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私は小学生の頃、大好きだった恋愛小説を広げた。
もうずっと読んではいなかったのだが、その小説に出てくる女の子が履いている靴のイメージが、おばあさんのくれた靴にそっくりだったから、ついつい懐かしくなったのだ。
春物のワンピースを着て、長い髪をよそ行きのリボンで束ね、おばあさんのくれた靴を履いて
私はすっかり物語の主人公になりきって、古い小説を広げた。
その瞬間だった。
本当に一瞬の出来事だった。
私はヨーロッパにいた。
いや、厳密に言うと、そこがヨーロッパかどうかなんてことはさっぱり分からなかったのだが、きっとそこはヨーロッパなのだろう。
だって私の広げた恋愛小説は、フランス人の女の子が主人公だったのだから。
自分が物語の中へ入りこんだと言う事実は、すぐに分かった。
綺麗な目をした背の高いフランス人の男の子が私の手を握ってくれたからだ。
私は物語の主人公になったのだ。
そして私はフランス人の男の子と恋愛をして、ハッピーエンドで物語を終えた。
物語を終えると、私は自室の机の上で突っ伏した格好で倒れていた。
どうやら眠っていたようだ。
春物のワンピースを着て、よそ行きのリボンをつけて、魔法の靴を履いて。
それは至福のひと時だった。
私の胸は熱くなり、そしておばあさんに何度もありがとうと呟いた。
それから私の口癖は「たった一人の人にでもいい、生きているうちに何かを残したい」になった。
おばあさんが私に靴をくれたように、私も誰かを幸せにしてあげたい。
それから私は色んな物語の中へ入り込んだ。
ファンタジー小説、学園もの…
時には映画の中にも入り込んだ。
それらはとても素敵なひと時だった。
しかしいつしか私は物語の中へ入り込むことをやめた。
冷めてしまったのだ…
結果の分かっているものに対して、新鮮ではなくなってしまったのだ。
物語の中に入り込んでいる時も、結局夢物語のような気がして、なんだかワクワクしなくなったのだ。
それに私の足は少し大きくなった。
サイズの違う靴を無理して履いてまで、物語の中へ入り込もうとは思わなくなったのだ。
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確かに靴のサイズが違うと歩けないしね。。。
2008/8/5(火) 午後 5:09