|
しばらく前の真夏日の出来事である。
締め切りが迫った某原稿を、そろそろ書き始めるかとPCに向かったところで、
ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
宅配便でも来たかと階段を降りていくと、窓越しに若い男が立っている。
見るからに汚れたTシャツに赤い短パン、足にはゴム草履という、
午前中の来訪者にしては怪しい姿をいぶかりながら、何気なくドアの鍵を開けた。
その途端、
「スミマセン、変な人に追われてるんです。かくまってください!」
叫びざま、鬼気迫る表情で男が家に入ってこようとする。
「勘弁してくれよ!」とっさに拒んで押し戻した。
諦めた男は、駆けてきたらしい方向を何度も見返りながら、反対の方角へ逃げていく。
一瞬の判断で断ったものの、容易ならざる事態だ。
急いで二階へ上がり、追手がいるという方向を見渡してみる。
誰もいない。
夏休みの小学生が、集団でのんびり歩いているだけだ。
その瞬間、痛痒は反転し、被害妄想、覚醒剤中毒という単語が頭をよぎって慌てた。
我が家には、たまたま双子の幼児が二人滞在している。
危険を直感し、迷わず道を隔てた民生委員の I さんの家へ走る。
訳を聞いた I さんの顔がたちまち緊張にこわばる。
ただちに二人で付近の捜索を開始した。
と、道端に横浜ナンバーのワンボックスカーが停まり(当地は湘南ナンバー)、
目つきの鋭い屈強な男が三人、生け垣の陰や物置の裏を覗き込んでいる光景に遭遇する。
耳に挟まれた無線のイヤホンに、神奈川県警の刑事だと見て声をかける。
「誰かを探していますか?」
小さく頷く刑事に、かくかくしかじかと事態を説明する。
聞けば何かの犯罪を犯して(罪名は教えてくれなかった)、
逃亡中の男を追跡しているところなのだという。
クスリとは無縁の男で、差し迫った危険はないし、もう戻ってくることもないと思うが、
念のために戸締りをしっかりしておいてください。
とは言え、単にかくまって欲しかっただけとは思えない。
怪しまれないための着替えを手に入れるつもりだったのか、
あるいは包丁でも奪って武器にするつもりだったのか。
勘繰れば、いくらでも最悪の事態が思い浮かぶ。
じつは私が玄関に出たのは偶然で、
世間知らずの家人や、近ごろとみに耳が遠くなった義父、
あまつさえ幼子を抱いた娘が応対に出ていたらどうなったことだろうと、
今さらながらに、ドッと冷や汗が湧くのを覚えた事件ではあった。
それにしても、数ある住宅が並ぶ当18組自治会のなかで、
よりによって何故我が牡丹亭が選ばれたのか。
どう考えても、その犯人心理が分からないのだが……。w(゜o゜)w
|