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『愚かな質問』

三浦作品を読んでいると、色々なことを考えさせられる。
ごく日常的な、些細なことでも三浦さんの手を経て文章になると、とても味わいのある事柄になってしまうのである。

人と話していて、何の気なしに問い掛けて、後で、何とも愚かな質問をしてしまったことかと、自己嫌悪に陥ってしまうことが、間々ある。

三浦さんが郷里の放送局の企画で、作曲家の間宮芳生氏や相撲の栃ノ海関と「新春座談会・ふるさとの正月をしのぶ」という番組に出た時の、そのような出来事を、『熱い雪』の中に随筆『愚かな質問』(新潮・昭和39年6月号初出)という題で書いている。

話しが相撲のことに及んだ時、当時大関だった栃ノ海関に「ときに、栃ノ海さん。あなたはやはり横綱になりたいですか?」と質問をしてしまって、なんと馬鹿なことを言ってしまったものだと、反省しても後の祭り。

この文章を書いたのはそれから2〜3年経ってからだから、三浦さんにとっては、とても忘れられない出来事だったことだろう。

言葉は色々な方面に解釈できるから、思考を巡らせながら話をしていても、全く違った意味で捉えられて、突然憤慨されて面食らうことがある。
兎に角、日本語は厄介である。

『愚かな質問』は、する方も、される方も、共に後味の悪い思いがするるので、気を付けなければいけない。

学校の卒業シーズン到来である。
多くの少年や青年たちが、夢に向って巣立って行く時が来た。
しかし、世の中は世界同時不況の真っ只中にあり、どこも経済不況の不安で喘いでいる。
路頭に迷う家族の中で、多くの子供たちが夢を失いかけているのでは無いだろうか。

『熱い雪』の中の、随筆『ひとつの死をめぐって』(新婦人・1964,昭和39年3月号 初出)を読んだ。

この随筆は、短篇小説のようだが、内容は当時現実に起きた出来事だそうで、子供の描く空想力と好奇心と現実との混同から生まれる悲劇が描かれている。

《愛や死は、もはや日常的なイメージになっていて、愛も死も、ただ手をのばしさえすれば、容易に手に入れられそうである。愛することの本当の意味、命をうしなうことの真の意味を知る前に、まず「愛したい」と思い。「死にたい」「殺したい」と思う》
と憂えているのである。
45年前のことであるが、いまの時代にも当て嵌まる内容で、いろいろ考えさせられる。

友だちが蟬をいじめているのを見た動物好きの少年が、その蟬を友だちから売ってもらって放してやる。苦心して捕まえた友だちがそれを見て激怒して口論になる。激昂した少年は、走って家に帰り、納屋へ入って農薬を飲んで死んでしまった。
唐突過ぎる結末のようだが、この少年には死ぬことの意味に訳があった。
何年か前に母親が病没し、寂しがる少年に父親が日頃、母親は天国にいていつもおまえを見守っていると、言い聞かせてていたそうだ。
彼は毎日、仏壇にむかって、天国にいる母親と言葉を交わすようになっていた。

三浦さんは最期に、
《子供に夢を失わせてはならないが、こんなあやふやな世の中だから、現実も理解の届くところまでは認識させ、生命の貴重さ、生きることの大切さぐらいは、しっかり教えこんでおくのが親の義務ではないだろうか。》
と結んでいる。

親の責任は重い。

少年や青年たちには、この時勢に負けることなく、大きな夢を抱いて進路を目指してほしい。

『私と私小説』

三浦哲郎氏は私小説作家として有名である。
このことは終始一貫している。
そのことについて葛藤している自分を書いた随筆が『熱い雪』の中に『私と私小説』と言う題で掲載されていた。
『忍ぶ川』で芥川賞を受賞した翌年の昭和37年12月に書かれたものだから、随分初期の頃のことである。
昭和29年に、始めての小説『誕生記』同人誌〈非情〉創刊号に発表してから8年経っていた。

それまで三浦さんが発表した作品の大部分は〈私〉を主人公にして書いてきた。
周りからはそれを私小説と言われ、賛否の批評を受けるのだが、自分はなにも私小説に拘って書いている訳では無い。自分の書きたいことを自分の気持ちに最も即した方法で書こうとしているので、自分の取るべき道は、それ以外に考えられないのである。

当時、新人作家が世に出るには、戦後青年の行状を荒いタッチで描出する小説のような、人の度肝をぬく作品を書かないと売れないのに、それでも〈私〉に拘った作品を書き続けているので、周りから色々と言われ、自己問答するのである。

《…私は、先ず書きたいことを力して書きたい、鬼面人を驚かすくらいの作品なら、その気になればいつだって書けるという肚で、相変わらず頑固に〈私〉とつきあっていた。そのために私は収入の道は全く閉ざされ、極度の貧窮に陥って都落ちを余儀なくされたりしたが、どうするわけにもいかなかった。それほどかたくなに、私は〈私〉にこだわっていたわけではなく、それほど深く私を捕らえた〈私〉から遁れることができなかったのである。私は六人きょうだいの末弟で、兄が二人、姉が三人あったが、私の子供のころ、兄の一人が失踪し、姉の二人は自殺した。そんな生立ちの環境が、子供心にも染みたのである。私は町の人たちに見つめられている自分を感じた。そして、彼らのまなざしのなかに〈私〉をみた。〈この私〉とわたしは思い、そんな〈私〉を嫌悪し、呪った。〈私〉との無邪気な闘いがはじまった。すでに私は〈私〉に捕らわれていたのである。
けれども、私にはまだ救いがあった。次兄がのこっていたからである。私は心から彼を頼っていた。父母も、姉の一人も、この兄を頼っていた。ところが、この兄が私の二十のとき、突然原因不明の失踪をした。
〈私〉は、もはや心にあまった。〈このきょうだいたち〉と深く想う反面、〈この私〉という意識も強まって、それが〈のこされた者〉の自覚につながった。のこされた者はどう生きねばならぬかに、私は思いをこらした。私には、彼等とおなじ血が流れている。しかし、私には彼等とちがって、もはや血にいざなわれて逸脱する自由もないのである。そして、私は自分の血を手懐けなければならない一方、彼等の無惨な生涯に到底無関心でおれないとすれば、いっそ彼等を抱き寄せて、彼らの滅びざまを仔細に点検しながら、その生ぐさい収穫を私が生きのびるための糧にしようと私は思った。
私は、厳密な意味で私の書くものが〈私小説〉といってよいかどうか、自信がない。私は切実な問題を語るに逸って、私小説の方法を借りているだけではないのかという気もする。この疑いは、自分の安易さを戒めるためにも、つねに心に置いている。実際、私小説の先輩たちの澄んだ名品に接するたびに、私は自分が永久に私小説志願のままで終わるのではないかという気がするのである》


この信念が、その後の多くの作品に引継がれているのであり、三浦さんの原点なのである。

『鳥寄せ』

以前に、短篇連作の本『木馬の騎手』(単行本:1979.S54.10、文庫本:1984.S59.1.新潮社発行)のことを紹介したことがある。
http://blogs.yahoo.co.jp/onikosato/14856249.html#28080836

その中の『鳥寄せ』についてブログにコメントを戴いた。

2009/2/18(水) 午前 2:04 [ sxd*s37* ]
《共通一次の2回生です。1980年1月受験生です。国語・現代文に「鳥寄せ」の第4節が出ました。悲しい内容で、そのあとの古文・漢文の試験問題がボロボロ出来なくなったことが思い出されます。》



三浦作品が色々な試験問題に出題されている話は良く聞くが、こんなに思い出深い印象に残る話を聞かせて頂いてうれしい。
素敵な情報をありがとうございました。

コメントを戴いて『鳥寄せ』を読み返してみた。
私たちの地域の方言を、ここまで忠実に小説に書き表す作者の南部弁への拘りには改めて感動する。
第4節は確かにとても悲しい場面で、何度読んでも虚しくなる。
しかし、主人公の「俺は挫けたりはしないぞ!」という思いが潜んでいるのが救いになっている。
読み終えてからも、心なしか主人公のその後が気掛かりでならない。

この『木馬の騎手』には、作品によっては、金田一のことを描いていると思われるものが幾つか有り、とても懐かしさを覚えるのである。

こんな作品を書いて残してくれている三浦哲郎さんを「岩手にゆかりの作家」として認識してもらえるように、明後日の「いわてNPO基金公開審査会」では精一杯PRして来たいと思っている。

『熱い雪』に掲載の随筆『小説とテレビドラマ』に大変興味深い話題が書いてあった。
小説『忍ぶ川』がラジオドラマやテレビドラマになって放送されたことがあるというのである。
それは昭和36年のことで、ラジオが2月25日、テレビが3月12日の夜だったというから、2月に芥川賞を受賞して間もなくのことである。
このことは「自筆年譜」に記されていないことで、初耳なので驚いている。
当時、三浦さん宅にはまだテレビが無くて、放送のひと月前にやっと世話をして貰って、ぼつぼつ見始めたところに、いきなりドラマ化の話がありビックリしたそうだ。
そして、放送の時には、スタジオに呼ばれて立ち合ったそうだが、その時の様子も描かれていて、初期のテレビ放送のことが懐かしく思い出される。

テレビ化の際の戸惑いは、相当なものだったようだ。
何しろ、私小説で内容は実話なので、登場人物のニュアンスが違うことは、実在の人物がいるのだから、大変困るのである。
この随筆は、私小説がラジオやテレビで放送されることの、戸惑いが描かれていて一読の価値がある作品である。

私も読んでみて、昨年のイベントの際の、映画『夜の哀しみ』の上映を許して戴けなかったことに通じるものが書かれていることが判った。


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