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「みのむし」

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■画像:ゆかりの家の、縁側のあるふた間続きの畳の部屋で「みのむし」を朗読する佐藤悦郎会員と観客



「うぬがは、でんで。」

先日以来、この言葉が耳から離れなくなっている。

「爺さまよ、いま戻ったえ。」
「うぬがは、でんで。」

痩せ衰えた姿で、入院先の病院から、一時帰宅したたけ婆さんを見た爺さまが言った。

不作のショックで急に呆けてしまったらしい爺さまは、同じ問いを繰り返した。

「汝は、誰で。(うぬがは、でんで。)」


悲惨な大飢饉、出稼ぎに活路を求める倅、実家に戻ってしまった嫁、稔らなかった田の畦道、裏の林檎畑、厚く霜をかぶっている踵の潰れたズック靴。
茣蓙の上にぺたりと座って、火の消えた薪を見つめている囲炉裏ばた。


縁側の外に落葉で疎らに色づいた梢の秋景色が見渡せる、ふた間つづきの畳の部屋に、金田一訛りの声が響く。

「うぬがは、でんで。」

佐藤悦郎会員が選んで読んでくれた短編小説「みのむし」の、朗読の場面である。
三浦さんと変わらない年齢だという佐藤さんならではの、素朴な訛りの語りが実に良く合っていた。

情景といい、季節といい、ピッタリの作品で、施設のホールなどと違って、臨場感あふれる「ゆかりの家」ならではの、実にドラマチックな朗読だった。

三浦さんやその家族が寝起きしたこの部屋で朗読を聴いている。
そして、作品の情景を感じながら文学散歩へと続くのであった。


東北のはずれのこのあたりの話として「新潮」平成6年1月号に発表された「みのむし」は、平成7年に第22回川端康成文学賞を受賞している。
三浦さんにとっては2回目の川端康成文学賞受賞になる。


遥か遠く東京に住んでいても、東北の郷里のことを気に掛けている三浦さんの気持ちが伝わってくる作品である。


浦安の大谷静子さんも言っていた。

〈短編で涙を流しながら笑みがこぼれたり、笑いながら涙が頬を伝わったり。三浦作品は温かい心に満たされています。〉

そう、寂しく悲しいストーリーなのに、何故か温かさを感じさせられるのが不思議でならない。

そういえば、大谷さん、これも《おばあさんシリーズ》ですよ!



「うぬがは、でんで。」

あの佐藤さんの声が、当分、私の耳から消えそうにない。




「みのむし」は、単行本、文庫本『短篇集モザイク-2 ふなうた』に収録されている。
又、そのモザイクシリーズ1〜3集を一冊にまとめた『完本 短篇集モザイク』(税別2,800円)が、昨年12月に新潮社から発行されているので、読んでみることをお薦めしたい。

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