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色々な場所を舞台に描く小説の中でも、 「便所」 が舞台の小説はそうあるものではない。
トイレ = 便所 = 厠 都会の洗浄装置の付いた近代的な便器。 郷里の農家の床板を跨ぐ肥溜兼用の外便所。 北の在所の村から、死んだ息子の嫁に引き取られて東京暮らしをしている老人が、厠で落とした入れ歯を拾おうとして身動きが出来なくなった事件の短篇小説 『おとしあな』 は、滑稽なようでいて笑えない老人の話しである。 今は見られなくなった、田舎の農家の厠を思い出すところの描写が懐かしい。 私たちの子供のころの便所は、尻を拭いた紙は決して汚物と一緒にしないで、後ろの箱に入れて置いて後で燃やした。そして、跨いだ床板の穴の下に溜まった排泄物は、畑に撒いて肥やしにしたものだった。 屋外に在る厠の中は、目に滲みるほどの濃い臭いが常に充満していたもので、衣類に染みついた匂いが、用事を済ませて戻った食卓にまで付きまとい、困ったものだった。 それでも、毎日の厠での一時は、朝には朝の、夜には夜の鳥の鳴き声、雨風の音が手に取るように聞こえて、気持ちを和ませてくれた。 短篇モザイク3 『わくらば』 に収録されている 『おとしあな』 (新潮H12年6月号に発表)は、何か忘れてはいけないものを思い出させられた気がする、懐かしさのこもった、三浦さんらしい作品になっている。 この小説の最後に、子供のころに母親から聞かされた 「座敷童子」 の話として、障子のかげで洟(はなみず)をすすり上げては独居の老女をからかうという話しを書いているが、それは果たして、金田一の地域でも語られている話しなのだろうか? 三浦さんは 《座敷童子というのは、在所の古い家に棲むといわれている子供の姿をした妖怪》 と、いつものように解説をしてくれている。 |
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2010年05月24日
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