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詩はおもしろい。
自由に書いたらいいから、おもしろい。
といっても、やっぱり人に知られたくないこともある。
敦子がいつもと違ってたから、
なんか嫌な気分だった、なんて書けるわけがない。
きょうは、これといって何もせずに帰ってきた。
ちぇ!敦子のやつ、と言いかけてやめた。
敦子のせいなんかじゃないのに。
ちぇ!自分に対して舌打ちする。
「お帰りー!」
誰もいない玄関に向かって叫び、
投げ捨てられたランドセルを拾うと台所の床に寝転んだ。
テーブルの上にあった母ちゃんからのメモを
声に出して読んでみる。
「おやつは、棚の中
晩ごはんは冷蔵庫の中、チンして」
チラシの裏に走り書きされていた。
また、ぎりぎりまで寝てたんだろうな。
母ちゃんは、島の病院で看護師をやっている。
もうすぐ、三十五歳になるけど、まだまだ新米だ。
父ちゃんが死ぬまでは、母ちゃんは家にいた。
その頃は俺も、「ただいま」って言ってた。
父ちゃんは、病気になったと思ったら、
あっという間に死んでしまった。ガンだった。
母ちゃんは、その後、看護学校に通い始めた。
それから、この家では、
「ただいま」が「おかえり」になり、
「母ちゃん」は「母ちゃん兼父ちゃん」になり、
俺は少しだけ弱虫になった。
自分だけが知っている事
本当は、みんなも知っている事かも知れない。
だけど、自分からはわざわざ言いたくない知られたくない事。
さて、今日はなんの詩を書こう。
そのまえに、まず、棚のおやつでも食おうかな。
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俺達は、ミカンズ!
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ミカンズ 甘くて酸っぱい言葉かますぜ
ミカンズ 俺達虹の橋を渡ろう
ミカンズ 笑顔はムリに作れないけど
ミカンズ いつかはあの娘のハートつかもう
ミカンズ 俺達虹の橋を渡ろう
ミカンズ 笑顔はムリに作れないけど
ミカンズ いつかはあの娘のハートつかもう
実は恋も捨てず、虹の橋を渡ろう
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敦子と実花・・・
防波堤にならんで座って、あいつら、
なんもしゃべってなかった。
何だよ、どうなってんだ。
敦子が、いつもと違う敦子みたいだった。
敦子の事は小さい事からよく知ってる。
母ちゃんが友達同士だから、姉弟みたいなもんだ。
なんか、面白くねえ。
よくわからないけど、イライラした。
そのイライラに追い打ちをかけるように、
「キーンコーン、カーンコーン」
午後4時、学校のチャイムが聞こえてきた。
鳴り終わると同時に、
「下校時刻をお知らせします」という放送が始まる。
この時に流れる曲が、俺はあまり好きじゃなかった。
最初は、ゆっくりと楽しそうなのに、
最後の方が、なんか寂しい感じがした。
楽しかった遠足が終わって、家に帰る。
この曲を聞くと、いつもそんな気分になった。
「ユーモレスク」という曲だと、
担任の小川先生が、みんなに教えてくれた。
小川先生は、音楽が大好きだ。
音楽の時間以外にも、リコーダーを教えてくれる。
朝の会や、終わりの会で、よくみんなで演奏する。
「燃えろよ、燃えろ」の低音が、俺は好きだ。
小川先生は、詩の書き方も教えてくれた。
先生のあだ名は「芸術家」という。
先生は、クラスのみんなにやたらと
絵を描かせたり、詩を書かせたがった。
はっきり言って、詩なんかよくわからなかった。
面倒くさいと思った。
それでも、クラスのみんなは毎日、詩を1つ書かされた。
詩を書く専用のノートも持っていて、
毎朝、先生の机の上に提出する。
上手に書けたやつの詩を先生が何個か読み上げる。
もちろん、俺のは読まれたことなんか、一度もない。
ある晩、どうしても、なにも浮かばなくて、
とうとう俺は、ノートにこう書いた。
「詩は、おもしろくない」
詩は、おもしろいと先生は言った
自由に書いたらいいから
詩はおもしろい
でも、俺はおもしろくない
先生が毎日書かせるから
詩は、おもしろくない
次の日初めて、終わりの会で、俺の詩が読まれた。
クラスのみんなが笑った。
敦子は大爆笑、実花もくすくすと楽しそうに笑った。
俺は変な気持だった。嬉しいようなくすぐったいような、
でも、その時はじめて詩を書くのがおもしろいとわかった。
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敦子とみかん、いや、実花は、いつも一緒だった。
学校へ行き帰りも一緒なら、トイレも一緒、
学校が終わってからも、二人は、いつも一緒にいた。
俺は、学校から帰るとすぐに遊びに行く。
行き先なんかは、どこでも良いんだ。
友達の家、海、山、川・・・。
外で過ごしていれば、それで楽しかった。
俺が自転車で走ってると、いつも、
あいつらは、ならんで防波堤に座ってた。
ランドセルがふたつ、
そこらへんに置いてあったから、
二人とも、家には帰ってないようだ。
本当は、一度帰らないと先生に叱られるんだ。
その日も、遊びに行く途中でちょうど二人の後ろ姿が見えた。
学校でもずっと一緒なのに、まだ一緒にいるのかよ。
何をそんなに話すことがあるんだ。
そうだ、びっくりさせてやろう。
俺は、静かに自転車を道の脇に止めた。
足音をさせないように注意深く近づく。
敦子のやつ、左手をグーにして追っかけてくるかな?
俺は、自分の思いつきに有頂天になり、
怒った敦子を想像しただけで吹き出しそうだった。
あと、5メートル
4メートル、3メートル・・・
待てよ。
びっくりし過ぎて海に落ちたらどうしよう。
敦子は、まあ、良しとして、
実花が泳げるとは、到底思えなかった。
そう考えると、
俺は、急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
笑いをこらえるのに必死だった自分が、
ひどく間抜けな人間に思えた。
魚釣りに行くのも、なんだか面倒だ。
今日は、帰るか。
「ピーヒョロロロ」
トンビが頭の上で旋回する。
何気なく、もう一度二人の方に目をやった。
あいつら、なんもしゃべってなんかなかった。
ただ、二人で、目の前に広がる海を見てた。
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あいつが転校してきたのは、
4年生の2学期だった。
やせっぽちで、嘘みたいに真っ白だった。
東京らへんから来たそうだ。
ふたつに分けた長い三つ編みには
ご丁寧にリボンまで結んであって
それはワンピースと同じ水色だった。
クラスの女子達とは
全然違う生きもののように見えた。
先生が黒板に大きく、あいつの名前を書いた。
橘 実花(たちばな みか)だって!?
けっ!名前まで気取ってやがる。
橘 実花は小さな声であいさつすると
敦子の隣の席に座った。俺の前の席だ。
つぎの休憩時間
俺は橘 実花に話しかけようとして
橘と呼ぼうか、実花と呼ぼうか考えてるうちに
いつの間にか三つ編みをひっぱっていて
慌てて「おい!みかん!」と呼んでしまった。
あいつはゆっくり振り向いて
びっくりしたように俺を見つめると
そのまま声も出さずに俯いて泣き出した。
敦子が一瞬物凄い形相で俺を睨みつけ
憐れみの表情を浮かべたあとで静かに首を振り
黙ってみかんの背中を撫でた。
せっかく可愛いあだ名つけてやったのに
これだから都会モンはダメなんだよ。
敦子なんて、ブタ敦子って呼んでも、
泣いたコトなんて1度もねーぞ!
もっとも、敦子は太ってなんかないけど。
チャイムがなって先生が教室に入ってきた。
敦子が先生に事情を告げる。
どこをどう見たって俺が悪者だ。
「ヒロシ、女の子を泣かすんじゃないぞ!」
「はい!わかりましたー!」
俺は、できる限り寄り目にして
先生に敬礼して見せる。
先生が思わず吹き出した。
教室のみんなが笑った。
みかんも下を向いて笑ったように見えた。
ちょっとほっとした。
学校からの帰り道
「今度泣かせたら、承知せんよー!」
敦子はそう言って俺を睨みつけた。
そんな時の敦子の左手は、
いつも決まってグーだ。
おお、怖え、怖え。 俺は、なぜか昔っから
なぜかあいつにだけは頭が上がらない。
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