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☆18 二月のバラ 妙なところが痒いと言いながら明け方の冷たいアスファルトを裸足で歩き、おお、空よ、大地よ、そよ風よ、私は死ぬのさ・・・と両手を広げて命の賛美をやっている芽衣ちゃんは、泣きっ面を笑顔の仮面で覆った踊り子。 左目の端に傷テープを貼った私は、他人の痛みを慮りたくないだけでなく、アルコールで自分の痛みさえも感じない。芽衣ちゃんと一緒に泣く事も踊る事も出来ない木偶の坊なんだ。寝ぼけ眼の街で二人、似合っている。 「芽衣ちゃん、人生にはいろんな時期があるはず。泣く時期も笑う時期も。私たち、絶対に生き抜いて夢を実現しようね。」 芽衣ちゃんが心の隅で畏れを抱いている宇宙の創り主は、人間を押しつぶそうとするものではないと信じたいから。 「菜花さんはいいよね。私は死んで楽園で蘇るんだもの。この世で夢を実現するのどうのって、今更・・・。」 芽衣ちゃんのつぶらな黒目に、朝日の片鱗のようなものが輝く。 「負けるなっ。芽衣ちゃんは死ぬまで踊り続けたいと言ってたじゃない。あんな店のトイレの前で踊ってないで、ちゃんとしようよ。芽衣ちゃんだったら、何処かでダンス・ライブが開けるよ。私には、もっと前向きになるべきだと言うくせにさ。芽衣ちゃんこそ前向きになるべきだよ。」 いつになく高揚した気分で声高になった。 「他人のこと言えるか。菜花さんの絵はどれもこれも中途半端で完成しないじゃないか。それで飲んだくれて死にかけているじゃない。弱虫。自分のやるべきことに真正面から向き合え。」 芽衣ちゃんの目が吊り上がって、言葉がほとばしる。 「ドロドロにゲロ吐き捲っていないで完成作を見せろ。沖展とかビエンナーレとかにちゃんと応募しろ。菜花さん、の意気地なし。怖がらないで私のことも描いてみせろ。魂の叫びをカンバスに塗り込めてみやがれっ。」 景色が明るんで、世界中の全てが私に向かってクチを開く。何かを信じても、そのために行動しない奴の痛みなど鼻糞だと。成長してゆく息子を思えば空回りして過去の痛みに支配され手いる場合かと、時間を無駄遣いしている場合かと。目覚めの時だ。 「描くよ、描かせて、芽衣ちゃん。必ず完成させてどこかに応募するから。私も、もうお酒やめるから。」 アルコール依存の入院治療を決意するってさ、科料のある者が自首に赴くような気分。酔いが身体を満たしているけれど、アルコール・ハイマー酒呆症のままでは終わりたくない。目覚めの時なんだ。 「ほんとね。本気でお酒やめるのね。だったら必ず、完成させてよ。私が生きているうちに。約束、きちんと守ってよ。」 真顔で言った芽衣ちゃんの顔が、ふと緩んで、白い指が私の背後を指した。 「菜花さん、見て。」 振り返ると、歩道の植え込みに、二月の冷たい風に吹かれて野バラが揺れている。小ぶりの花はまだ花芯が紅の蕾のように固く包まれ、その周りを淡い花弁が幾重にも重なりふんわりと開き始めているが、まだ咲ききってはいない。小さな棘で自分を守っている野バラ。 「野バラ、野バラ、もうすぐ暖かくなるからね。もうすぐだから。」 芽衣ちゃんが歌うような甘い声で語りかける。 もうすぐ暖かくなる。芽衣ちゃんと私、二人とも道を踏み誤って迷子になっていたんだね。どこか痛むけど、もしも棘があるなら他人を攻撃する棘でなく、自分を守る棘がいいな。攻撃が最大の防御とばかりにトゲトゲし てきた処は否めないけどさ。少なくとも他人の弱いところをあざ笑うことはないように。それも無意識にはしてきたはずだけどね。 そしてもし機会があれば二人とも、羊飼いの懐に抱かれる子羊を慕って、自分の居るべき場所、着くべき処に辿り着く羊のようになれればいいね。夢を実現できればいいね。親孝行もしたいんだもの。ちゃんと夢を実現したらヒロ坊にも会えるような気がするんだもの。フスダスカランプリムヌ(宮古島語・救いようのない馬鹿者)のままではいたくないんだもの。心の底から、神にタンディガ(有難う)ータンディ(御座います)と言ってみたい気もするし。 ああ、神よ、空の高みから慈しむ眼差しよ、お前たちは夜明けに開きかけた野バラのようなものだと、やがて暖かくなるよ、もうすぐだよと、応援してほしいよ。自分の狭量から抜け出せずにいる蒙昧の徒の、行く先を決めあぐねている道筋を。弱さゆえに時には躓き倒れ、この世という泥沼に足を取られて蠢く私たちに、どうか、手を差し伸べてよ。 第一話 了
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自作小説★ 夜明けの野バラ 前編
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これは、三十代の後半から四十代にかけて書いた自作小説「もうちゃん」を書き直したものです。推敲が足りず、、アップした後で書き直すこと再々。そのような頼りない出来なのですが、取り敢えずこのような稚拙なものを書いて生きているという証としてブログを活用させてくださいね。読んでくださった皆様、気になった点のご指摘や、「こうすればよくなる。」という提案などをいただければ嬉しいです。 大湾汎
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☆17 気まぐれなミラー・ボール 誰かが110番に通報したらしい。表通りにパトカーのサイレンが聞こえ、暫くすると、どやどやと入ってくる客たちが口々に、蛇男が側溝に落ちたこと、猫の通り道を出しなに噴水のようにゲロを吐いたこと、大暴れするのでパトカーに乗せるのに手間取ったことを高揚して語り出した。
警官が事情を聞きに来て、狙われたのは芽衣ちゃんだったけれど、被害に逢ったのは私だからということで、二人で被害届を出すことになったの。 なんだ、こんなに簡単なことだったのか。明日になれば私の顔は痛むだろうけど、心に鬱積していた雲の切れ間から光が差し込むかも。 いきなりトイレ付近からミラー・ボールの丸い水玉模様が、裸電球に照らされた壁に儚げな淡い色を映して巡り始めた。団結して何かを成し得た歓びってさ、まるで学園祭で盛り上がった学生時代の再現みたいだね。期せずにマンネリズムを打破した興奮っていうものかしら、病院の待合室みたいな雰囲気の店内に若やいだ乾杯の声が上がる。誰も芽衣ちゃんの病気について訪ねようとしない。 聖母の顔を脱ぎ捨てて乾杯の声に吸い寄せられてゆく生き血ドレスに、マスターが声をかけた。 「オ・フ・ク・ロ、ノミスギダゾ。俺は外を流してくるから、店をみててくれ。」 その台詞で、私たちの瞼をワンタッチ傘のように見開かせたマスターは、にやりと笑って長いホースを手に表へ行った。 何だか、少し楽になれた気がする。蛇男を紙くずのように丸めて捨てさせたのは蛇男自身だ。あの男が撒き散らした腐った種は、あちらこちらで腐った実になって刈り取られるのを待っているに違いない。 そう思うと飲み下せなかった蟠り(わだかまり)がすっと臓腑に落ちた。肩から力が抜けて、グラスを持つ気にはなれない。全ての問題が片付いた訳ではない。けれども、確かに前向きな一歩を感じる。なんだか、何かを打破する善なる力が、悪の蛇男と供に向こうの方からやってきたみたい。明日は被害届を 出すんだ。ちゃんと出せるんだ。何だか世界がほんのりと色づいてきたような気がするよ。錯覚でも嬉しいね。 マスター、御免ね。もう、お酒でのリハビリはやめようかな。いきなり、気まぐれなミラー・ボールのように淡い独り言を呟いてみる。 |

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☆16 酔いどれの聖母 「マスター、さっきは助け舟有り難う。お礼40の仕様がないくらいです。」 にっこり笑って言ってみたが、きっと不気味な顔よね。血だらけだもの。そんなことより、ヒダリィを探さなくちゃあ。 「いやいや、俺は自分の店と、ここを気に入って来てくれる客を守っただけ。それに、菜花ちゃんの勇ましさに一杯奢りたいくらいさ。」 どこが色男じゃと生き血ドレスに言われたマスターの髭面が、最高にかっこよく見える笑顔。幾多の修羅場を経て熟成されたのだろうか、強者が弱者をあざ笑う世の中で疲れた者たちの誘蛾灯になる理由は、いろいろとマコトシヤカナ噂になっているけど。 蛇男に危害を加えられて腹立たしいのに、芽衣ちゃんの盾になれたことがとっても嬉しい。まるで二本立ての映画を同時に観ているように複雑だよ、自分って奴も。 カウンターの席に戻ると、酔いどれ生き血ドレスの萎えた白い腕が絡み付いてきた。 「これはあんたの友達?」 生き血ドレスの細い掌に、私の義眼が乗っかっている。芽衣ちゃんが私の顔を見つめる。 「えっ・・・。菜花さん・・・。」 鬼太郎の親父じゃないんだからさ、飛び出してくれるなよ、ヒダリィ。芽衣ちゃんも驚いているじゃない。 カウンター越しに水道水で洗わせてもらった義眼を左目の洞穴に収めようとするのだけれど、なかなかうまくいかない。左の顔半分に水の冷たさが染みてきた。手を当てて温めてあげよう。ヒダリィ、ここがお前の棲家だよ、私の孤独ちゃん。 「マイフカ(宮古島語・偉いの意)、マイフカ(偉い)。私の娘たち。あんたは友達のために自分の血を流したのよお。そんなことのできる女は滅多にいないサイガ(からね)。それにしても女の顔に傷をつけるなんてあのフスダスカランプリムン(救いようのない大馬鹿者)。告訴してやるべきよ。マイフカ、顔の傷はすぐに治るからね。」 生き血ドレスが私の頭を掻き抱いて黒い三日月唇から思いもよらぬ言の葉を紡ぐ。ああ、温かい。お母さんって、こんな感じかな。何だか、聖母みたい。痩せっぽちの年取った聖母マリア。この人って、どうしようもない酔いどれの聖母だったわけね。マイフカだってさ。私は何を言う暇もなく、ただ殴られって放られたっていうのに。 生き血ドレスの聖母は片方の手で芽衣ちゃんを引き寄せると、芽衣ちゃんと私をぎゅっと抱きしめて、黒い三日月の唇を芽衣ちゃんのほっぺたに押し当てた。それから私の頬にも窄(すぼ)めた三日月を押し当てて、それから歌を歌うようなハスキーな声で囁いた。 「ンザガラーンカイ(どこかへ)、カンヌコエヲツキニイカディ(神の声を聞きに行こうか)。」 そうだね、それもいいかな・・・。探しに行こう。神の声を聞く処を。私の左の眼窩は、己の闇に孤独な塊を抱えて、それをずっと待っていたのかもしれないね。 ンザガラーンカイ、神(かん)ぬ声を聞(つ)きゅに行かでぃ。 続く
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☆15 蛇男登場 「菜花さぁん、本当は私のこと、絵のモデルにしたいんでしょう。」
芽衣ちゃんの間延びした甘え声に驚いた。 「描ける訳ないじゃない。」 無下に却下する。本当に描けないのだ。芽衣ちゃんの苦しみの一端を担うのは荷が勝ちすぎる。芽衣ちゃんは私の目を覗き込んで毒づき始めた。 「ふん、嘘つきっ。描いてみたいくせに。いい題材だと思っているくせに。それとも何、怖いの。死期が迫る事に怯えて苦しむ私を、直視したくないの。どうして何にも聞かないの。本当は、私がどんな気持ちなのか知りたいくせに。臆病者の捻くれ者。だからあんたは三流なのさ。」
絡まないでよお。左手で顔を半分覆った時、背後の空気が激しく動いた。
「芽衣っ。」怒鳴り声が轟く。その声を聞くと同時に、動物じみた感覚が私にもあったんだね。その感覚が反射的に私を振り向かせ、狭い通路を泳ぐようにやってくる赤黒く酔った蛇男を見るなり自分の中の何者か、「内なる人」とでも言う奴に動かされちゃったの。そして、芽衣ちゃんを背にして蛇男の前に立ちはだかった刹那、目の前に拳固を振り上げる赤目の蛇男がぐにゃりと歪んで、天井に火花が散るのを見た。 芽衣ちゃんの悲鳴が響き、周りが色めき立つ。私は殴られた勢いで左の目玉が飛び出して何処かへ転がったらしい。倒れざま、椅子ごと芽衣ちゃんとドミノ倒しになり、一瞬、目の前がすうっと赤暗くなりかけた。どよめ きがあがったのは、私が殴られたからか、それとも、飛び出した義眼のせいか。 蛇男は、何かが飛んでいったのに気がついて一瞬怯んだものの、それが何かは分からなかったようだ。 「芽衣。おまえよくもっ。痛い目をみせてやる。」 蛇男の恫喝が響く。蛇男の目的は芽衣ちゃんへの復讐だ。抵抗する間もなくカウンターに放られた私を、マスターが素早く受け止めてくれなければ灰色のコンクリート床の上に頭から落ちていた。 蛇男は尻餅を着いたままの芽衣ちゃんに向かって手を伸ばしたのだろうけれど、居合わせた数名の男性客に取り抑えられたらしく、酒気を振り撒き禍々しい声を吐き散らす。 「こいつは最低な女だぞ。こんな女をお前らは庇うのか。酷い目に遭わされても知らんぞ。エイズだぞ、殺人犯だぞ、こいつは、この女は。呪ってやる。絶対に懲らしめてやるからな。」 芽衣ちゃんの悲鳴が蛇男の声を掻き消そうとするかのように店内に響く。 「レイプ魔は自業自得だっ。フスダスカラン奴は家に帰れ。」 しゃがれ声が飛んだ。芽衣ちゃんの声ではない女の声。 私がカウンターの中でようやく体制を整えた頃には、蛇男は暴れ馬よろしく「どうどう。」と、数人の客に窘められて店外へ連れ出されていた。 「菜花ちゃん、血が・・・。ごめん、私なんかのために・・・。」 芽衣ちゃんが鷲掴みのティッシュの束を私の顔に当てた。殴られた時に切ったのか、左目の上から頬にかけて熱いものを感じるが、痛みはない。酒が麻酔の役目を果たしているのだろう。水気に縮むティッシュを見ると、酒で血管が開いている分、傷の割りに派手に出た鮮血のバラがみごとに咲いている。これは明日背負う痛み。 「『なんか』って言うな。『私なんか』って、そんな風に言わないでよ、芽衣ちゃん。自分のことを卑下しないでよ。私の大事な親友だ もん。」 何、この感覚。ズミギ(かっこいい)。プカラス(いい気持ち)。心が躍る。言葉って、不思議。私のやった事って、身体が反射的に動いただけなんだけどさ。一応かっこいい事を言っておこう。でも、本来なら反射的に逃げるはずだけどなあ。 芽衣ちゃんがハイ・パワーに設定されたパソコンみたいに明るく笑った。ああ、ズミギ(宮古島語・素敵の意)、プカラス(嬉しい)。 |
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☆14 プーキドゥウー スナック嬢になったのは、酒好きが絵描きになるため。そして親権を取り戻したいがため。別れてからの三年間、胸の奥に仕舞ったヒロ坊の面影を成長させることができない。隠れて会いにいくことさえできていない。昼間の街で家族連れを見るのが辛い。ヒロ坊がまだ小さいうちに何とか夢を実現して、堂々とと会いに行きたい。早いうちに達成したい。
酒場勤めで学んだ事の一つに、女と言う生き物は愛がなくてもしたたか相手を喜ばせる台詞を言える生き物だったのだという驚きがある。好きで一緒になったはずの元亭主に対しても毒舌吐かずに甘言を弄する技術があったら、今頃は胡瓜が二本並んで仲良き事は美しき哉で、キッチン・ドリンカーにもならず に離婚なんて経験しなかったのかもしれないにさ。もしかすると離婚なんて選択せずに、憧れの良妻賢母になれたかもしれないのにね。 だってこっそり息子を見に行こうなんて考える立場に誰が好んでなるものか。誰が好んで子供を手放すものか。 でも、よくよく考えると、おかしな形で蛇男と関係したから、悪魔の爪が心に刺さってしまったのよね。だから復讐心が芽生え、蛇男を手玉に取ろうとして心にもない事まで言えるようになったんじゃなかったっけ。 そんなに悪女ぶって自分と共に女全般を貶めていながら、強がっている健気な同類項の女たちに憐憫の情を示せないなんて、なんて愚劣極まりない惨めさ。小賢しい割にはプーキているさいが。 宮古では、馬鹿げていることをプーキドゥウーって言ったりするのよね。直訳したら穴が開いているっていう意味のその言葉は、今の私を言い当てている。だって、確かに穴が開いているみたいだもの。心が欠けてしまったんだ。気づいてよかったね、菜花。気づかなきゃ修復する事もできないじゃない。 「私、何度もareだからと言って抵抗したんだよ、菜花さん。本気にしてもらえなかったけれど。だから、蛇男は自業自得よ。自分の撒いた種を刈り取ったってことよ。犯罪者は自らに刑罰を被(こうむ)るために罪を犯すのね。懲らしめよ。当然の報いよ。」 つぶらな瞳に暗い光が宿る。何度も言葉を変えて同じような意味の事を言い続けるのは、芽衣ちゃんの良心に呵責があるからなのだろうか。それとも、そこはぬめって手招きをする底なし沼なのか。 「えっ。懲らしめって、じゃあ・・・。」 「そう、あいつ、感染(うつっ)たに違いないから。菜花さんが受け入れていたら、菜花さんも感染っていたかも。男はいつも避妊具を使うとは限らないものね。特に、安全日を知られていたら。」 黒くぎらぎらと光る目の中に、探りをいれるような寂しさが過ぎる。 「じゃあ、アイツの奥さんは無事かな。蛇男から・・・。」 「うん。携帯かけてみたんだけど、奥さんに。無事みたい。離婚するんだってさ。別にあなたのせいではありませんから、って。ご愁傷様と言われた。もう死んじゃっているのね、私。」 やっぱり底なし沼だ、芽衣ちゃんのぬめる目の向こうは。深い、深い、森の中の沼。 「芽衣ちゃん・・・。」 思わず握った芽衣ちゃんの手は驚くほど小さく、私の手の中で熱く火照っている。何を言えばいいのか、喉が渇く。 そりゃあ、いくら冷え切っていても、感染しなくても、女房の立場なら夫の浮気相手には当然腹が立つだろう。私だって、芽衣ちゃんと私の順番が逆だったら、言葉を刃に仕立てて投げつけるかも。そして、殺意に塗れて泣き叫ぶ。 芽衣ちゃんが悪いのではない。身勝手な犯人から苦痛の種を背負わされた女として、恋人も作らずに暮らしていた芽衣ちゃんを、欲望の餌食にした蛇男の罪だ。 でも、蛇男の女房に自分の秘密を知らせた芽衣ちゃんも奇特よね。いろんな感情に苛(さいな)まされてへとへとになるだろうな。悲しすぎるよ、ツンダラーサ。全ての人間が上っ面だけ完璧に見える欠点だらけの穴の開いた器だということに、憐れみよりも落胆が勝る日は特に。 だから、自分たちが上っ面さえも完璧ではないプーキている器だってことを、酒で忘れようとするのか、私たち。何かで修復できないかな、その穴を。だってさ、悪に対する怒りに塗れても、他者への憐憫を感じる余裕はほしいじゃない。 |



