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杜庵の月下美人が同時に二輪、ふくよかな薫りを部屋いっぱいに漂わせながら花開いた。
一年のうち一日だけ、それも夜にしか咲かないという、はかなくも華麗な大輪だ。
CXの金曜エンタテイメントで、その一夜だけしか花を咲かせない特性をトリックに使った
『月下美人の殺意』という2Hを書いたのは、何年前のことだったか。
ところで、月下美人と月下氷人は、一字違いでもまったく異なる意味を持つが、
こんないい加減の国からいい加減を広めに来たようなオヤジでも、
その月下氷人(いわゆる仲人ですね)を何度か務めたことがある。
中でももっとも記憶に残る月下氷人役は、今から20年ほど前のこと。
仲の好い友人夫妻に頼まれて、快く介添えを引き受けた半年後、
いよいよその挙式本番が迫ってきた頃になって、微妙に状勢が変わってきた。
私の父親が病に倒れ、明日をもしれぬ身に陥ったのだ。
いざという事態に備えて、新郎新婦には代わりの仲人を考えておくように念を押し、
私は連日の病院通いを続けた。
そして当日、何とか生き長らえた父の看病を妹に任せ、
私と家人は朝早くから東京は品川の某ホテル式場に詰めた。
式はじつにいい雰囲気の元で滞りなく終わった。
と言うより、何をトチ狂ったのか、仲人が三十分に及ぼうかという常軌を逸したあいさつをして、
大幅に式次第が押してしまったのだが……。
式が終わったその足で、私はただちに病院に駆けつけた。
そして父はその夜、私の目の前で最期の一息を大きく吸い込むと、静かに息絶えた。
気の毒だったのは新郎新婦で、
生涯最良の日の翌日に、月下氷人宅の通夜に顔を出さなければならないという、
何とも複雑な心境を味わう仕儀になってしまった。
後年になって、『お日柄もよくご愁傷さま』という映画が公開されたが、
まさにあれを地でいく、『因果はめぐるおぐるまの〜』ふうな貴重な体験ではあった。
但し、体験としてあまりに生々しく、
フィクションとして構築するにはまだ気持ちを整理しきれていない段階で、
「やられた!」と歯噛みしつつ、あの映画には一切関わっていないことをお断りしておく。
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2010年09月10日
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