| 昔は寝台列車に揺られた翌朝、宇高連絡船で瀬戸内の海を渡ってようやく着いた四国の地。今は朝7時に新横浜を出て、正午過ぎにはもう目的の駅に降り立てる。今さらながら交通機関の進歩には驚くばかりだ。 先週、仕事で愛媛の新居浜に行く機会があった。地図で見れば大きな文字の駅だが、駅前は閑散として何もない。近くに別子銅山を控え、住友発祥の地とされる工業地帯ながら、タクシーから眺める街並みは、東京近郊の閑静な住宅地とさほど変わらぬ。土地土地に個性がなくなったと言えばそれまでだが、これが今の日本のごく一般的な風景と思うしかない。 商店街も何もないので、帰りが遅くなるけれど、一旦高松に出て土産を見繕うつもりでいたら、キオスクでしょうゆ豆を見つけた。父方の祖父母が讃岐の出で、子供の頃よく膳に乗ったものだ。懐かしさも手伝ってこれを土産にと袋に詰めてもらった。 皮に焦げ目が付く程度に炒った空豆を、醤油と砂糖で味付けしたツユで中身が柔らかくなるまで煮たもの。少し香ばしくて甘辛の味がご飯によく合う。心地良い歯応えが癖になって箸が止まらなくなるので、食べ過ぎに注意しなければならない。 記憶ではもう少し醤油の色が黒っぽくて、味も辛さが勝っているような気がしたが、製造元は様々のようなので、店によって味が異なるのだろう。これはこれで美味かった。 讃岐と言えば、今どきは矢鱈にうどんばかりを宣伝する。確かに昔から讃岐うどんは有名だったけれど、こんなにうどんうどんと騒いだりはしなかった。自分の印象では、何と言っても瀬戸内の新鮮な魚介だったし、うどんなんかより惣菜屋の天ぷらの方が美味かった。(天ぷらと称しても、衣を付けて揚げるあの天ぷらとは異なり、白身魚をすり身の団子にして油で揚げたもの。これを大根おろしに醤油を垂らして食うと絶品なのである) 土産はぶどう餅か瓦せんべいが定番で、それ以外のまんじゅうやらカステラの類いはどこにでもある面白みのないものばかりで、味も全く記憶に残っていない。残念ながらぶどう餅は並んでいなかったが、瓦せんべいは二箱ほど土産に購入した。 ただし、帰って開けてみたら、小振りの瓦で歯で簡単に割れる代物だった。これは本当の瓦せんべいではない。瓦の如き大きさと分厚さ、一筋縄にはいかない固さの、文字通りの瓦せんべいでなければならない。そういうのは、やはり高松に出ないと手に入らないようだ。 日帰りで長い時間電車に揺れた後は、妙に疲れが残った。が、しょうゆ豆を一つ口に放り込んで懐かしい甘さを愉しめば、少しは気分も癒されるというものだ。 |
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| 15センチもある釘を見たことあるかな アスファルトで固められていない空き地が あちこちにまだたくさんあった ボクはじいちゃんの道具箱から 五寸釘を一本拝借して 地面にしっかり刺さるように 先っちょをゴシゴシ石で研いだ 釘刺しは3〜5人くらいでやる 相手の進行方向がなくなるように 囲ってしまえばボクの勝ち 負けちゃうと 内緒で持ってきた五寸釘を取られるから 絶対勝たなければならないのだ よーし行くぞ〜! |
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| タンポポの黄色は春の色 道端の細い溝に 辛抱強く咲いている でも子供が好きなのは 花の後の綿毛の玉 一つ摘んでふーっと一息 玉が崩れていく不思議な快感 タンポポの落下傘が好き 自分も風に乗ってどこかに 飛んで行っちゃうような 気がするから… どこかって? 遠い遠〜い みんなが幸せに暮らしている国 |
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| いつものように5時前に目が覚めて、空を見上げると青空も出ているから、これは良いコンディションで見られそうだとほくそえんだ。 いつものように散歩に出て、東の空にときどき目をやると、怪しい雲がゆっくり北上している。関東は南の方ほど雲が掛かりやすいと言っていたが、なんとか我慢して欲しいと天に祈りながらの歩きに全然気合いが入らない。雲はどんどん厚くなり、家に戻ったときには雨粒が落ちてきた。ああ、神さま・・・! テレビはどの局も今日の天体ショーで持ちきり。東京も静岡も良い天気で、どうやら間の神奈川だけがアウトのようだ。残念無念・・・! テレビではっきり見えるから良いじゃないかという意見もある。しかし、そういう媒体越しのバーチャルな映像で満足するとは、なんてつまらない見方なんだろう。確かに肉眼で見る実際の姿は遠く小さく見難くて、BGMもアイドルもいない。でも、その取るに足らない光景に心を動かされるところが本物の良さなんだけれどね。 ガキの頃、遠足や運動会で天気が悪くなると、普段の行いが悪い奴がいるなんて揶揄された。ふん、それが本当だとしたら、この悪天候は今の総理大臣と電力会社のせいだ!・・・と、そう思うことにして諦めた。 が、いよいよ金環食の時間帯になると、折角だから見てみようよと、晴れ女を自負する老母が庭に出て空を見上げる。すると、どうだ。ときどき雲間に薄っすらとリングが顔を出すではないか! 老母は冥土の土産に有難いものを拝ませてもらったと大喜びだ。いやいや次は300年後だと言うから、誰もかれもが冥土の土産。 自分のいる場所とお天道様の間にお月さんがいるという、そんな位置関係を頭の中で描きながら、じっくりありがてえものを見せてもらいやんした。 |
| ◇金環食(きんかんしょく)_太陽が月に隠されて欠けて見えるのが日食で、月が地球から遠い位置にある場合に金環食が起こる。逆に近い位置にあると皆既日食になる。この位置のずれは月の軌道が楕円になっていることから起こる。(2012/05/21) |
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| 葉桜の落ち着きに安堵する頃、紅色のよく目立つ蕾を枝一杯に付けるので、さぞ鮮やかな赤い花だろうといつも想像する。ところが花が開けばありふれた淡い紅。それでつい印象に残らないまま花期を見過ごしてしまうのである。 そんな曖昧さがあって、ねむれる花という別名があるのかと思っていたら、そうではなく、酒に酔って眠たげな楊貴妃を、玄宗皇帝が海棠の花に譬えた故事から付けられた名前であった。 そんな蘊蓄を得るだけで、うつむき加減の花に艶めかしさを覚える。先入観のなせる技と言ってしまえばその通りだが、それではあまりにつまらない。 蕪村の、海棠や白粉に紅をあやまてる、はこの故事を織り込んだ句。それで深みと味わいが出るのだから、先入観に任せるのもたまには良い。 |
| ◇海棠(バラ科)_庭木によく利用される。野生種はない。花を観賞する垂絲海棠(はなかいどう)に対して実海棠があり、黄色く熟して食用となる。(2012/04/20) |
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