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朝から降り出した雨は激しさを増して地面を打っていた。
河川敷に集まった暴走族の数はおよそ一万人。空前絶後の大集会であった。頭からずぶ濡れになりながら荒ぶる若者たちは誰一人傘をさすでもなくレインコートを羽織ることもない。ぎらぎらとした野獣のような目でバイクにまたがっていた。 「野郎どもいくぜ!」 最大グループのヘッドが大音声をあげるとバイクのエンジン音が一斉に高まった。 群狼の群れが走り出そうとしたその瞬間。 『暴走族の諸君待ちなさい』 スピーカー越しに制止する声がかかった。雨霧の向こうから自動車のヘッドライトが迫ってくる。河川敷に降りてきたその車を見て暴走族は驚いた。自民党の選挙カーだったからだ。 ドアが開いて若い男が飛び降りてくる。 「俺は自由民主党の代議士迫水先生の秘書をしている渡辺正次郎という者だ。都内で暴走行為をするのは待ってくれ。俺が必ず上の者と話をつける」 「うるせぇ!」 族のリーダーは正次郎を突き飛ばした。泥水の中に倒れ込む。 「待ってくれ! 俺が君たちの話を聞く! 本当だ信じてくれ!」 「信じろだと!? おまえみたいな小物じゃ話にならねぇ! 自民党本部へ行くぜぇ!」 バイクのエキゾーストノイズが一斉に高まった。 もはや族を止める手段などあるはずもなく、一万あまりの眩いヘッドライトが 夜の町へ解き放たれた。 爆音を立てて疾走する暴走族の軍団に警察も手を出せない。いやパトカーで制止しようとするのだが全く効果がない。それほどに一万人の暴走族は圧倒的な大戦力なのだ。 間もなく自民党本部のビルの前に到達した。 「おらぁ! 出てこい池田ァ!」 暴走族たちは口々に時の総理に怒声をあげた。 「何が貧乏人は麦を食えだ! 庶民を舐めてんのか!」 族たちの体から不気味なオーラが立ち上り始めた。ヘッドがスロットルを全開にすると改造バイクが宙に飛び上がった。それに続くように族たちのバイクが浮き上がる。まるで羽根が生えたかのように空を飛んで自民党本部ビルの窓を突き破り乱入した。けたたましい騒音をまき散らして通路を疾走する。 すぐに総裁室に到達した。車輪が圧倒的な破壊力でドアを粉砕する。 「あわわ!?」 午後9時を過ぎていたが池田総理はまだ中にいた。 「何だね君たちは? ここをどこだと思っているんだ?」 族のリーダーが颯爽とバイクから飛び降りた。他の族たちも後に続いて部屋の中で整列する。 「内閣総理大臣に敬礼!」 ヘッドのかけ声でニキビ面の若者たちは直立不動の姿勢で敬礼した。帝国軍人の敬礼だった。 呆然とする池田総理の前で族たちは滂沱と涙を流していた。 長い沈黙の後、敬礼を解いた少年たちの顔にあったのは引き締まった笑顔だった。 ヘッドが口を開いた。 「俺たちはもう征くぞ。何があっても負けるんじゃないぞ」 池田総理がかける言葉もなく立ち尽くしていると、族たちはバイクを引き起こし颯爽とまたがると再び窓を突き破って飛び去っていった。 |
創作【小説】
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