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■写真:八甲田山系大岳登山
・酸ヶ湯温泉駐車場から八甲田大岳を望む
・登山道に硫黄の匂いが漂う「地獄湯の沢」と警告表示板
・登山道脇に咲くイワカガミなどの花々
・混浴千人風呂のある酸ヶ湯温泉
この間の日曜日に、青森県八甲田で山菜採りの家族が倒れて死者や重傷者が出たというニュースが流れた。酸ヶ湯温泉の近くに在る地獄沼の辺りの笹藪で火山性ガスにやられたらしい。
実は、その前日の土曜日に、八甲田の大岳に登山をして来たばかりの私は、偶然とは言え、竹の子がビッシリ詰まった大きなリュックを背負って登山道を降りてくる多くの山菜採り客に擦れ違ったことを思い出しながら、とても驚いてテレビのニュースに見入ってしまったのである。
登山道の脇の笹藪の茂みのあっちこっちで、熊除けのラジオや妙な発信音を鳴らしながら、がさがさと動き回っているのを見かけ、なんと山菜採りの多いことだろうと思ったのだった。
高山植物の花を見付けながら歩いていると、登山道の脇で笹の茂みがガサガサと音を立てて動き出したので、「熊が出た!」と身の毛がヨダツほど驚いたが、山菜取りのおばさんが出て来たので、胸をなで下ろしたりしたこともあった。
上空には、エンジン音を轟かせながら、熊の出没目撃情報と警戒をスピーカーで呼びかけるヘリコプターが旋回していたが、熊よりも怖い火山ガスへの警戒などは考えも及ばなかった。
登って行く途中の地獄湯の沢では、濃い硫黄臭が漂っていて、所々で一瞬息苦しさを感じるほど濃いガスに遭遇したが、その時も無風状態だったことを思い出して、鳥肌が立つ思いをしている。
テレビの画面では通行止めにされた登山道の登り口が映し出されていて、一日違いの出来事に本当に驚いている。
登山の終わりに、酸ヶ湯温泉の大浴場の千人風呂に浸かって汗と疲れを流して来た。
風呂に浸かりながら、長編小説をしたためる為にこの宿に滞在したことがある三浦哲郎氏の滞在記の随筆を思い出していた。
詳しく書かれた作品は探し出せないでいるが、『旅雁の道草』の「タラッポの章」に、ゆたさんの車に乗せられて、青森市から八甲田・十和田湖経由で八戸に周り、一戸のおふくろさんを見舞った時のことが書かれていて、途中、酸ヶ湯温泉で、どてらの湯治客が道端の斜面でスキーをしているのを見かけて、この旅館に滞在した時のことを思い出して書いている。
〈私は、十数年前の夏、ある長い小説の腹案を纏めようとして、この温泉に半月ばかり滞在したことがあるが、そういえば、あのときとうとう纏め兼ねた小説をちょうどいま書き進めているのだと気がついて、古戦場へ舞い戻ったような懐かしさをおぼえた。滞在中、腹案が纏まるまでは節酒しようと思って、鞄のなかに忍ばせてきたたった一本の白葡萄酒を、毎晩、寝しなに、湯呑で半分ずつ惜しみ惜しみ飲んだことや、半日も湯治場にいて考え耽っているうちに、湯にあてられて、板の流し場に長々と寝そべったきりしばらく起き上がれなかったことなどが、随分昔のことのように思い出された。〉
梅雨時の晴れ間を狙って登った甲斐あって、薄日の差す天気に恵まれて、残雪の八甲田の山々の景色を堪能しながら、沢山の可憐な花々に巡り合い、そして温泉に浸かり心底リフレッシュできた。
その身体に染み付いた硫黄温泉の匂いが、家まで付いてきて漂っている。
三浦さんは、千人風呂の入浴のことなど「酸ヶ湯温泉滞在記」については、他の作品で詳しく書いていた筈なので、見付けたら又紹介することにしよう。
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