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遊戯工房

書庫不自由日記〜病床で考えたいろいろ

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ごはん屋さんというのは忙しい。
仕入れて、仕込んで、キッチン・ホールの人員を調整して。
お客を入れてからは、基本的にテンヤワンヤである。
だから販売促進方法を検討するため、
広告代理店のプランナーを各社呼び集めて、
企画を競わせて内容を詰めて、なんてことをやっている時間は、
逆さにふっても叩いても出てこないのだ。

そこで重宝するのが、
1枠いくらで広告を売りに来る、
フリーペーパーの営業マンだ。
昼営業が終わりホッと一息ついているところへ、
彼らはやってくる。
「毎度、どないですかぁ」なんて、
ぶらりとやってくるそいつをつかまえて、
「おお、ええとこに来たなあ。今月も頼むで。
写真は先月のやつそのまま使といてええから。
クーポン?ああそやなあ。
ワンドリンク無料と、10%OFFでええわ。
細かいことはまかすから。あとは、あんじょうヨロシク」と。
これが一般的なごはん屋さんの販促活動である。
このオリエンテーションにこたえて、
1枠の広告を、一応オフィシャルに耐えうる体裁に整えるのが、
アルバイトのライターの仕事だ。

そんなに難しい仕事ではないが、
とにかく忙しい。
薄利多売、絨毯爆撃的に、
担当エリア内の飲食店を、
ひとつも漏らすことなくつぶしていくような営業展開をするため、
受注の本数が異常に多いのだ。
売上ではなく、
飛び込み営業の本数を目標に掲げる期間があったりもするほどだ。

だから制作スタッフも、
基本的には毎日がエンドレスナイトだ。
定時とは、電車がなくなるころである。

とはいえ一本当たりの仕事は、
なかなかにいい加減だ。
作り込もうにも大したヒアリングは出来ていないし、
資料だってない。
だからたとえば、
朝、店長さんがお刺身用の魚を市場へ仕入れに行っているとすれば、
それを最大限に強調してキャッチフレーズに採用し、
「店長自らが厳選!旬の魚介の数々を堪能!!」などとなる。
どうしても特長がない場合は、
「あったか手作り料理を満喫!!」などと。
飲食店の広告なのに、手作りがウリになったりする。
すでにウェブに情報がある場合には、
それをそのままコピーペーストして、
省いたり足したり入れ替えたりして載せてしまう。
とにかく一刻も早く、
枠内を写真と文字で埋めなければならないのだ。
内容よりも、
単位時間当たりの文字入力数が重視される。
質より量、量こそが質である、という思想である。

講師はスゴウデとされている人たちが担当しているらしく、
少し業界に詳しい受講生などは、
まるで、神の降臨にでも居合わせたかのように、
熱い尊敬のまなざしを送っていた。
僕も負けじと熱心に聴き入ってみるも、
束の間ののちには瞼が重たくなる。
実際に成功したキャンペーンの、
コンセプトワークだとか裏話だとかを話してくれるわけだから、
業界志望者ならばノドから手が出るほど欲しがらなければならない情報のはずなのだが、
正直に言っておもしろくない。

コピーがうまく書けるようになる方法について、
多くの講師が同じことを言った。
いわく、キャッチフレーズなら最低100本は書け!ということだ。
文化系の軟弱者が集まる職域かと思ったら、まさかのスポ根主義。
やはり手に職をつけようと思ったら、
最低限、ガムシャラさは必要なのだろう。

おもしろいのは課題であった。
電力会社のイメージアップのための雑誌広告、
などのお題をちょうだいし、添削指導をしてもらう。
優秀作品には、金の鉛筆がもらえるという、ミニコンペティションだ。
要するにこれが講座のメインイベントであり、
この結果に一喜一憂したり奮起したりして、
腕を磨いていこうということなのだ。
座学はしょせん添え物なのである、と思いたいが、
それはさすがに、うつらうつらしていた自分を許すための言い訳でしかない。

世の中は広告で溢れている。
朝起きてテレビをつければCM。
新聞を開けば新聞広告。
バスの壁面に、吊革を持てばヒモの部分に、その他諸々・・・。
青い空に飛行機雲で商品名を書いてみせたプロモーションまであったぐらいだ。
つまり消費者は常日頃四六時中、
財布のヒモをつけ狙う甘い勧誘の言葉にさらされているのだ。
いわば広告は基本的に消費者にとってはもうウンザリ、
招かれざる客なのである。
以上の前提から、
僕は基本的に、とりあえず商売の話は抜きにして、
消費者に楽しんでもらうことを第一に考えた広告を、
提案することにした。
例えば「コーラの購買促進のためのラジオCM」という課題では、
次のような企画になった。

親父:おい、その黒い水はなんや?
息子:なんや?て。コーラや。
親父:コーラ?
息子:そう、コーラ。
親父:コーラてなんや?
息子:コーラはコーラや。
親父:だから、そのコーラてなんやって聞いてんねん。
息子:コーラ知らんのかいな。宇宙人としゃべってるみたいやな。
親父:な、なんで分かった?
息子:親父!?
NA:世界中で飲まれてます。(商品名)

こうしたギャグを主体にした広告を提案し、
幸いそれらはウケてくれて、
金の鉛筆もそれなりに獲得できた。
それは楽しい体験ではあったのだが、
僕は同時並行で勤めていたフリーペーパーのライターのアルバイトを通じて、
コピーライティングが楽しいだけの職種ではないことを、
うすうす感じ始めていたのだ。

コピーライターになりたいと思ったことはないが、
以前からなんとなく気にしていた職業ではあった。
開高健がコピーライター出身だからだ。
開高健は、大江健三郎や石原慎太郎とおなじく、
戦後間もなく頭角を現した、
昭和の大文豪である。
その筆致は、
太くて稠密で鋭利でユーモラスだ。

宣伝の文案を作るコピーライターという商売は、
いったいどのようなものか。
よくは分からないけれども、
稀代の文章家が一時期生活の糧とし、
それが血となり肉となったらしいことを考えると、
ともかくコピーライターという商売の周辺で、
鼻をひくつかせていれば、
なにか美味しい思いが出来るのではないか、という気がしていた。

コピーライター養成のための講座があると聞きつけた僕は、
さっそく申し込んだ。
わざわざお金を払って宣伝文の書き方を習う意味は分からなかったが、
なんらかの職業訓練をしていれば、
ニートやフリーターといった誹りを免れることが出来るのではないかという、
思いもあった。

講座には僕と同年齢ぐらいの、会社員やら学生やら無職やらが、
100人以上も集まっていた。
自己紹介を聞いてみると、
クリエイターになりたくて集まってきた人が大半であった。
コピーライターは一般的に、
クリエイティブな仕事という位置づけになっているのだ。
まずここに違和感を覚えた。
ゼロから何かを生みだすことがクリエイトすることだと思われるが、
商品やサービスの宣伝をすることが、
どうしてクリエイターの仕事なのか。
確かにクリエイティビティは必要だろうが、
それならば、総務にも経理にも営業にも、
ハンバーガー屋の店員にも大工にも庭師にも、
要するにあらゆる職種の人に、クリエイティビティは必要だろう。
商品開発者や発明家がクリエイターと呼ばれるならまだしも、
なぜ広告の制作者だけが、
ことさらにクリエイティビティを強調されるのか。

などとあれこれ考えてみるが、
金にもスキルにもならないことをウダウダと考えていても始まらない。
ともかく講義を聴き、課題をこなし、
コピーライティング術を習得してみれば良いのだ。
そうすれば自ずと結論も分かるだろう。

根無し草

やっと就職活動をすることの理由が分かったところで、
卒業だけは順調に決まってしまい、
僕は社会人の門出を「根なし草」でスタートすることとなった。
折りしも世間では、
働かなかったり、
病的な理由で働けなかったりする、
「ニート」が問題視され始めた時期だった。
TV、新聞でニートが話題になるたびに、
背筋に冷たいものが走る気がした。
世間のニートに対する評価というのは、
社会の構造的な欠陥がもたらした不幸という見方ではなく、
ニートなどという穀つぶしは、
早く社会の荒波に突き落としてしまえ、というものだった。
まとめて自衛隊に放り込んでしまえ、なんて人まで出た。

まさか自衛隊が、自分の食い扶持も稼げないような人間を、
欲しがっているとも思えないし、
ある日あいさつも出来ない青年たちが大量に放り込まれたとしても、
伍長さんが困惑するだけだろう。
国防というのはあらゆる職業の中でも一番、
タフさ、マッチョさ、クレバーさが求められる職域であって、
そこへ世間の穀つぶしをまとめて放り込もうなんていうのは、
それこそ国家存亡の危機を招きかねない。
たとえ武器がスキやクワでも、
いないよりはいた方がいいということで、
お百姓さんを集めてドンパチやっていた時代ならまだしも、
現代の国防のミッションというのは、
飛んでいるミサイルを撃ち落とせ、とかいうレベルの話であって、
頭数を集めればいいというものではない。
ましてやこの混迷を極める世界情勢の中で、
国防費を、穀つぶしの再教育のために使える余裕などあるはずがない。
僕が防衛大臣なら、
「そんなことは文科省さんか厚労省さんでやってくださいよ」と。
閣議の冒頭で言い放つだろう。
要するに世間は、
国防費を使おうという乱暴な意見が出るほどに、
ニートのケツを蹴飛ばさなければならないという、
必要性を感じていたわけだ。

そんな中就職先未定で大学を卒業する僕。
生きた心地がしなかった。
卒業後、4月からの処し方が決まったのは3月の終わりだった。
飲食店情報のフリーペーパーの、
ライターのアルバイトをしながら、
コピーライターの養成講座を受講することになった。

ひやかし面接PART2

2社目はレンタルビデオチェーンの本部だった。
「最近の店舗展開の例といたしましては」などと。
斬新で魅惑的な事業紹介が成された。
説明する女の人の目もきらきらと輝いており、
会場は熱気に溢れていた。
就職活動の練習ぐらいの気持ちで訪問したのだが、
この会社で働いてみたいと思わせるほどの内容だった。

ともかく筆記試験や面接を経て話は前へ進み、
第3次面接。
3回も4回も面接をやるということ自体、新鮮な驚きであったし、
そのうえ、当日は私服で来いということだった。
なにが知りたいのか、
そういうこともあまり分からないまま、
とにかく地味めのジャケットを羽織り、面接へと赴いた。

面接の担当は、事業統括本部本部長という、
いかにも一番実権を持っていそうな肩書きだった。
年齢は35歳ぐらい、男性。
「自分、バリバリ仕事してます!!」というオーラが、
ぴかぴかとあふれ出ていた。
履歴書をちらと一瞥、大学名を見て、
「あ、後輩やね。よろしく」と。
開始2秒で喋りやすい空気を作る。

「え〜と今、5年生か。遊びすぎたんか?」と。
一応こちらは身構えて、留年しているオフィシャルな理由を用意していたのだが、
そう言われてしまうと、
「はい、遊びすぎました」と。
余計なことを言わずに素直に認めるしかない。
「俺が聞きたいのは付け焼刃で用意したような、
自己弁護の言葉ではないぞ」という意志を、
いきなりガツンとかまされた形だ。

それまでの面接では、
志望動機はなんですかとか、
自己PRしてくださいとか。
同じようなことばかり聞かれてウンザリしていたのだが、
本部長氏はそういった月並みな質問はしない。
「彼女は?」
「いてないです」
「なんでや?」
「なんでや、と聞かれますと。
モテないというのが一番の理由ですけれども、
より詳細にご説明いたしますと、
淡いハートブレイクストーリーのようなことです」
「ほう、まあ要するに好きな子はおると」
「はい」などと。
単なる雑談なのか、何かを審査されているのか、まるで分からない。
「残り単位が48単位ねえ。とれるか?」
「取れません、とは言えません」
「はは、そらそや」
「今まで盛大にサボってきたのでこれだけ残ってますけれども、
ようやく今、法律学がおもしろくなってきまして。
講義を聴くのも専門書を読むのも、
苦痛じゃないんです。
今までは試験前だけイヤイヤ勉強してきて、
4年で100単位。
年に平均で25単位は取ってきまして。
ざっくり今までの2倍勉強すれば50単位は取れるわけですけれども、
勉強がイヤじゃない今なら、
2倍勉強することぐらいは簡単です」
「なるほど。そう聞くととれそうやな」
「はい」と。
とりあえず、ひと山は越えた気がしたが質問は続く。
「それでは最後に」
本部長氏のメガネの奥がキラリと光った。
「ウチじゃなければアカンという理由を教えてください」

敗北だ。
結局聞きたいのはそれだけだったのだ。
僕は学業を終えたら、
職業に就くべしという社会通念に従って、
やむなく就職活動を始めただけだ。
やりたいことなどない。
それはもちろん、
レンタルビデオの店舗を魅力的にすることでも、
チェーン展開を拡大することでもない。

周りの学生が、
何社も会社説明会を回ったり、
体験就業までして
就職先を入念に吟味していたのは、
単に受かる先を闇雲に探っているわけではなく、
やりたいことを決めて、
それを具体化する作業を兼ねていたわけだ。
レンタルビデオの会社1つ受けるにしても、
自分はどうしてもそこで働きたいという理由を持って、
みんな面接に臨んでいたのだ。
普通は20代ともなれば、この先の人生をどうしたいのか。
答えは持っているのが普通なのだろう。
僕はまったく、そういう段階に達していなかった。

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