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『盆土産』

このところ、金田一温泉郷は暑い日が続いている。
35.5度などとは、もう体温と同じ気温なのだから、堪らない。
こんな時には金田一温泉プールにでも漬かって、避暑をしたいものだ。
子供の頃は、ひと夏の定期券を買い、大人自転車に三角乗りしながら毎日温泉プールに通ったものである。
どの子も日焼けで真っ黒くなっていた。


アッと言う間にお盆がきてしまった。
明日は、迎え盆。
昔の我が家では出稼ぎの父達が帰ってくる日でもあった。
両手に抱えきれないほどの荷物とお土産を持って、駅の改札口に姿が表れるのを、今か今かとドキドキしながら待っていた。

『盆土産』には、一昔前の田舎のそんな情景が描かれていて、読む度に幼い時の自分を思い出させてくれる。
時代が変わり、今は、高速道路を車で行き来し、自宅の玄関で「今帰ったぞ!」である。
又、東京まで新幹線で3時間の時代。夜行列車に8時間も揺られて遥々行き来した時代はもう無く、「チョッと行ってくらぇ」の気分になってしまっている。


父からの速達が届いた。
《『盆にはかえる。十一日の夜行に乗るすけ。みやげは、えびフライ。油とソース買っておけ』
祖母と、姉と、三人で、しばらく顔を見合わせていた。父親は、正月休みで帰ってきたとき、今年の盆には帰れぬだろうと話していたから、みんなはすっかりその気でいたのだ。
勿論、父親が帰ってくるのは嬉しかったが、正直いって土産がすこし心許なかった。えびフライというのは、まだ見たことも食ったこともない。姉に、どんなものかと尋ねてみると、
「どったらもんって……えびのフライだえな。えんびじゃねくて、えびふらい。」………。
…それは、父親がわざわざ東京から盆土産に持って帰るくらいだから、飛び切り旨いものには違いない。だからこそ、気になって、つい、
「えびフライ……」
と呟いてみないではいられないのだ。》


《午後から、みんなで死んだ母親が好きだったコスモスと桔梗の花を摘みながら、共同墓地へ墓参りに出かけた。盛土の上に、ただ丸い石を載せただけの小さすぎる墓を、せいぜい色とりどりの花で埋めて、供え物をし、細く裂いた松の根で迎え火を焚いた。》

南無阿弥陀仏と唱える祖母の念仏は「なまん、だあうち」というふうに聞こえるのだった。

この『盆土産』は、『冬の雁』に収録されている。
中学校の教科書にも引用されているので、今の若い人達にも良く知られている作品である。
〈父っちゃのだし〉の話しなどのように父親や、姉、祖父への思いやりなど、人として失ってはいけない何かほのぼのとしたものが、描かれていて、多くの少年少女たちの心に訴え掛ける名作となっている。

《揚げたてのえびフライは、口のなかに入れると、しゃおっ、というような音を立てた。…》
これを読んだ中学生たちは、お昼近くの国語の時間には堪えられなくなるので、忘れらねないらしいのだ。

明日からは盆で、殺生はいけないので精進しなければならない。
そんな慣習も時代と共に薄れて来ているこのごろである。



※この小説では川に河鹿が鳴いている情景が出てくるが、お盆の頃にはもう、河鹿の鳴声は聞こえないのだが、これは作者の拘りなのか。

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ここでは鳴いてましたよ。河鹿。

2010/9/8(水) 午後 4:32 [ sam*y*w240 ]

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