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先日、金田一温泉の「きたぐに旅館」を訪れた際に、受付カウンターの上に三浦哲郎の英語版翻訳本が置いてあるのを見掛けた。それも、ハードカバーとペーパーパーブックの2種類が揃っていた。


商品の詳細
Shame in the Blood (血液中の恥)
    ペーパーバック:224ページ
    発行元:対位法最初の貿易版(2009年2月17日
    言語:英語
    ISBN-10:1582434700
    ISBN-13:978から1582434704
    商品の寸法:4.5×0.7×6.9インチ


これは、『忍ぶ川』とそれに続く連作『初夜』『帰郷』『団欒』『恥の譜』『幻燈畫集』の洋書版になっている。

米国、カナダで多くの人に読まれているらしいので紹介させて頂く。

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鱚釣り

「鱚釣り」

先日の例会で、田口会員から教えて頂いた作品名だった。
三浦哲郎作のこの題名の随筆は『日本の名随筆』(作品社刊)に載っているというが、どの巻に収められているか分からない。

『日本の名随筆』  ウィキペディア参照

日本の名随筆』(にほんのめいずいひつ)は作品社から出版・刊行された、明治以降の各界著名人による随筆を巻ごとに異なるテーマで編集した随筆集のシリーズ。

各巻ごとにそのテーマ(個々のタイトルとなっている)にふさわしい編者が選定され、それぞれ30-40編程度の随筆・エッセーが収録されたアンソロジーとなっている。執筆者数延べ2,000余名、総作品数7,000余編に上る。
「本巻」100巻(一文字シリーズ:『花』『鳥』『猫』……『命』)および「別巻」100巻(二文字シリーズ:『囲碁』『相撲』『珈琲』……『聖書』) からなり、昭和57年10月より毎月欠かさず1巻ずつ、200か月(16年8か月)をかけて、平成11年6月に全200巻の刊行を完結させた。完結記念として『作家別収録作品総索引』『随筆名言集』も刊行されている。1999(平成11)年、第53回毎日出版文化賞(企画部門)を受賞した。
目次前の巻頭には、その巻に関連したイラストレーションや絵画作品あるいは写真などがカラー印刷で口絵として飾られ、またテーマに沿った詩の一篇が置かれる場合もある。巻末には収録された各随筆の作者プロフィール・出典が記録されている。なお、全巻の装丁菊地信義が担当している。B6変形版にて各巻おおよそ250頁。価格は本巻1200円、別巻1600円(税込み)であったが、現在は本体価格1800円となっている。

三浦さんも第31巻『婚』の編者になっていて、師の井伏鱒二も第36巻『読』の編集を担っている。
釣りの話なので、もしかしたら開高健編 第4巻『釣』に載っているのかもしれないが、まだ確認できていない。

この全集には、三浦さんの随筆も数人の編者に選ばれていくつか掲載されているようなので、探し出してみなければならないと思っている。
しかし、200巻とはすごい全集だ。それも、書籍の大きさの割に1.800円/巻と高価なので、おいそれと揃えることも叶わない。

それでも、読む会の会員の中で、全巻そろえている人は一人だけではないようだから、文学への熱意とレベルの違いを感じた次第である。





「海鞘(ほや)の話」

三陸海岸の名物「海鞘」が最もおいしい季節がやって来た。
特にも岩手県洋野町旧種市町「南部もぐり」と呼ばれる潜水技術による天然の海鞘の収穫高が多いことで有名だ。
昨年3月11日の大津波で養殖場や海岸沿いの漁場が壊滅状態になったというのに、漁業の人達の努力によって、名産地の収穫が戻ってきたそうだ。
ヘルメットを使う伝統の潜水技法を守り続けている潜水夫は今は二人だけになってしまったという。
このところ、その様子をNHK−TVや岩手日報新聞などの特集で報じられている。

いつものことであるが、「海鞘(ほや)」を見ると、大の海鞘嫌いだった三浦さんが、ある時から海鞘中毒にかかってしまったという話を思い出す。

そのことについて書かれている「海鞘(ほや)の話」という作品は、『狐のあしあと』(1999年講談社刊)、『おふくろの夜回り』(2010年文芸春秋刊)に所収されている。


                  海鞘(ほや)の話
                                                   三浦哲郎

 食物で嫌いなものはと訊かれれば、「ホヤとカキ」と答えていた。カキの方は、アクセントで容易に柿のことだとわかって貰えるが、ホヤの方は、そうはいかない。二度も三度も訊き返されることが多い。
ホヤというのは、酒をたしなむ人なら誰でも知っている。肴には持ってこいの海産物で、漢字にすれば海鞘になる。海のパイナップルなどと呼ばれていて、海中の岩肌に付着しているところはなるほどそれに似ていなくもないが、色や中身は、似ても似つかない。
ホヤ好きにも、小料理屋や居酒屋などで、きれいに調理されたものしか見たことがないという人がすくなくないが、もとの姿はといえば、体長十五センチほどのいびつな球形、疣々(いぼいぼ)のあるセピア色の固い袋のような皮をかぶっている。見るからにグロテスクで、初めはちょっと手を触れるにも勇気がいる。
酒の肴に最適なホヤの身は、この固い皮袋のなかにあるのだが、私がホヤを味わうこともなく強い嫌悪感を抱くようになったのは、先にそのグロテスクな外形を見てしまったからである。
まだ郷里の旧制中学の生徒だったころ、家族が敗戦後も父の村へ疎開したままになっていて、私だけが叔父のところに寄食して通学していたのだが、週末に両親の許へ帰るとき、よく汽車で漁の行商人たちと一緒になった。私は、その短い汽車の旅で、初めてホヤのありのままの姿を見た。姿を見たばかりではなく、行商の女のひとが両手でホヤを持ち、仰向いて、口を大きく開け、ホヤの口腔からほとばしる無職の液体を、喉を鳴らして飲むのも見た。私は嘔吐を催してデッキへ出た。
ところが、ホヤ好きによれば、この皮袋に詰まっている、つんと鼻を刺すような独特なかおりを持つ体液こそ、ホヤの命で、この味をおぼえると、あるとき発作的にホヤを食わずにはいられなくなる、一種の中毒症状を呈するようになるという。
実際、戦争中、ホヤ中毒が兵隊にとられたが、とても我慢できずに兵営を脱走して魚市場へ直行し、ホヤをむさぼりくったという話を聞いたことがあり、私はホヤをいちども食ったことがないのにその脱走男を小説に書いたことを憶えている。
おかしなもので、私はいい齢になってから、ほんのちょっとしたことがきっかけでホヤが大好物になった。いまでは脱走男の気持ちがよくわかる。こうしてホヤの話を書いていると、口中にじわりとつばきが湧いてくるから、もはや私も中毒者のひとりなのかもしれない。
(平成七年九月)



どんなきっかけだったか?、脱走男の出てくる小説は何だったか?
思い出しながら作品をひもといて見ることにしよう。

八戸近隣では、この魚の行商の女の人達のことを「イサバのカッチャ」と呼んでいて、この辺りでは今はもう居なくなったが、私達が子供の頃に、三浦さんが列車で見かけたであろうカッチャが金田一駅からリヤカーに商品を積み替えて家々を売り歩いていた姿が、ホックホクのコロッケの味と共に懐かしく思い出される。

近頃のホヤは養殖ものばかりで、天然ものは中々手に入らなくなっている。
歯触りや味の濃さが違うらしいので、病みつきになった人は、天然の海鞘を求めてわざわざ種市まで車で出かけるのだという。

私の口の中にもつばきが湧いてきて堪らなくなるのは、やはりホヤ中毒か?

合歓の町

合歓の花が咲きだした。
この花を見ると思い出す三浦作品がある。

< 合歓木の多い町であった。
そんなに合歓木の多い町は、おなじ谷間ではそこだけである。それで近在の人たちは、その町のことをネムと呼んでいた。
町には、ちゃんとした名がないわけではないが、谷間の人たちは誰でも、
「あした、いいあんべええだったら、一緒にネムの市にいかんかね。」
そんなふうにいっている。
ネムには、駅前の街道に、片側だけだが一丁ほどの合歓木の並木があって、その並木の下に、一日、十一日、二十一日と、毎月一の日に市が立つのである。>


三浦さんの著書『野』に収められている「合歓の町」という作品の書き出しである。
この作品は、この辺り旧南部藩の地域で盛んに行われている市日(いちび)のことが詳しく描写されていて、ある町の市が舞台になっている。

< 市の日には、朝早くから近所の町の商人たちが、品物を自分で背負ったり、共同で小型トラックに積み込んだりして集まってくる。毎度おなじ顔ぶれだから、店を出す場所もきまっていて、彼等は自分の場所に荷物を下ろすと、さっそく店を作りにかかる。
竹竿の一方の端を合歓木の幹に縛りつけ、一方の端を棒の柱で支えて、それからシートをうしろの方へ、地面まで斜めに張って、それが屋根。その屋根の下に、床板を敷き詰め、その上に茣蓙を敷き、品物を並べて、これが店。つまり、一本の合歓木を間に、二軒つづきの店ができるわけである。等間隔の並木だから、店を連ねるには都合がいい。店先も、屋根の線も揃って、見た目にも綺麗である。人もよく集まってくる。 >
                                        …(「合歓の町」より抜粋)

いつもの癖で、作品を読みながら舞台の町をイメージしてみる。
“谷間の町”
“片側だけ合歓木の並木になっている駅前の街道”
“駅前の街道の市”
“合歓木の並木の市”
“市の端が橋の袂”
“川向うの古い造酒屋の奥さん”
“万引き常習犯の酒屋の奥さん”
“橋を渡る鉄道員”
“橋を渡る郵便配達夫”
“「銘酒 峰の誉れ」”??
etc.
どう見ても2国鉄の機関区が在った一戸町の市日の様子に思えて仕方がないのだが、果たして、三浦さんは何処の町を描写しているのだろうか?

梅雨明けを宣言するように、紅色の花を無数に咲かせ始めた合歓の木を見ると思い出して気になるのである。

■当ブログ過去の関連記事
 【合歓木の花】     2010.8.1(日)

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