散策思索語録質種

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実を言うとシューベルトのセレナーデなんか大嫌いだった。 ガキの頃の話。うちでもついにステレオを買ったというので、興味津々、早くレコードを聞きたくて仕方がなかった。父親から勝手にいじってはいかんと釘をさされていたのもものかは、誰もいない時にそっと応接間に忍び込み、付属のソノシートを取り出してプレーヤーにかけてみた。 最初に流れてきたのが、ドボルザーク「新世界より」第4楽章のさわり。続いてメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲のさわり。チャイコフスキーのピアノ協奏曲のさわり。どれもいままで聞いたことのないステレオ音響の世界に、頭がクラクラしたものだ。

そして最後にシューベルトのセレナーデが流れてきた。オーケストラの後のソロ演奏というマイナスもあったかもしれないが、日本人テノールの歌声がキンキラキンとやけに安っぽく聞こえた。そして、それがセレナーデのイメージとなって頭に刷り込まれてしまったのである。恋の歌であることも、悪ガキには照れ臭いような妙な拒否反応になる要素だったと思う。 不幸なことに、以来、シューベルトは他の作曲家と比べると、1ランク下のようなイメージになってしまった。特にセレナーデは安っぽい曲の代表格で、なにかの拍子に聞こえてくると、辟易して両手で耳を塞いだものである。
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以前、NHK教育テレビで世界名画劇場という番組があった。ヒット作・話題の作というよりも中身の濃い佳作が多かったので、毎月楽しみにしていた。その中で「未完成交響楽」という1933年のドイツ映画が流れたことがある。冒頭の解説をしていたのが水戸黄門でお馴染みの故西村晃で、あの独特の気取った調子で「思いっ切り泣きましょう」と言っていたのが印象的だった。 物語はうら若きシューベルトが恋に悩み、一篇の交響曲を未完のままにするエピソードを描いたもの。フィクションではあるけれども良い映画に仕上がっている。特に、この制作年にナチスが政権を取ったことを考えると、政治情勢と芸術との間のギャップが奇跡のように感じられてしまう。

青年シューベルトが貴族令嬢の家庭教師となり、そのレッスンでこの令嬢がセレナーデを歌うくだりがある。これには映画の主人公同様、見ている私も言葉を失ってしまった。過剰に感情が込められることもなく、透き通るようなソプラノで恋心を歌い、聞くものを魅了する。セレナーデに対する偏見が一気に払拭されてしまったのである。 マルタ=エゲルトというこの女優は、当時20歳の新進ソプラノ歌手。恐らくは彼女の芸術家としての運命も、激動の歴史にもてあそばれたに違いない。数本の映画に出演した後の活動はよくわからない。しかし、齢90を超えてなおコロラトゥーレを披露するほどの声の持ち主で、100歳近い今でもかくしゃくとしておられるという。 素人耳で正しいとは言えないかもしれないが、声の質からは重厚なオペラ向きという感じがしない。その代わり、ポップスを聞くような軽さと安心感がある。映画の中の酒場で踊り出す場面など、可愛らしいアイドルという印象すらある。この人は戦後に活躍の場を得ていたら、ミュージカルスターとして大成功したのではないか。 いわゆるクラシック音楽に比べれば、ポップスや歌謡曲、民謡など大衆芸能と言って蔑む向きもあるが、クラシックだって元々は大衆芸能から始まっている。シューベルトの歌曲は、今は大きなステージの上で高名な声楽家が歌うけれども、作曲当時は庶民の間で歌われたはずだ。それぞれの国にそれぞれの歌謡がある。シューベルトやJ.シュトラウスはドイツやオーストリアの歌謡曲なのではないか。 マルタ=エゲルトのセレナーデ。西村晃が語った通り泣かせるのである。 (文中敬称略)

[補遺]関連映像をYouTubeからリンクしておきます。
 映画「未完成交響楽」から カロリーネがセレナーデを歌うシーン
  http://www.youtube.com/watch?v=NhtiSyZQbRk

(2009/10/11)


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