風景だった。 私の場合も、1回だけの鑑賞ではほとんど理解できず、ダスティン=ホフマンのカッコよさだけで満足して映画館を出たという感じだった。その後、内容が過激なのでテレビ放映されることもなく、ビデオが出回るまでは再び見ることもなかった。お気に入りの作品となるのは、何回もビデオを見てからである。 黒人の客がいる中で、彼が「ニガー、ニガー」と連呼する印象的な場面がある。それが差別語であることはご存知の通りだ。当然、黒人客はムッとした表情を彼に向ける。ところが、その差別語を無意味にしてしまう彼の話術。言葉が単なる記号であり、問題となるのはその言葉の裏側にある感情であることを見事に証明してしまうのだ。これは何度見ても心を動かされるシーンで、最初に見たときもこの場面だけは衝撃が走ったことを鮮明に覚えている。 差別や猥褻、憎悪、いじめなど、人はそれらを意味する言葉を忌み嫌うが、本来問題とすべきは言葉ではなく、実際の差別、猥褻、いじめなどの感情なのだ。彼が発するメッセージのすべてが理解できたなどと、おこがましいことは言えないが、少なくとも彼が伝えようとしたことの一端を知ることはできる。 アメリカのポリティカル・コレクトネス、日本の差別語あるいは放送禁止用語、どちらも同じようなものだが、そのような言葉を排除することで問題を解決できると思ったら大間違いである。それは単に臭いものに蓋をしているだけなのではないか。問題に正面から取り組まず、解決を先送りして、うやむやにしているのに似ている。時間はこの手の問題を解決しない。かえって問題を悪化させ、解決を難しくしてしまう。今のおエラいさんのほとんどが、どうもこの辺のところがわかっていないように感じるわけである。 北野たけしは若い頃レニー=ブルースのようになりたかったという。その片鱗はあったが、レニーのように徹底して攻撃型の芸に生きることは、日本の芸能界では難しそうだ。 レニー=ブルースは1966年、麻薬中毒で急死した。麻薬が反社会的なものであることは言うまでもない。しかし、その死に様は、かえって彼が受けた社会的ストレスの凄まじさを想像させる。映画のラストシーンは、その壮絶な生き方を象徴するように、横たわる姿が光の中でフォーカスされ、静かにカメラが引いていく。 そういえば、このところ日本の芸能界でも麻薬犯罪の話題が引きも切らないけれども、いずれの例も軽薄で何のメッセージ性もなく、この国の浅薄な現代文化を象徴しているように見えるのは情けないとしか言いようがないではないか。


[補遺]関連映像をYouTubeからリンクしておきます。
「レニー=ブルース」のワンシーン(字幕なし)
  http://www.youtube.com/watch?v=SOnkv76rNL4
※字幕なしのため、日本語訳を以下に参考まで。 「ニガーはいるかい?ライト点けて、ウエーターも手を休めてくれ。スポットは消して。オレ今何と言った?『ニガーはいるかい?』って言ったんだよな。まず、あっちに1人いるな。あそこに2人いる。それにユダヤ野郎もいやがる。あそこにもユダヤ野郎。イタリア野郎もいるだろう。もう1人いるぞ。ポーラックも、ラテンの阿呆も、くそアイリッシュもいるぜ。アレも強くてやる気満々。筋肉モリモリのブギ野郎。ブギブギ・・・。ユダヤ野郎3人、イタ公は6人、ニガーは7人かい。よーし、そろって売ってやらあ。ニガー7人、イタ公6人、ユダヤ野郎4人いろいろ。どうだ、オレをぶんなぐるか?オレが言いたいのは『言葉の抑圧』ってことさ。それこそが暴力や悪意の元凶なのさ。ケネディ大統領がテレビで『政府のニガー全員を紹介しよう』って言ったらどう思う?大統領が『ニガー、ニガー』と連呼したらどうだい?ブギブギブギ―、ニガニガニガー・・・何の意味もなくなる。6歳のガキも学校で『ニガー』といじめられなくなるぜ」

(2009/08/10)

閉じる コメント(2)

「ニガニガニガニガ…」と連呼するのを聞いて、子供たちが「何見てるの?」と質問したので、この記事の内容を説明しました。
今はうまく言葉にできませんが、とても考えさせられるテーマです。わたしもDVDを探してきて「何度か」観てみますね。
ダスティン=ホフマン、大好きな俳優です。ありがとうございました。

2009/8/11(火) 午前 0:09 [ You ]

顔アイコン

youさん、コメント有難う。

難しい映画です。1回見ると疲れてしまいます(苦笑)。
でも、しばらく見ないでいるとまた見たくなってしまう不思議な映画です。こんな短い記事だけでは説明しきれないのも当然です。
そして、難しいテーマです。
そのテーマに対する感じ方・考え方は人それぞれで、正解はどこにもありません。それでいいのだと思います。
映画の背景にある問題は一つに止まりません。それらの問題について考え、みんなで語り合うのが大事なような気がします。
そんな映画だと思っています。

2009/8/11(火) 午前 6:59 面白狩り


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事