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三浦さんは少年時代を日中戦争や太平洋戦争の中で過した。
小学校入学から敗戦の中学三年生まで徹底した戦時教育を受けた筋金入りの軍国少年で、国のために命を捨てよと教えられて育ったという。
戦争一色の暮らしの中で、自分の生きるための目標を海軍の戦闘機に乗って、戦場で華々しく死ななければならないと思い込んでいた。
しかし、出生がほんの少し遅れたために兵士として戦場へ出ることを免れて、戦争で死なずに済んだ。
〈『時のせせらぎ 若き日の追憶紀行:「八戸」』(1994.H6.8.20講談社発行)に記載〉
そんな、経験や思いが色々の作品に描かれている。
『蒼い断章』を読んだ。
自分の乗る特攻機が故障したために、出撃間際に同僚たちから取り残されてしまった18歳の特攻隊青年の、再出撃までの一日が描かれている。
これは、正月に読んだ『駱駝の夢』と同じ特攻隊員の話しで、同じ物語りを読んでいるように錯覚してしまう。
軍国少年だった三浦さんの思いが強く感じられる作品だった。
もう二度と来ることがない筈だった宿舎に戻ってきたら、自分のベッドの身の回り品の木札の根元に誰かが手向けてくれた白い野の花が何本か横たえてあった。
その花を手に取ってみた。蕎麦の花であった。
「部落の女の人達がな、いつもそうしてくれるんだよ。」
みていると、中学のころ、よく軍人勅論などを暗唱しながら歩き廻った郷里の蕎麦山の花ざかりが、茫と目に浮かんできて
「そうですか。この辺りでは、もう蕎麦の花が咲いているんですか。」
「うん……貴様、蕎麦の花は馴染なのか。」
「はい。私の家でもそばを作っておりましたから。」
「ほう。貴様は確か東北だったな。郷里(くに)は。」
「はい。青森と岩手の、ちょうど県境であります。」
「蕎麦畑なら、この辺りには沢山ある。あとで歩いてみるといい。」
中尉は言った。
蕎麦の花を手向けてくれた部落の娘に出会い、一面に白い花をつけている蕎麦畑に案内してもらう。
蕎麦畑に佇んで、郷里のことを思い出しながら二人だけの時を過す。
特攻隊員の青年の死を目前にした純情な描写に心を打たれる作品であった。
この作品は『剥製』(単行本 S45.7河出書房新社発行)に収められている。
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