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『ホロホロ』

山々が青葉若葉で色づき初めて来た。三浦さんの大好きな山菜のシーズン到来である。
郷里のお姉さんから東京に住む三浦さん家族に送られてきた山菜のことを幾つかの作品に書いている。
先日の例会でも話題になり、だんじゃ坂の途中にあるウコギの垣根から摘んで、ホロホロを食べたが、とても美味しかったと沼野会員が話していた。
その話題になった三浦さんの作品『ホロホロ』を紹介する。
文中にその作り方も書いてくれているので、今、産直所に出回っているオコギ(=ウコギ)を材料にして、是非、試して見ることをお薦めする。

私は、山菜が好物で、毎年、五月の連休が明けた頃に帰郷するのを楽しみにしているのだが、今年はどうしても仕事のやりくりがつかなくて、鬱々としていたところ、昨日、郷里の姉から有難い慰問の小包が届いた。
荷札の文字が草の汁でにじんでいるから、すぐに中身の検討がついたが、ひらいて見ると、案の定、山菜のオコギの若葉が小さなビニール袋に一と袋、それに、殻のままの胡桃が二十個ばかり入っていた。
いまごろ郷里へ帰ると、きまって朝の食卓にホロホロと呼ばれるふりかけが出るが、オコギも胡桃も、そのホロホロを作る材料である。
 オコギは、郷里でもなかなか手に入らない山菜だが、時々、懇意にしているヨネさんという農家のおかみさんが、裏の崖から摘んできてくれる。私は自分で摘んだことがないから、よくわからないが、聞くと、幹に鋭いとげのある落葉潅木の若芽だというから、おそらくウコギを訛ってオコギと呼んでいるのだろう。
 円く膨らんだ新芽が、ぱちっとひらいた直後が一番美味しいそうで、ヨネさんはそこを摘んできてくれるから、若芽といっても極くちいさなものだが、緑は濃く、鮮やかで、ちょうど微塵切りにしたパセリのようだ。
 町で琴を教えながら一人暮らしをしている姉は、いつも有難く頂戴して、早速、ホロホロを拵える。まず、オコギをさっと湯掻いて、きっちり絞ってから、包丁で叩くようにして細かく刻む。胡桃も、米粒の半分ほどの大きさに刻む。それから、アルミホイルに包んだ味噌をフライパンにのせて、こんがりとした焼き味噌を作り、それもやはり細かく砕く。焼き味噌を作るのが面倒なときは、味噌漬大根を刻んでもいい。
 それらを混ぜ合わせたのがホロホロだが、その名の由来はわからない。ほろほろとこぼれ易いからだろうか。それとも、ほんのちょっぴり、ほろ苦いからだろうか。
 それはともかく、このほろほろは、熱い御飯にふりかけて食べると、頗る旨い。それに、白米に散ったオコギの濃緑が目を楽しませてくれる。焼き味噌の素朴なかおりもいい。食欲が出て、つい減量しているのを忘れそうになる。
 わが家ではこれから朝食で、家内はいま、昨夜届いた材料でホロホロ作りの最中だが、焼き味噌のいい匂いがしてきたから、間もなく出来上りだろう。もう少しの辛抱である。

(千字集 1986.S61.5.6 日本家材新聞夕刊掲載、単行本『下駄の音』1987.S62.5.講談社刊、文庫本『下駄の音』1994.H6.6.15講談社文庫に収録)

私は、まだ食べたことが無い。
ウコギは近所の産直所でも売っていたようなので、是非、試して見たいと思う。
ところで、呼び名のことは確かに気になるが、金田一でも「ホロホロ」と呼んでいるのだろうか?

この作品に、また、知りたい人が出てきた。
懇意にしている農家のかみさんの「ヨネさん」とはどなただろうか?

こういうことを調べるためにも、やはり、一戸町の三浦文学に親しむ人達のネットワークが欲しくなるのだが、未だに構築できていないために、調べようがないのが残念でならない。

《私は、短篇小説を書くとき一尾の鮎を念頭に置いている。できれば鮎のような姿の作品が書きたい。無駄な装飾のない、簡潔で、すっきりとした作品。小粒でも早瀬に押し流されない力を秘めている作品 ― けれども、これは飽くまでも一つの願望で、そんな鮎のような作品が書けたと思ったことは残念ながらいちどもない。

いつの日か、情けない思いをさせられたときなどに胆の中で「短篇で来い。」といえるようなものを、一つだけ書きたい。(一つで死ねるか?)三つ書きたい。いや、七つ。いや……願わくは書くもの全てが生きのいい鮎のようであれ。》

  『一尾の鮎』(S63文學界2月号初出、1990.H2.11単行本.講談社発行)より。

この『一尾の鮎』の一節は、八戸市に設置された文学碑にも刻まれていて、作家三浦哲郎の根幹を表している文章なのである。

三浦さんは、新潟県の小千谷にいる母方の伯父さんの所を訪れた時に、川の簗で飛び跳ねている鮎の姿を見て感動したことを、何かの本に書いている。
その時に見た鮎のことがこの文章に繋がっているものと思われる。

今、三浦さんがお父さんと打ち釣りを楽しんだ金田一温泉郷の馬渕川沿いには、県北随一の鮎の中間育成養魚場が有り、季節には放流された鮎を狙って方々から釣人たちが訪れる、アユ釣りの名所となっている。
今年もその鮎の放流が始まったというニュースが流れていた。

■南部馬淵川漁業協同組合
 http://www.kiddy.co.jp/ayunip/iwate/mabetiN_new.html
 http://www012.upp.so-net.ne.jp/morikawa/area_guide/iwate/mabeti_river.htm
 http://www.e-shops.jp/local/lsh/an/3/524998.html

この養魚場も三浦文学散歩のコースに入れることを検討したが、病原菌を嫌う施設で季節も限定されるということで、組合からは快い返事を頂けなかったので断念した。

ゆかりの芥川賞作家が座右の銘にしている言葉なので、漁協で販売する鮎の地場産品ギフトに、三浦哲郎文学ゆかりの地としてこの『一尾の鮎』の一節を入れさせてもらっては如何だろうか?

ダンジャ坂の水仙

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■写真:ダンジャ坂の登り口に咲く水仙

今年も、ダンジャ坂の登り口に水仙が咲いた。
タンジャの家の方へ登る坂道の登り口にある土橋のたもとに、小野木先生の錆びた自転車が横倒しに乗り捨ててあった所である。
早朝のダンジャ坂の麓に立つと、朝日に眼鏡を光らせながら、膨らんだ手提鞄を手に、赤い口髭の小野木先生が少し体を傾けながら、歩いて下りてくるような気がして、小説『水仙』の場面を思い浮かべてしまうのである。
この小説は、三浦さん家族がゆかりの家で生活をしていた時の様子を描いているので、皆さんも是非呼んで見て下さい。
そして、この場所を通る時に、私のようにあのシーンを思い浮かべて頂けたら嬉しいです。

■短篇小説『水仙』の収録書籍

 『拳銃と十五の短篇』

 『三浦哲郎短篇小説全集 第3巻』

 『三浦哲郎自選全集 第7巻』

『泉』と『多吉さん』

短篇小説『泉』を読んでいて、気になるところが出てきた。

〈里の爺は山で死んだが、いつも百姓は土の上で生まれて土の上で死ぬのが一等だといっていた。土の上で死んだ爺が、土の上で生まれる曾孫を、守ってくれないはずがないではないか。〉

この文章にある「山で死んだ爺」とは?

確か、一人暮らしの農夫が冬に山へ猟に出かけて亡くなった話が、随筆『多吉さん』に書かれている。

ここでまた、話が繋がってくると、この『泉』も実在の出来事なのかもしれない。

今、「多吉さん」のことも、実在した話かどうかとても気になって調べている最中だったので、また、新たな課題が出たことになる。

随筆『多吉さん』については、『ある外套の話』などにも繋がる話題性のある作品なので、今後も取上げいくことになるだろう。

先ずは、収録書籍を紹介しよう。


■随筆『多吉さん』(S40.5「冬樹」発出)

●収録書籍
おふくろの妙薬    1971.S46.7.31 三月書房
恩愛           2005.H17.7.1 世界文化社

『せんべの耳』に訂正

先日来、話題にしている作品のタイトルを間違えていたので訂正させて頂きます。

南部せんべいのことを描いた作品のタイトルには「い」がありませんでした。

『せんべいの耳』 ⇒ 『せんべの耳』

当地では、今でも「せんべ」と普通に言っています。

「せんべっこ上がってがんせ」とは「せんべいを食べて下さい」のことです。
間違ってもせんべいの上に上がってはいけません。
ご注意を。

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