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■写真:小説の薪ストーブ式の暖炉と似ているのは偶然かな?
中学生の塾で講師をしている「すふ」さんから、うれしいコメントを頂いた。
「たきび」という作品が大変中学生に好評なのだという。
問題に抜粋されて載っていたのを読んだ生徒が口をそろえて全文読みたいと言っているので、どの本に掲載されているのか知りたいとのコメントだった。
「たきび」は『短篇集モザイク2 ふなうた』(単行本:H6.12新潮社発行、文庫本:H11.1新潮文庫発行)に収録されていて、読んでいてグッと胸を熱くさせる作品である、
原稿用紙16枚ぐらいの短篇物語なのだが、非常に中身の濃い作品で、私も大好きな短篇小説のひとつである。
定年になった主人公が、退職金の一部を割いて、自宅の居間に薪(たきぎ)を焚く薪ストーブ式の暖炉をこしらえた。
彼は、信州の八ケ岳山麓にある幼馴染の山荘を訪ねた時に、暖炉の炎に見惚れてしまい、その晩に東京の自宅に暖炉を作ろうと決意したのであった。
その新しくできた暖炉の炎をしんみり味わいながら、亡くなった妻の義眼にまつわる過去のことを思い出す。
妻が小学校6年生の時に、子供会の清掃行事でたき火をしていて、誰かが投げ入れた生栗が焼け爆ぜて右目を直撃してしまい、やがて失明した。その時、彼女を抱きかかえて自宅まで送り届けたのが、当時中学3年生の彼だった。
義眼になっても彼女は、以前の明るさも活発さも失うことなく、表情豊かな女子高生に育っていく。
そんな彼女を見て、生栗を放った当事者の彼は、自責の念に耐え切れなくなり、東京の大学に進学し、夏の休暇で帰省した時、道で出会った彼女に告白する。
すると、「ありがとう。嬉しいわ。あたしね、あなたがいつかはきっとこうして打ち明けてくれると思って、心待ちにしていたの。」と言われる。
当時、彼女は彼が犯人であることを見て知っていながらも、誰にも言わなかった。家中が犯人探しで大騒ぎしていた時にも犯人探しを止めて貰ったのだと言った。
彼は大学を出て後に、彼女に結婚を申込んだ。
「あたしを片目にした責任とか、同情とかと無関係だったら、喜んでお受けするわ。」と彼女はいった。
そして、円満な夫婦生活を送り、ある冬の夜明けに急性心不全であっさりとあの世へ旅立ってしまった。
彼は、毎晩、居間の暖炉の前で好きなだけ夜更かしをする。
うっかり居眠りをしたり、物思いに耽ったりしながら、耳許に妻の囁き声がすると、独り言を呟いて、暖炉に薪をくべるのであった。
中学生たちに関心を持って頂けて好評なのは、大変嬉しいことだ。
是非、読んで戴いて、感想を聞かせて欲しい。
主人公と同様の心境で、今夜も、すっかり夜更かしをしてしまった。
我が家の暖炉にも、薪をもう一本足して寝ることにしよう。
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